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……そんなこんなあって7年が経った。

私は15歳になり、ついに精霊使いとして神殿での公務も始めた。

幸いなことに、いまだに私が「偽の精霊使い」であることはばれていない。

そして、着々と乙女ゲームの舞台である学園への入学日が迫っている。


入学するのは18歳になる年。

入学して、隣国へ留学へ行ってしまえば、私はもう自由の身だ。


そのためにも、ここからの3年間と、学園へ入学してからの日々の身の振り方は重要……よし、このまま頑張ろう!


「クラリーズ様、本日もご公務をありがとうございました。おかげで私たちも、国民の皆さんも安心して日々過ごすことができます」


「いえいえ、これが私の仕事ですから」


「とはいえ、国全体を覆う結界と加護となれば、精霊使いと言えど、魔力の消費も激しいでしょう。それだけでなく、神殿に来た方の悩みを聞いて、軽度なものなら魔法で解決してくださったり、魔法で蔵書の整理と掃除を手伝ってくださったり、この前なんて飼い猫探しまで魔法で……」


「ちょっとちょっと! 私は大丈夫ですって!」


このままだと永遠と話しそうだったので、一度シスターを止めると、なぜかムッとした顔をされた。


「とにかく、クラリーズ様の誠実で真面目で献身的なところはとても素敵ですが、ちゃんと休んでくださいね。でないと私たち、心配でなりません」


「わかったわ、でも心配しないで。私も自分のできる範囲でやっているから」


なんとか納得してもらって、私は神殿の外へ出る。

これも、偽の精霊使いとばれないように、幼い頃から魔法の練習を積んできたおかげ。

確かに私は精霊使いではない、ただの一般人なので、たくさん魔法を使うと疲れる。

でも、嘘ついている手前、公務をさぼるなんて許されないし、困っている人の手伝いくらいしないと、私の良心も許さない。


それになんだかんだ、頑張って練習してきた魔法が、人の役に立つのは嬉しい。


「んー……!」


神殿のシンメトリーな庭で思い切り伸びをすると、疲れていた体も少しマシになったように思う。


「さて、今日はこの後暇だし、家に帰って魔法の練習でもしようかな……それとも明日のお茶会に向けて、他の令嬢たちと話せそうな話題を探しに街を歩こうかな……」


どちらにせよ、神殿の前で待っている家の馬車に乗ってから考えよう。

そう思ってそちらへ向かっていると、なにやら神殿の門のあたりから話し声が聞こえることに気が付いた。


「オリヴァン様! ようこそお越しくださいました、神殿にはどのようなご用事で?」


「急に来てしまってすまない。実は私の婚約者を迎えに来たんだ。神殿にはまた後日うかがわせてもらうよ」


甲冑のぶつかる音……おそらく、オリヴァンと話している門番が礼をしたのだろう。

私は思わず足を止めて、茂みの陰から二人の話している声に耳をそばだてる。


「はい、承知いたしました。何事もなければ、おそらくクラリーズ様はもうじきこちらへ到着なさると思います」


「あぁ、大体このあたりの時間だろうと思って来たが、合っているみたいで良かった」


「ただ……クラリーズ様はとても献身的な方であられるので、予定外の業務をこなされていることも多く……少々時間がかかるかもしれません」


どうやら門番さんは私の株を上げてくれているようだ。

これで少しでもオリヴァンの警戒対象から外れることができれば良いのだけれど……


婚約してからの7年間。

悪役令嬢だから、そんなにオリヴァンに構われることはないだろうと思っていたが、それは大間違いだった。

時間の隙を縫っては私のもとへやってきて一緒に遊んでみたり、贈り物をしてくれたり、更には「愛しているよ」だなんて……


そこまで考えたところで、顔に熱が集まってしまったので、これ以上考えることをやめた。

そもそも、出会ったときから私が「精霊使い」かどうかを疑っていそうな彼にとって、私という存在は一番重要な警戒対象だ。

きっと、接触して、仲を深めておくに越したことはないのだろう。


そして今日はそんな彼と、会う約束など一切していない。

……一体何の用だろうか?


「へぇ、クラリーズは公務以外も頑張っているんだ。倒れたりとか、体調が悪くなったりとかしていないかな?」


「いえ、そのような話は聞いたことがございません。さすがは精霊使いであられます」


「そっか、それならいいんだ」


こ、これは……

偽の精霊使いなら魔力不足で倒れているだろうから、という詮索!?

よかった……もし魔法の練習を怠って、公務ごときで倒れていたら、偽物だということがオリヴァンにばれるところだった……。


このままここに隠れていても埒が明かない。

オリヴァンと門番の話がひと段落したところで、私は茂みの陰から出ることにした。


「あ、あら? オリヴァン様、どうしてここに?」


今来ましたよ、というふうを装って、二人の前へと歩み出る。


「クラリーズ様! 本日もありがとうございます」


「当然のことをしているまでよ」


門番は一礼すると、そのまま近くの詰所へと入っていった。

きっと気を使ってくれたのだろう。


「やぁクラリーズ。最近はお互いに忙しくて、なかなか会うことができていなかっただろう? だから、どうしても会いたくなってしまって……少し業務を前倒しして終わらせてきたんだ。君もこれからの予定は空いているよね?」


なぜか予定が把握されている……!

大方、お父様か誰かに事前に連絡していたのだろうけれど。


「えぇ、空いていますが……ですが、お忙しい中でのせっかくの空き時間ならば、オリヴァン様も私と過ごすより、もっと自分の好きなことをされたほうが……」


「何言ってるの? 君とデートすることが僕の何よりの癒しになるよ」


またそんな甘い言葉を飄々とした顔で言っている。

きっと彼にとって、私と接触することも業務なのだ。

ここで断ってしまえば、彼の業務予定も狂ってしまうだろう。


オリヴァンは私の天敵ではあるが、前世の推しでもあるし、困らせたい訳ではない。

それに彼とデートをすると考えれば……うん、悪くない、いやとっても良い一日の過ごし方だ。


ボロを出さなければ……少しくらいこの「偽」のデートを楽しんでも、いいよね?


「じゃあ、その、「デート」よろしくお願いします」


改めて言葉にすると、なんだか恥ずかしい。

私は照れてしまって、少し顔をそむけた。


「ありがとう、それじゃあ行こうか」


照れてしまった私の様子を見て、彼はなぜか満足気に笑った。

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