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「兄さん、僕だ。開けてくれるかな?」


「やっぱり来たな」


至って冷静そうに呟くディナルド様の横で、私はドキドキしていた。

まさか本当にオリヴァンが来るなんて……


「君はここに座って待っていてくれ」


と指さされた先は、ディナルド様のベッド。


「何故ここに……?」


「その方が、『何かあった』感じが出るだろう?」


「なな、何かあった、って!!」


その言葉の意味を理解した瞬間、恥ずかしさで顔に熱が集まる。


「弟が嫉妬してくれないと、意味が無いからな。さて、俺は少し話してくる」


ディナルド様は私の元を離れ、部屋のドアに手をかけた。


「オリヴァン、どうした? 何かあったのか?」


離れているけれど、2人の声は聞こえてくる。


「単刀直入に言おう。ここに『僕の婚約者』がいるよね?」


いつもよりワントーン低い声。

まるで怒りを抑えているみたいだ。


それに対してディナルド様は、先程の穏やかな雰囲気とは打って変わって、冷たく返す。


「そうだとしたら、何か?」


「……いるの?」


「……」


しばらく沈黙が続く。


それを先に破ったのはオリヴァンの方だった。


「僕も、兄さんには幸せになって欲しいと思ってきたよ。でも、クラリーズだけはダメだ! 僕がどれだけ彼女のことが好きか、兄さんは知っているでしょう?」


「あぁ、そうだな」


「本当に、本当にクラリーズじゃなきゃダメなの? ……他の男と兄さんは違う。この国で唯一、僕よりも身分が高い……兄さんが本気でクラリーズとの結婚を望んだら、僕は、僕は……」


問いかけというよりも絶望に近い独り言。

しばらくまた黙り込んだ後、次は勢いよく話し始めた。


「ねえ、クラリーズ、いるんだよね? 一度話をさせてほしい! そのくらいならいいだろ、兄さん」


焦ったような声。

私はまだ頭の整理が追いついていないけれど、大好きな人の必死な声に応えようと、ベッドから立ち上がろうとする。


でもディナルド様は、まだそこにいろと目線をよこした。


まさか、まだ私が、オリヴァンの気持ちを理解できていないと思っているのだろうか?

多少混乱はしているけれど、もう十分理解した。



彼は、私のことが好きなんだ。



しかし、終わりにしましょう、と声をかけようとしたとき、耳をつんざくような爆音が鳴り響いた。

一瞬ディナルド様は爆発の煙に包まれ見えなくなる。


その数秒後、私の視界には、木っ端みじんにされた部屋の扉、らしくなく呆然としているディナルド様、そして……


自分で扉を爆破したのに、何故か目を見開いているオリヴァンの姿が映った。


「クラリーズ」


私が突然のこの状況に驚いているうちに、オリヴァンの瞳から光が消えていく。


「ずっと、僕の隣にいてくれるって……言ったよね? 君に負担をかけたのかな? それなら、これから解決しよう。君がこんなに責任の重い暮らしは辛いっていうのなら、僕も一緒に田舎に行くよ。精霊使いだからって、僕の婚約者だからって、無理する必要はない」


いつになく冷静さを欠いて話続けていた彼だったけれど、突然何かに気が付いたかのように押し黙る。


そして、元々光が消えていた瞳が更に暗くなった。


「……兄さんに、体を許したの? 兄さんのことを好きになったから、僕の隣にはいてくれないってこと?」


「ち、違うわ! 私はあなたのことが好きで」


「それ以上言わないで! ……僕がむなしくなるだけだから。もし僕がコレット嬢だったら、嫉妬で君のことを殺しているかもね……兄さんと仲良くしているクラリーズなんて見たくないけど、君には幸せになってほしいんだ。でもそんな状況で、このまま過ごすなんて耐えられない。だから、代わりに僕が……」


ディナルド様の枕元にある護身用の剣に、オリヴァンの手が伸びる。

鞘からそれを取り出すと、刃の部分を自分の方へと向ける。


その後彼が何をするつもりなのかを理解した瞬間、それまで混乱で、ほぼ言葉も発せなかった私の体が、反射で彼の元へ動き出した。




「やめて!!!!」

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