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個人企画⑦

ベランダを魔改造してみたら・Ⅳ パイソンカマムシは悪魔を絞る

作者: モモル24号

 

 

 ピンポーン────と、我が家(マンションの一室)のチャイムが鳴る。このご時世、アポなしでチャイムを押すのは、本当に困っている人を救ってはくれない神様への勧誘か、必要ない作業で故障させるのが得意な修理業者か⋯⋯某局の集金。


 ただでさえこのマンションでは変な生き物がベランダからやって来るというのに、玄関からチャイムを鳴らしてやって来るなんて、まとも過ぎて怪しい。


 モニターに映る姿は、エプロン姿の長い銀髪が美しい美少女か美青年。


「⋯⋯奥さま、か弱き者を狙った強盗かもしれません」


 そうね、私はか弱い女性()だもの。夫と子供達が出掛けた機会を狙って来たのかもしれない。


 念の為、ドアチェーンを掛けてからドアを開けた。


 ドアの隙間から姿が見える。



 ⋯⋯変態が立っていた。



 私は慌ててドアを閉める。しかし来訪者は素早く蛇のキッチン手袋をドアの隙間に挟みこんだ──速い!?


「どうして閉めるのですか」


「変態がいたからよ」


「変態⋯⋯どこにも見当たりませんよ」


「私の目の前にいるわ! ハトラ! はっちん!!」


 我が家の来客は、無駄にしつこくしぶとい。お気に入りのベランダを頻繁に荒らしに来るドバトの愚連隊は、元々来訪者(用心棒)の彼女たちにに任せてある。


 度々蜂蜜酒をねだりに来る非番のサンタなどは、はっちんが撃退した。赤服着てないサンタなんて不審者のおっさんだもん。仕方ないわよね。


 我が家に侵入しようとする、奇妙な虫の絵の水着らしきものを着た変態もきっと同類ね。引き締まった良い体だけど⋯⋯胸はともかく股間の膨らみは、ね。美人なので、余計に目を引く。


「⋯⋯隣に越して来たパイソン・菊池です。これお近づきの印にどうぞ」


「あら、やだ。お隣さんなの。早く言ってよね」


「素敵なベランダを見て決めたのです」


 まさかのベランダ崇拝者だった。侵入したわけではないからまだマシよね。


「引っ越しの荷物が届いてなくて、今あるのはわずかな私物だけだったのです」


「それは大変ね」


「ええ。荷物届いた際は、ご迷惑かけるかと思います」


 奇妙な隣人はそう言って挨拶を簡単に済ませ、手土産を私へ渡すと帰っていった。


 格好はともかく、引っ越しの挨拶に来ただけのまともな人だった。先入観にとらわれて、早とちりはいけないね。


「奥さま、コレ重い⋯⋯」


「たしかに重いわ。瓶かしらね」


 丁寧に割れないように包み込まれた品の中身は、たぶん液体の入った瓶だ。


 わくわくしながらはっちんがテーブルに置いた品に寄り、顔を顰めた。


「どうしたの、はっちん?」


 嫌な予感がしたので、包みを解いて中身を確認する。


「────!?」


 ⋯⋯蛇だ。ハブじゃない、マムシが漬けられたマムシ酒だ。パイソンがマムシ酒を持って来た。


 私も夫も、お酒は嗜むけれど⋯⋯これは無理だ。好意や善意でいただいたものだけに、処分に困るリストに入りそうだ。


「奥さま、冷静過ぎ」


「誰のせいよ」


 魔改造されたベランダへやって来る様々な珍客たちのおかげで、変態だろうが、マムシだろうが耐性がついたようね。


 私とは性への認識や価値観や好みが違うだけ。服の趣味が独特なだけで、隣人は悪い人ではないとわかった。


 マムシ酒は彼女? のお気に入りらしい。私は見た目が苦手と正直に伝えた所、わかってくれた。


 いただいたマムシ酒は、出来たばかりのものだ。数年寝かせる必要もあるし、薬用効果を期待して梅酒や蜂蜜酒と一緒に大切にしまっておいた。


 パイソンかマムシか。我が家の隣へやって来たパイソン・菊池さんは、虫ではなくマムシが好きなおねえさんだったよ。



 ────後日、サタンな顔したサンタがマンション屋上の酒蔵で目を回しているのが発見された。保管されていたマムシ酒を飲みやがったな、アイツ。泥棒より厄介な侵入スキル⋯⋯イベント日(クリスマス)でもないし、普通に犯罪だよね。


 薬用になると言っても高濃度のアルコールに漬けたマムシ酒。悪さする酒泥棒に罰を与えてくれた。


 トナカイ警察がやって来て、サンタを踏みつけ、めっちゃ謝られた。夢を与えるアイドル(崇拝の対象)の仕事の裏側なんて、こんなものよね⋯⋯なんて嫌な夢を見せつけられた気分。


 あんな酔っ払いでもサンタの国の偉い人なので逮捕されないらしい。


 ⋯⋯ケッ、上級国民かよ、などと思いはしたけどさ、私のベランダへやって来るサンタ(こいつ)はいつも惨めでみっともない姿で帰ってゆくのよね。


 今回も、大切にしまっていたマムシ酒を飲み干されて一番怒った、隣人のパイソンおねえさんがいる。恨み晴らしますな音楽聞こえてきそうだ。


「たっぷり絞り出してあげますよ」


 マムシより長い鞭を手に、ニッコリ笑うおねえさん。さようなら、サタンなサンタさん。悪さをしたあなた(そっち)のせいよ。


 丸々育ったクマさんのようなサンタはガマの油のようにカマなおねえさんにたっぷり絞られトナカイ達に返品される事になるのだった。


「このサーモン、最高ね」


 サーモンのマリネをつまみに、ベランダで優雅な一時を堪能する私。マムシ酒のおかげで、クリスマスに関係なく北欧の珍味が届くようになった。


 めでたし、めでたし⋯⋯かな。


 


挿絵(By みてみん)

・コロン様よりいただきましたFA、ハニトラ女王蜂「ハトラ」


挿絵(By みてみん)

・幻邏さまよりいただきましたFA、すずめばちーの「はっちん」


挿絵(By みてみん)

・酒祭り企画内企画「パイソンカマムシ」イメージイラスト。


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― 新着の感想 ―
コロン様の「酒祭り」企画より読ませていただきました。 なんともシュールな世界観がたまりませんな〜(笑)。 おおっ!パイソンかマムシ説を採用ですね。 いや、パイソンがマムシを持ってきた説ですな。 こい…
コロンさまの割烹でパイソンカマムシのワードが頭から離れなくなりまして……! なんだろう……と離れないまま数日過ごしているうちに、素敵なイラスト割烹が上がっていたので、気になってまいりました。 見た目は…
「類は友を呼ぶ」と申しますが、これはまた実に強烈な個性の持ち主がお隣さんとして引っ越して来ましたね。 引っ越し蕎麦やタオルの代わりにマムシ酒を手土産にくれるのは、私としては実に羨ましいですね。 マムシ…
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