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「いい天気ですね……絶好の気分転換日和です」
「そうね……ねぇ、まずはあのお店を見に行かない?」
「いいですね! 小物が可愛いです」
私はミリエットと一緒に、国境付近の街へ遊びに来ている。
といっても、遊びは第二の目的で、本当の目的は……このまま国外へ逃げることだ。
両親にも、「ミリエットと遊びに行ってくる」と嘘をついて、朝一番に家を抜け出してきた。
この前逃亡計画を立てたときと同じように、本当の事を伝えたい気持ちは山々だったけれど……
どうやったのかは知らないが、オリヴァンが両親を丸め込んだみたいだったから、嘘をつくしかなかった。
「オリヴァン王子、本当にあなたのことを考えてくれているわね……多分、精霊使いに関する本当の話をしても、彼なら受け入れてくれると思うわよ」
「そうだな。あれほどクラリーズに夢中になっているのだから、むしろ相談に乗ってくれると思うな、僕も」
「そうよね、あなた! クラリーズももっと、愛の力ってものを信じてみたらどうかしら?」
「……」
といった感じで、オリヴァンは私の両親からずいぶんと信頼を得たみたいだったのだ。
まぁ、両親が勝手に、彼に私の真実を言わなかっただけましか。
オリヴァン的には、私の両親から、証言を引き出したかったのかもしれないけれど。
そんなこんなで、私はミリエット以外、この計画に関することは誰にも言っていない。
文化祭の準備も、結局途中で放り出すことになってしまって、クラスメイトの皆にも申し訳ない。
公務は……前逃げ出した時に、直近1年分は終わらせてあるから、特に問題はないかな。
私が無事に逃げた後、コレットが精霊使いとして覚醒すれば、神殿やその他の事業も安泰だろう。
「また難しいことを考えていますか? 今日は、いろいろ忘れて楽しみましょうって話をしたじゃないですか!」
「そうだったわね……じゃあ、さっそくお店の中に入りましょう!」
そこからは、これまでのこと、そしてこれからのことは一旦忘れて、ミリエットとのお出かけを楽しんだ。
小物を多く取り扱っているお店では、ペアになっている写真立てを見つけたので、ミリエットにプレゼントした。
「エドガー様と一緒に使ってちょうだい」
と言えば、顔を真っ赤に染めながら、嬉しそうにお礼を言われた。
私はこのまま行方不明になる予定なので、持ち運ぶものを増やすわけにもいかないから、ウインドウショッピングを楽しむ。
「あ、あそこのお店のパフェ、とってもおいしそうじゃないですか? 私、行ってみたいです!」
と彼女が指さす先には、確かにおいしそうなスイーツ屋があった。
テラス席では、ふんだんにイチゴを使った大きなパフェを食べている人がいる。
「いいわね! ちょうど少しおなかもすいてきたし、私もあのイチゴパフェ、食べたいわ」
2人でいそいそと店内に入り、注文をしてしばらく待っていれば、目の前に大きなパフェがやってきた。
ミリエットの前には、チョコとバナナを使ったパフェが並び、テーブルは一気ににぎやかになる。
大好きなパフェの一口目を味わっていると、なんだか懐かしい気分になった。
あれは……何年前だろう。
公務終わりの私のところへ、オリヴァンがやってきて……一緒にスイーツを食べたんだっけ。
思えばあの時から彼の行動に一喜一憂していたな。
そう、今だって彼の言動に振り回されている。
でも、もうこんな日々はお終い。
明日には隣国へ行って、新しい生活をするんだ!
隣国ではミリエットの知り合いにお世話になった後、どうにかして仕事を見つけて、一人暮らしを始めようと思う。
新しい環境での忙しい日々の中ならきっと、オリヴァンのことなんて忘れることが……できる、よね?
少しの不安と疑問がよぎったが、私はそれを飲み込むように、小さなスプーンにたくさんクリームをのせ、口の中にいれた。
少し口の端にクリームがついてしまった私を見て、ミリエットは面白そうに笑っている。
「クラリーズ様、普段の所作や礼儀は誰よりも素晴らしいのに、こういうときはなんだか可愛らしいですよね」
「おいしいものを前にすると、つい……」
私はなんだか恥ずかしくなって、ミリエットから視線をそらし、またパフェを口に運んだ。
そうすると、さっきまで考えていたことが、また脳裏をよぎる。
「私、新しい恋を見つけられるかしら」
ポロリとその考えを漏らせば、ミリエットはすぐに反応してくれた。
「もちろんですよ!」
彼女がそう言ってくれるなら、この先どうにかなるような気がした。
◇◇◇
「そろそろ夕方ですね……」
「えぇ」
それはつまり、今日の目的を果たすべき時が来たということ。
私とミリエットは街外れにつながる遊歩道を、のんびりと歩いていた。
外から見れば、私たちの様子はとても和やかに見えるだろうけれど、今後のことを考えると、私の心の中は不安と期待、焦り……そして申し訳なさでいっぱいだった。
「ミリエット、本当にありがとう。ここまでで大丈夫よ」
もうすぐ日が暮れるけれど、街ではまだたくさんの人が歩いている。
貴族であろう人たちも少なからずいるし、私たちは特に目立っているわけでもない。
「本当に、お別れなんですね……」
さみしそうな顔をする彼女を見て、更に申し訳なさが増す。
「あなたのことは忘れないわ。ここまでよくしてもらったんだもの、ほとぼりが冷めたら、いつかお礼をしに会いに来……
私は、その先の言葉を発することができなかった。
なぜなら……見覚えのある銀髪が、視界の端に映ったからだ。
まさか、こんな場所にいるわけがない、と二度見するも、その隣に茶色の髪を持った可愛らしい令嬢がいるのを見て確信する。
完全に固まった私を見て、ミリエットは首をかしげていたが、次の瞬間、私は彼女の腕をつかんだ。
オリヴァンと……コレットがいる!
彼らが何故ここにいるのかはよくわからないけれど、とにかく逃げなければならないのはわかった。
声を発することなく、静かに急いで彼らの視界から消えようとしたその時……
コレットのピンク色の瞳と、ばっちり目が合った。
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