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「え、ええと……」
私の想定よりも初手から距離が近かったことから、思わず固まってしまう。
そんな私を見て、なぜかオリヴァンは楽しそうに笑っていた。
この場は婚約するかどうかの対話の場所ではなかっただろうか?
やっぱり彼の言い方だと、もう既に婚約は決定事項かのように感じられる気がする。
「すまない、最初から距離が近かったね。そんなに驚かせるつもりはなかったんだ」
さすが、思わせぶりな態度をとって情報を引き出す諜報員、人たらしなところは将来有望である。
いや、将来というよりもう既に諜報員なのかもしれない。
だって、婚約の話から一か月、本来なら三か月も予定が合わないなんて、相手は王子と言えど、正直異常だ。
おそらく、この幼い時期から色々と仕込まれているに違いない。
「……?」
私の反応がないことに、オリヴァンは不思議そうな顔をしていた。
「す、すみません。色々考えておりました……その、本当に私なんかがオリヴァン様の婚約者になってもいいのかな、と」
だからもう一度、本当に婚約してよいかどうか話し合いませんか?
と、言葉を続けようとしたところ、彼は食い気味に言葉をかぶせてきた。
「それは困るな……だってほら、君は精霊使いじゃないか。むしろ僕のほうが釣り合わないくらいさ。それに……」
「それに……?」
「僕個人としても君に惹かれているんだ。だから、婚約の話はこのままにしてくれるとうれしいな」
うれしいな、なんて言っておきながら、ほぼ私が断れないような雰囲気を醸し出している。
そして、そもそもここで断れるような性格だったら、私は精霊使いであると嘘をついていない。
つまり……詰みである。
もしかしたら原作では、クラリーズのわがままで、オリヴァンとの婚約を取り付けただけなのではないかとも思っていたけれど、そんなことはないみたいだった。
やはり、国王も精霊使いである私のことは囲っておきたいということだろう。
それに、「君に惹かれている」だなんて……嘘だとしても、前世の推しからの甘い言葉は私の思考を狂わせる。
仕方ない。
オリヴァンの前でボロを出さないようにするという今後のミッションが追加されるだけ……だ!
私が婚約を承諾しようと口を開きかけた時、オリヴァンはもう一度話始めた。
「それとも、実は精霊使い……」
「……」
「としての自信がない、とか?」
そんな妙なところで言葉を切らないでほしい!
「精霊使いではない」と言われるのかと思って、今の一瞬で冷や汗が止まらなくなってしまった。
実際、少し私に鎌をかけてみたのかもしれない。
にこにこと笑いながらも、目はしっかりと私をとらえていた。
……ばれるのは時間の問題かも。
こんなに勘の鋭い人の婚約者になったら、いくら精霊使いではないことを隠し通そうとしたって、原作通り見抜かれてしまうに違いない。
うーん、やっぱりお断りしよう!
そう思って口を開こうとしたが、オリヴァンは私の両手をそっと取り、更に言葉を重ねてきた。
「何にせよ、どんな君でも僕が守ってみせるから、婚約しよう?」
「は、はい!!」
あぁ、顔と言葉の良さに負けてしまった……。
今世では天敵でも、前世では推し。
反射で承諾してしまったのはしょうがない……よね?
「もっと君のことを知りたいな、クラリーズと呼んでもいいかな?」
「は、はい」
「そんなに硬くならないで、せっかくだしいろいろ話そうか」
ここからお父様が再び部屋へ戻ってくるまで、私の冷や汗が止まらなかったのは言うまでもない。
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