叔父がやって来た
数日すると叔父がやってきた。
「お姉さん、入院だって?
いつからだよ。どこが悪いって?
手術するのか?」
「あら、吾郎。
耳が早いね。」
「ハナ子から、電話もらって、驚いて来たんだよ。」
母は、7人兄弟で上から、5番めで長女。吾郎叔父さんは、6番め。ハナ子叔母さんは、末っ子で鹿児島に住んでいる。多分母は、入院予定を妹のハナ子叔母さんに電話で知らせたのでしょう。
母は、安心させるつもりでも、遠くから心配して吾郎さんに連絡したことでしょう。
急な入院の知らせを聞いたら心配すると言うことなど、母は、気がまわらない。
「心配いらないわよ。入院できるのだから。」と着替えを入れたスーツケースを指差した。
吾郎叔父さんにまずお茶を出す。
「すみれ、いんだよ。
気を使わんでくれ。」
「粗茶でございます」
おどけて言ったりする。
母は、これまでの経緯を丁寧に話し始めた。二人とも時間がたっぷりある暮らしをしているので話が、戻りながら飛ばしながら、繰り返しながら進んでいく。
私は、吾郎叔父さんにお茶だけでは、まずいと思いスナック菓子を添えた。さらに仏壇にあったリンゴの皮を剥き始めた。
「そのリンゴは、どこのだ?長野か?」
「青森よ。美味しいのよ。」
「青森のリンゴは、なかなかこの辺で売ってないだろ。」
今や何でも通販で買える。なんて説明は、面倒なので、
「薄く切れば歯に合いますかしら?」
八十歳に近い二人には、リンゴの丸かじりなんてさせられない。リンゴ半分を薄切りにして二人に出した。話は、入院の話に代わって、親戚の近況になっていた。いつもなら、私が主語の無い母の話に付き合うのだが、叔父が来たことで助かる。
私は、残り半分のリンゴを庭を見ながら食べる事にした。
お昼近くなってもエンドレスな2人に
「何かお昼ご飯用意しましょうか?叔父さんどうします?」と聞くと
「いや、俺奢るからお寿司とってよ。美味しいのがいいな。」
気前がいい。
しかしお寿司が届くと
「俺払うぞ。」と言いつつ財布を探す。
「あれ、俺の財布は? あれ上着どうした?」等とあたふたしているので、私が立て替える。
だいたい手ぶらで来たし、上着なんて着て来なかった。
「悪かったな。明日払いに来るからな。すみれちゃんに支払わせる訳にいかんよ。」とペコペコ頭を下げてくれた。
でも待って、これと同じ事が数年前にもあったわね。あの時のお金、まだ返してもらってないわ。
そんな心の声が、漏れないように美味しくお寿司を頂いた。
忘れられる幸せな叔父といつまでも忘れられない気の毒な私。 そんなとこかな。
お寿司代は、そのままだったけれど、数日後、叔父が病院に行き、入院は、見送る事になった。
私が、母に意見を言っても母は、自分の考えを押し通す。以前と意見が変わっても自分の思いを優先する。そんな母の考えを叔父さんは、覆すことが出来るのだから、頼もしさを感じる。
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続きは、また来週の予定です。