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オリヴァンとコレットの声だけではない。

他にも聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「オリヴァン様、どういったおつもりでしょうか? ……まさか、その子をかばうとでも?」


「そうだとしたら、何か?」


「あなた対してこのような発言をするのは、不敬なことは理解しております。ですが、言わずにはいられません! クラリーズ様という婚約者がいながら、その言動はいかがなものかと思います。勿論、コレットさんも。婚約者がいる方に、そのようにベタベタと近づくのは、好まれるものではありません」


「そうですよ。お二方共、クラリーズ様が噂を聞いて、どれほど悲しそうな顔をしていたか、知っているのですか? 知っていてそのようなことを続けるのであれば、あなた方の性格を信じられません」


「ご、ごめんなさい! そんなつもりはなかったの……ただ、私は好きな人と一緒に過ごしていたくて……う、ううっ」


校舎に近いグラウンドの隅で、女子生徒3人が、コレットを取り囲んでいる形だ。

おそらくそれを見たオリヴァンが、急いでコレットをかばいに、間に入ったのだろう。

しかしオリヴァンが来ようとも、令嬢たち3人の勢いは止まることはない。

どうやら本当に怒っているみたいだ。


私は皆にばれないように、物置小屋の裏に移動し、その様子を伺うことにした。

自分も関わっている話だし、原作でも見覚えのあるシーンだからだ。


どのような状況かどうしても気になって、物置の裏から少し顔を出すと、ちょうどオリヴァンが、泣き出してしまったコレットの頭を、優しく撫でているところだった。


なんだかとってもお似合いの2人を見てしまい、胸が痛くなると同時に、令嬢3人は皆、私のクラスメイトであることに気が付く。

そのうちの1人は、「公式にクラリーズ様のファンになってもいいでしょうか?」とおかしな事を聞いてきて、結局私と友達になってくれた、あの子だ。


「好きな方に既に婚約者がいるのなら、諦めるのが常識でしょう? 百歩譲っても、まずは当人同士で話し合いの場を設けるべきですよね?」


彼女は泣き出したコレットに構うことなく、更に詰めていく。

周りの令嬢も頷いてくれる中、オリヴァンが口を開いた。


「仮に君たちの言っていることが正しいとしても、こうして人気のないところにコレット1人を呼び出して、3人がかりで問い詰める方法は、どうかと思うけれどね」


いつもより数倍低い声で言い返すオリヴァン。

ばれてしまったらまずいので、もう物置小屋から顔を出してはいないけれど、雰囲気が凍り付いたのを肌で感じる。


「で、でも私たちが彼女に指摘したことは、何も間違っていな……


「これ以上、コレットを悲しませないでくれるかな?」


明確な拒絶。

会話を今すぐ終わらせて、即刻この場を立ち去るように、というオリヴァンの気持ちが、この一言にのっていた。


「……」


それを聞いたクラスメイトたちは少し黙ったあと、小走りで校舎の方へ戻っていったようだ。

足音が遠ざかり、コレットのすすり泣く声だけが聞こえてくる。


オリヴァンは王子だ。

なのに、クラスメイトたちは私のことを思って、勇気を出して言葉をぶつけてくれた。

それが嬉しいのは確かだったけれど、私よりコレットを大事にするオリヴァンの言動に、私は深く打ちのめされた。


そんな私に追い打ちをかけるように、2人の会話が聞こえる。


「コレット……もっと早く助けに来ることができれば……すまない」


「い、いえ。助けに来てくれて、とっても嬉しかったです」


「……」


またしばらく、コレットの泣く声だけが響く。

おそらく、オリヴァンは優しくコレットの背中をさすっているのだろう。


「……そういえば突然だけど、ここ一週間の中で、どこか予定は空いてるかな? ちょっとデートしたいのと、君に用事があって……」


「……!! 空いています! どこに行くんですか? あと用事って何ですか?」


「それは……ははっ。まずは涙を拭いて、落ち着いてから話そうか。実はこの学園には、僕の部屋があるんだ。そこならゆっくりできるはずだし……ほら、おいで」


「そうなんですね……って、うわぁ! 私重いですよ、そんな横抱きにしなくても、歩くことはできるので!!」


「だーめ。泣いているんだから、こんな時くらい、僕に甘えて」


その甘い声は、まさしく原作乙女ゲームの1シーン。

クラリーズを含めた悪役令嬢たちが、コレットを理不尽に罵っているところに、オリヴァンが登場した後の、あのシーンだ。


2人は校舎へ戻っていき、残されたのは私1人だけ。

オリヴァンの本命はコレットであることを改めて見せつけられたショックと、原作乙女ゲームの進行度合いを知ったことからの焦り。


後者の焦りが勝った私は、頭を急速に回転させる。

考えるんだ。


私の断罪イベント……私が偽物の精霊使いであるとばれるイベントが起こるのは、予定ではまだ先なはず。

でも、原作と異なり、イレギュラーなことも今までに起きてきている。


もしかしたら「用事」は「私が偽物の精霊使い」であることを調べること……?

その証拠を2人でつかんで、断罪イベントで私の嘘を暴く予定なのかもしれない。


オリヴァンルートは、そのイベント直前まで進行しているし、時期的には早くても、順番的にはおかしくない。


……それならば、今すぐに逃げなきゃ。


でもどこへ?


どうやって?


さっきクラスメイトたちは私の味方をしてくれたけれど、私がこんな嘘をついている人だと知ったら……もうかばってくれないだろう。


両親以外、誰も私の味方なんていないのかもしれない。


でも両親にも家にも、絶対に迷惑はかけたくない。


じゃあっ、どうすればっ……?


そこで、私は自分の目から大量の涙が出ていることに気が付いた。


あぁ、私悲しいんだ。

こんな人生の破滅が迫っている状況でもまだ、オリヴァンの気持ちが自分に向いていないことを、悲しいと思ってしまっているんだ。


自覚した瞬間、今度は焦りよりも悲しみがあふれ出してくる。


「あ、ううっ、っあ」


ダメだダメだダメだ。

今日はこのまま帰ろう。

帰って思いっきり泣いて、そうしたらいい案も思いつくかもしれない。


そう思って私はできるだけ人気の少ない道を選び、全速力で校門まで向かう。

しかし、運の悪いことに、普段ならほとんど人のいない一階の奥のベンチに、仲睦まじそうにお弁当を並べる、1組のカップルの姿があった。


「な、クラリーズ様!? そんなに泣いて、どうしたんですか! ねえ、待ってください!!」

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