番外編2
とある休日の昼下がり。
この国でも5本の指に入るくらい、高貴で……本来ならば私が気軽に話しかけられる相手ではないお2人に、私は個人的な相談をしていた。
「すみません、こんな事のためにお2人の貴重な時間をもらってしまって……それに、場所の提供まで」
「気にしないでちょうだい! ミリエットは私の1番の友人だもの。相談に乗るくらい当然よ」
クラリーズ様は、私にニッコリと微笑んでくれる。
横でそれを見ていたオリヴァン様も、そんな彼女の様子を愛おしそうに見つめてから、同意してくれた。
「あぁ。それに、君の婚約者も僕の友人だ。2人の間の問題となれば、僕が力になれる部分もあると思うよ」
「ありがとうございます」
そう、今回2人を呼んだのは、ずばり私の婚約者、エドガー様のことに関する話をするためだ。
「で、エドガー様にもっと積極的にグイグイ来て欲しいって話だったかしら?」
「そ、そんな直接的な表現をしなくても……! でも、言いたいことはそんな感じです。とても私のことを大切にしてくれていることは、痛いほど伝わってくるのですが……」
「もっと言葉や行動で愛を伝えて欲しいってことだね」
オリヴァン様の歯に衣着せぬ物言いに、顔が熱くなるのがわかった。
「その、恥ずかしいことを聞くのだけれど……エドガー様とはどこまで進んでいるの?」
「手を……繋いだところまで、です」
私の回答に、オリヴァン様とクラリーズ様は顔を見合わせる。
そして、オリヴァン様はあきれたような顔をして呟いた。
「まさかエドガーがそこまで奥手だったなんて……」
そして、ごそごそとポケットから何か紙のようなものを取り出すと、私とクラリーズ様に向かって話を始める。
「クラリーズから事前に大体の相談内容は聞いていたから、用意しておいたんだ」
受け取った紙に目を通す。
この紙についてはクラリーズ様も何も聞いていなかったみたいで、一緒に覗き込んできた。
『「いい景色ですね。あなたと一緒だからでしょうか?」
「そう思ってくれているのなら、俺も嬉しいよ」
夕日を背に、2人の顔は近づいていく。
そっと目を閉じると、初めてのぬくもりが唇に触れた……』
「な、なにこの恋愛小説の一節みたいな文字の並びは」
私が言いたかったことを、クラリーズ様が代弁してくれる。
「これこそ、エドガーの理想的状況ってこと。この間”うっかり”彼の鞄の奥底にあった恋愛小説を開いちゃって、”うっかり”付箋がついているところを見ちゃったんだよね。これはその部分の写し。」
「なるほど確かに、付箋までつけているってことは、こういったことを自分の婚約者としたいってことよね……って、オリヴァン様、さすがに人の鞄をあさるのは良くないのでは?」
クラリーズ様がオリヴァン様を咎めている横で、私は1人安心していた。
良かった、エドガー様も、関係を進めたいって思ってくれていたんだ……
「はぁ、何はともあれ、この情報を元に、『ミリエットとエドガー様の距離を近づける大作戦』の計画を立てていくわよ!」
何やら物騒な計画が始まりそう……でも、相談したのは私だ。
この勢いにのって、私も一歩踏み出さなきゃ!
◇◇◇
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
影が伸び、夕暮れが迫る中、普段の私なら絶対に言わないわがままを言ってみる。
「も、もう少しだけ……一緒にいたい、です。だめ、ですか?」
ここでおとなしく帰るのがいつもの私。
でも今日は、クラリーズ様とオリヴァン様に相談して立てた計画の実行日だ。
とはいえ、それは至って単純。
夕日の綺麗な場所に、エドガー様と2人で行って……キス、するのだ。
単純ではあるけれど、とても勇気の要ること。
彼の目を直接見ながらお願いすることはできず、私はそっと袖を引いてうつむいた。
「……」
しばらく無言でいる彼の様子に、やはりダメだっただろうか、と思い始めたその時、短く一言、
「もちろん」
と返事が聞こえた。
嬉しくて顔をあげれば、そこには顔を少し赤らめたエドガー様がいる。
もしかしたら、日が暮れてきたせいかもしれないけれど。
私は事前に調査していた、綺麗な街並みと夕焼けが見える高台の方へと、エドガー様の手を引っ張って連れていく。
途中の上り坂で、私が少し息をあげれば、彼はリードするように、私の手を引っ張ってくれた。
言葉や行動で愛を伝えられることはあまりないけれど、こうして行動の節々に優しさは感じる。
今まではそれに満足していた。
でも今日は、一歩踏み出すんだ。
無言だけれど心地よい沈黙をかみしめながら、私たちは目的地に着いた。
「ここに来たかったのか?」
逆光のなか、彼は私の方を振り向き、そう尋ねる。
「はい、とても綺麗な景色だと、クラリーズ様とオリヴァン様がおっしゃっていたので、私も来てみたかったんです……エドガー様と」
彼と一緒に来たかった。
そう伝えると、あまり表情の動かない彼が、嬉しそうな顔をしたのが見えたような気がした。
「そうか」
そのまま、またしても無言で夕焼けを見つめること数分。
穏やかで心地よい雰囲気とは裏腹に、私は焦り始めていた。
もうすぐ日が暮れてしまう。
なんとかして、自然に、キスにつなげて……
「エ、エドガー様!」
突然大きな声を出した私に驚きながらも、彼は私の方を向いた。
……今がチャンスだ!
「どうした?」
自然になんて、できるわけがない。
そう言った彼の唇をめがけて、私は顔をグイっと近づける。
しかし……
「いたっ!」
私の唇は彼のそれに当たることはなく、ただお互いの鼻が勢いよくぶつかった。
雰囲気などぶち壊しで、エドガー様は少し笑っている。
……私のうっかりはどんな時でも発動することを、完全に忘れていた。
「ははっ、何をするのかと思えば……」
彼はそこで一旦言葉を止めると、真剣な雰囲気をまとって私の名前を呼ぶ。
「ミリエット」
普段こうして名前を呼ばれることはあまりない。
その分特別甘く響いたその声に顔をあげると。
お互いの唇が重なった。
この後このシーンに見覚えがありすぎたエドガーがミリエットに優しく事情を問いかけて、オリヴァンに文句を言いに行きます(-.-)
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