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ヒメコ  作者: 92コ
5/8

ロマンスカーに

「大丈夫ですか?」


 ヒメコには、遠くに声が聞こえた。


 「誰か、お医者さんとか、いませんか?」

 「誰か、車掌呼んでやれ。」

 「どなたか、脈の取れる方いらっしゃいませんか?」


 車内は、ざわつき始めた。


 声の大きな男が、

 「伝言ゲームや。

『病人や車掌来てくれ』と繋げてくれ。」と言った。その声に習い隣の車両へ送られていった。


 ヒメコは、少しもうろうとする中、誰かが譲ってくれた席に座った。 


 誰かが手を握り優しい声で聞いてくる。

「お名前、鈴木さん?

落ち着いて深呼吸して下さいね。大丈夫だからね。

 今日は、どちらへお出かけでしょうか? ゆっくりね。

 深呼吸しましょうね。

お名前は、なんてお読みするのかしら?」


 バックに付いている名札を見ながら、手を握り女性が聞き始めた。


 「いいんですよ。ゆっくりね。一緒に深呼吸しましょうね。」


 手を握ってくれる女性の優しい声につられ、ヒメコは、深呼吸をした。目をそっとあけると沢山の人が、囲んでいた。何故か怖くなり、また目を閉じた。


 「鈴木さん、一緒に深呼吸しましょう。」


 車掌がやって来た。


 「お知り合いですか?」


 その女性は、

 「いえ、違います。以前看護師をしていました。

 この方は、電車を乗り間違えて、少しパニックになったようです。手にロマンスカーの切符を持っていらつしゃるので多分そうだと思います。     


 予定外の事に遭遇するとパニックをおこしてしまう事は、年配の方には、ありがちです。軽い状態に思えますので、徐々に落ち着くと思います。」


 ヒメコに向かって

 「だいぶ落ち着いてきましたね。大丈夫ですよ、脈が落ち着きましたもの。」女性は、続けて、

 「ロマンスカーで小田原へ行く予定ですね。」と聞いた。


 ヒメコは、慌てて言った。

 「違うわ。京都です。」


 すると車掌が、

 「新幹線ですか?

 指定取られましたか?お一人ですか?」


 看護師と車掌が代わる代わる質問する。

 ヒメコは、何度も深呼吸をして混乱する自分を落ち着かせた。そして、バックの中から、旅行のパンフレットを出した。

 二人は、読みながら何やら調べ、二つ目の駅で降り、後から来るロマンスカーに乗り換えれば、新幹線に間に合う事が、分かった。


 看護師が

 「鈴木さん、広い芽でヒメコさんてお読みするのね。パンフレットに書かれているわ。ヒメ様ですね。


 車掌さんが調べてくださったから、この切符のロマンスカーに乗れますね。良かったですね。

 安心したわ。良かったわ。」


 看護師が、自分の事のように

 「安心、良かったわ。」と繰り返すのでヒメコも暗示にかかったように落ち着いてきた。



 「安心。良かったわ。」の声に同調するようにヒメコは、落ち着いてきた。


 「良かったわ。深呼吸しましょうね。大丈夫ですものね。」


 車掌は、

 「連絡を入れておきます。」と車両後方に戻ってしまった。看護師は、


 「私の降りる駅だから、一緒ですね。」


 その看護師は、一緒に下車し、ロマンスカーにヒメコが乗り込むのを見届け、手を振ってくれた。


 ロマンスカーに乗った途端に乗務員が

 「鈴木ヒメコさんですね。お席は、次の車両ですよ。連絡有りましたから、ご案内します。」

 いつもなら、「分かりますよ。年寄り扱いしないで下さい。」とでも言うところだか、素直に後に付いて歩き、お礼を言った。


 「小田原駅降りたら、まっすぐ進んで下さいね。改札でたら、左手です。お気をつけて。」


 周りの乗客は、知らん顔しつつ、しっかり聞いていた。


 「大丈夫ですよ。年寄りじゃあるまいし。」とは、心の中で言っておいた。


 

 終点小田原駅に停まると赤いブラウスの知らない人が、

 「降りましょうか。新幹線で西に向かわれるのかしら?」と声かけられた。


 ヒメコが返事をしないうちに

 「私はね、これから名古屋へ向かうの。名古屋の明治村ってご存知かしら?」


 「ヒメコさんでしょ。私この事覚えていらっしゃる?

 節子よ。

 若い頃、帝国ホテルのオープン見に行ったでしょ。

綺麗だったわね。

 その建物を移築してあるのが、明治村なの。

 行ったことあるのかしら?」


 親しげに年配の女性が、話しかけてきた。節子と言うその人をまるで思い出せないヒメコだが、何となくうなずいた。

 帝国ホテルは、明治か大正時代に創業だから、この人何歳かしら?創業は、私の生まれる前じゃない?


 「あの有名な建築家の作品である帝国ホテルは、壊すわけには、行かなかったのでしょうね。あの緻密な細工は、素敵よね。何回か行ったの。

 でもまた会いたくなるのよね。その魔力に取り憑かれてしまったの私。」


 ヒメコには、さっぱり分からない感覚だった。

ビルに魔力? だいだいこの人、知らない人だもの。この先どう話しを合わせたら良いのだろう。名古屋までずっとこのおしゃべりに付き合うのかしら。

 

 そんなヒメコの不安は、新幹線口であっさり終わった。


 「会えて良かったわ。

 あそこで立っているのが、今の彼氏。ああ見えて、彼氏私より10歳上なの。70代に見えるでしょ。

 では、ごめんなさいね。失礼するわ。楽しいご旅行でありますように。」


 10歳も年上は、どんなご老人かと目で追ったか、見えなかった。そして節子の姿も消えてしまった。


 「幻覚かしら?」とヒメコは、独り言を言いながら、新幹線ホームへ上がった。 


お読み頂きありがとうございます。

続きは、来週末の予定です。

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