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ミランを案内し終わり、校門で別れたあと、私は久しぶりにクラスに顔を出した。
私のクラスは文化祭の準備がかなり押しているようで、忙しそうにしていたけれど、みんな私の顔を見て喜んでくれる。
中でもやはり、ミリエットの喜び方は凄まじく、私が来た瞬間、持っていたものを全て落としながら、こちらへ駆け寄ってきた。
その小動物感たるや……私はエドガーがミリエットのことを溺愛する理由が、改めてわかったような気がした。
でも、1番驚いたのは、エドガーの反応かもしれない。
気分転換にと、自分のクラスを抜け出して、こちらのクラスまで来た彼は、私を前にして、
「ご無事で何よりです」
と言った後、ホロリと涙をこぼしたのだ!
これにはクラスも静まり返り、ミリエットが慌ててハンカチを渡す。
「あなたは、俺とミリエットの背中を押してくれた、恩人であり、友人ですから」
その言葉を聞いて、私も結構彼と仲良くなれていたのだな、と少し嬉しい気分になった。
さて、そんな気分の私だけれど、心の中ではまだ引っかかるものがあった。
それは勿論、先程のミランからのアドバイスである。
「もっとあいつと親しい人に聞いてみたらどうだ?」
オリヴァンが本当に私のことを好いてくれているのかどうか。
直接聞く勇気はない。
だからこそ、ミランのアドバイス通り、オリヴァンととても親しいであろう人に、相談しに行くことにした。
エドガーの件で静まり返っていたクラスも元に戻り始め、ミリエットとエドガーが楽しく話し出すのを見届けてから、私はそっと教室を出る。
オリヴァンのクラスの教室からは、
「それはいくら何でも無茶苦茶すぎます、オリヴァン様! そんな交渉、通るはずがありません!」
「やってみないと分からないって、何回も言っているじゃないか……はぁ、これじゃあ堂々巡りだよ」
「それに交渉が成立したとして、あの方にかかる負担を考えているんですか?」
「それは……僕もサポートするから」
という会話が聞こえてくる。
どうやら長い間この調子のようで、疲れた顔をした人たちが何人か教室から出てくるのが見えた。
エドガーもこの雰囲気から逃げ出したくて、私たちのクラスまでやってきたのだろう。
私としても内容は気になったが、今は優先すべきことがある。
そう思って私は階段を登った。
「分かった、僕は少し校内を散歩してくるよ。お互い1度頭を冷やそう」
そう言って、オリヴァンが教室を出たことなんて、私は気がついていなかったのだ。
◇◇◇
「というわけなのですが」
どう思いますか? と私が尋ねると、オリヴァンの兄であるディナルド様は、なんとも言えない顔になった。
「そうだな。俺からの回答としては、弟はずっと君のことが好きで、その想いも君に伝わっているものだと思っている、といったところかな」
「えっ、私に伝わっているというのは……」
「あいつは自分の好きという感情が、君に伝わっていると思っている。俺も……てっきりそうだと思っていたのだが」
ここまで拗れているとは、と彼は、ほぼミランと同じ反応を私に返す。
こんなにプライベートな話で、ディナルド様を呼び出すのは本当に申し訳なかったけれど、おかげで衝撃的な事実を知ることができた。
オリヴァンは小さい頃から私のことが好きで……
ずっと私と両思いだと思って、これまで過ごしてきたということで……
そのことに気がついた途端、自分の顔が赤くなるのを感じる。
しかし、先程感じた違和感はまだ残っていた。
そう、彼が何度もネックレスを奪おうとしてきたことだ。
ディナルド様は、私が実は今まで偽物の精霊使いだったことを知らない。
だから、これについて聞くことはできなかった。
それに、もしかすると、実の兄のディナルド様にまで、本当に私のことが好きであるかのように演技して、騙していたのかもしれない。
表裏の激しいオリヴァンなら、そのくらいやってのける。
私の顔が曇ったのがわかったのか、彼は心配そうに覗き込んでくる。
「まだ不安か?」
「……はい、正直自分が彼に愛されているだなんて……あまり想像できなくて」
「そうか……うーん、この手はあまり使いたくなかったが……そうだな、目に見える行動の方が、俺の言葉よりも信じられるだろう」
そこで一旦言葉を区切り、彼は勢いよく息を吸い込む。
「今夜、俺の部屋へおいで」
プライベートな話だったこともあり、私たちは校舎の隅へ移動して話していた。
それでも誰かに聞かれるのは気まずかったので、声量も抑えめだったのだけれど……
突然ボリュームアップしたディナルド様の声に、思わず体がはねる。
「ど、どうして……」
私は小声で理由を尋ねようとするも、目の前の強い意志を持った目に竦んだ。
「は、はい。分かりました!」
つられて大きな声で、私も元気よく返事をしたことで、私は今夜何故か、ディナルド様の部屋へ行くことになってしまった。
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