寝込んしまう
ヒメコは、旅行から戻りハイテンションで数日過ごした。同じ出来事を繰り返し話すのですみれの方は、内容をすっかり覚えてしまった。
スマホで撮った下手な写メは、何度見せられてもよく分からなかった。
「美味しいお料理ばかりで、全部食べてきたわ。」
「はもって食べた事ある?
美味しいのよ。あれは、特別な料理人でないと美味しく仕上がらないのよね。もう一回食べたいわ。何処か近くで食べられるお店ないかしら?
すみれにもご馳走したいわ。」
始めのうちは、すみれも
「頑張って行かれて良かったね。日頃の行いがよかったかな。
健康管理だね。
何が、一番心象的?」など対応していたが、徐々に「うんうん。」だけになった。
そんな返事にヒメコは、不機嫌になることも無く、気にするでもなくまた同じ話を続けた。
異変は、一週間後。
朝、寝室から出て来ない。
恐る恐るすみれが、
「お母さん、どうしたの?」と声をかけてみると、
「胃もたれ。寝てるね。」
「消化薬あるの?」
「有るから大丈夫よ。」
すみれは、安心して出勤したが、帰宅しても変わりなく寝ていた。
「どぉ? 何か食べられる? お豆腐とヨーグルト、バナナ買ってきたわよ。」
「いらないわ。」
「日中何食べたの? お薬飲んだの?」
「薬は、嫌いだから飲んでないの。」
「若い時と違って薬を飲んで早く治すこと考えたら良いと思うよ。辛い状態が長く続くと体力なくなるよ。」
「でもね、一つしかないから、後無いのよ。もしもの時に取って置かないと。」
「いつがもしもの時なの?
今じゃないのかな。
酷くなってから、強い薬を沢山飲むより、早目早目の対応が大事でしょ。薬局なんて近くに有るんだから、買って来るね。」
かつて『薬に騙されるな』という本を読んでから、薬は、「百害あって一利なし」と思い込んでいるヒメ様だった。
「良いのよ、薬は、いらない。」と言うヒメコの声を無視して、夜の薬局へ行った。
すみれは、疲れているのに、空腹を我慢して、お母さんのために買いに行ったのだと、恩着せがましく言い続け、やっとヒメ様に薬を飲ませた。
翌朝は、いつも通りの朝食を食べられ、すみれもほっとしたが、帰宅するとまた寝込んでいた。
「どうしたの?調子戻らないの?お昼ご飯食べられた?」
「大丈夫よ。薬も飲んだし。」
すみれの用意した夕飯は、よく食べたので安心していた。
しかし。
翌日もその翌日もすみれが仕事から戻ると布団にうもれていた。
「何だか起きるの面倒だもの。こうして布団に入っていると楽チン。ずっとこのままがいいわ。夕飯頂くから、出来たら呼んでね。」
そこですみれは、翌日、わざと職場から
「お母さん、悪いけど、仏壇のお花の水替え忘れたの。替えておいてもらえます?」とLINEをした。
少しでも布団から出てもらう作戦だったが、何時間経っても既読にならないので同じ文章をまた送信してみた。これでは、仕事が進まない。
そんなすみれを知っていたかの様に妹のあんずから、
「宅配便でお母さんにお惣菜送るね。お一人様のお昼ご飯のおかずにしてね。」と連絡が来た。
「じゃ、午前中に届く様にしておいてね。」
今どきは、便利で妹の作ったお惣菜が、密閉容器に入って届く。有り難い。
ヒメ様には、丁寧に説明してすみれは、出勤した。
職場からヒメコにLINEをする。
「あんずちゃんからの宅配便届いた?
お惣菜来た?お昼ご飯ちゃんと食べてね。」
11時頃から何度か送るが、なかなか既読にすらならない。12時半過ぎて再び
「宅配便届いた?」と電話をしてみた。LINEに気づかないヒメコだが、電話には、すぐ出るタイプで
「まだよ。」と返事。
すみれは、不信に思った。妹は、宅配便の伝票『午前中配達』にチェックしなかったのだろうか?
すみれは、あんずに
「ごめんね。折角送ってくれたけど、宅配便まだ届いていないみたいなの。夕飯に頂くからね。」LINEを送った。
すぐ既読になり返信も来た。
「さっき、お母さんから電話でお礼言われたよ。食べたみたいよ。」
お読み頂きありがとうございます。