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目の前で起こるであろう光景を見ていられず、私は思わずぎゅっと目を閉じた。
次の瞬間には、誰かが倒れこむ音。
瞑ってしまった目を開けると、そこには仰向けで倒れ、大けがを負っているオリヴァンの姿があった。
大好きな彼の見るも無残な姿に、私はまた言葉もでなければ、足も動かなくなってしまう。
……いや、このままじゃだめ! 動かなくちゃ!
私は本物の精霊使いではないとはいえ、こういう時のための魔法なのだから!
何故か目の前の魔物は、オリヴァンを襲った後、何もせずただ立ち尽くしているので、私は急いで彼の方へ向かおうとする。
しかし、私より先に動いた人物がいた。
「オリヴァン様!!!」
私の後ろにいたコレットが、勢いよくオリヴァンのもとへ駆け寄る。
そしてそのついでとでもいうように、特に何もしてこなくなった魔物に対して、魔法で光線を放ち、一撃で倒してしまった。
オリヴァンのそばで、思いつめた表情をするコレット。
その様子は……この状況は、どこかで見たことがあるような気がした。
どこかで……?
「……!!」
ようやく思い出した。
これはまさに、原作乙女ゲームで、ヒロインであるコレットが、精霊使いとして覚醒するシーンだ。
そして、偽物の精霊使いであることがバレたクラリーズはそのまま逮捕されて……
目の前でコレットの周囲が明るく光りだす。
そして数秒後、その光が収まる頃には、彼女の胸元にネックレスがあった。
そしてその周囲には、可愛らしい精霊たちの姿。
更には……
「……ん?」
意識はまだもうろうとした様子だけれど、完全に傷が癒えたオリヴァンが目を覚ました。
魔物が倒されたことにより、野次馬たちも再び私たちを取り囲んでいる。
「オリヴァン様!! 良かった、本当に良かった……あなたを失ってしまうことを考えたら、私、私……!」
泣き出すコレットを、オリヴァンはまだ状況を理解できていない様子で、ぼんやりと見つめている。
「……? 私、精霊使い? みたいです。でもそれなら……今までずっと自分こそ精霊使いだと名乗っていたクラリーズ様は、一体何者なのでしょうか?」
コレットが私を指さし、可愛らしく首をかしげる。
それを見た周囲の人々はヒソヒソと話し始める。
「そういえば、精霊使いの名前はクラリーズという方だ、って聞いたことがあるよね」
「あの人がそうみたいね」
「でも、精霊使いが2人もいるなんて、そんな馬鹿な事があるわけないだろう? てことは、今そこにいるコレットって子が本物で、あいつは偽物なんじゃないか?」
「あの子の周りには精霊がいるけれど、あの人はただネックレスをつけているだけよ! 今まで私たちのことを騙していたのね!」
民衆の声はだんだんと大きくなり、
「あいつを捕まえろ!」
「この偽物の嘘つきめ!」
と大騒ぎになっていく。
魔物の出現に対応するために、近くに騎士団の人達も集まってきており、急いで私の方へと、盾と槍をもって近づいてくる。
私といえば……何故かいまだに胸元に残っている、無反応のネックレスを握りしめ、今までずっと逃げてきたことが、最悪な形で実現したことに、ショックを受けていた。
……こうならないために、私はここまでずっと努力してきたのに。
何もかもが失敗に終わってしまった。
そもそも私の持っていたネックレス自体が偽物だったのかもしれない。
原作ではコレットの元へ移動したネックレスだけれど、今なお私の元に残っている。
何もかもが嘘で、意味のないこと。
精霊使いであることも、ここまでの努力も、オリヴァンからの愛の言葉も。
そんななかで唯一本物だったミリエットの、
「やめてください! クラリーズ様を連れて行かないで! あの方の話もちゃんと聞いて!」
と叫ぶ声に少しだけ救われながらも、私はおとなしく騎士団に連行されたのだった。
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