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「これから私、雑用係として忙しくなりそうなので、今回みたいに過ごす時間は、あまり取れそうにないです」


クラリーズを腕の中に閉じ込めて、しばらくたった後。

彼女はそう言って、ベンチから立ち上がった。


「わかった。無理だけはしないようにね……僕もその間に色々と片づけるよ。そうしたら、またこういう時間が欲しいな」


久しぶりに彼女に会えたから、少しベタベタしすぎてしまったけれど、彼女も特に嫌そうな素振りなく応えてくれたので、問題ないだろう。


「こ、これをまた、ですか? まぁ……その、き、機会があれば」


それだけ言い残して、クラリーズは専門科棟裏を立ち去って行く。


最近、僕は彼女にずっと避けられていた。

今日だって、教室で劇の練習をしているとき、廊下にクラリーズの姿が見えたのに、僕が様子を確認しに行ったときには、もう背中を向けて階段の方へと向かっていた。


こっそりついていってみれば、なぜか兄さんと楽しそうに話しているし、挙句の果てには、クラスメイトに告白までされていて……


そこまで思い出したところで、嫌な気分がよみがえってきて、重い溜息をついた。


「はぁ、本当に人たらし……勘違いして彼女に付きまとう人間が出てこないように、かなり気を付けていたんだけどな」


最近隣のクラスでは、「思っていたより親しみやすくて、優しい人」と、彼女の評判はうなぎ上りだそうだ。

そんな一面を見たからこそ、今日あの男は、クラリーズに告白をしたのだろう。


本当なら告白する前に止めに行くところだったけれど、そこでふと思ったのだ。


「僕が無理に告白を止めるよりも、本人の言葉で振られた方が、あの男も諦めがつくのではないか」と。


だからあえて、おとなしく見守っていたのに、クラリーズは告白を受けてから、長い間悩んでいた。

それに加え、振った理由は「あなたの告白を受ける立場にない」からである。


僕のことが好きだから


そう言って、断って欲しかったのに。

これでは、まるで僕が彼女を「婚約者」という立場にしばりつけているみたいではないか。


いや、実際しばりつけている。

思わず苦笑いがこぼれた。


しかし、僕のそんな負の感情も、今クラリーズを抱きしめたことで、かなり相殺された。

更に、最近彼女が僕を避けていた理由が、「嫉妬」だと分かって、とても気分がいい。


クラリーズは僕のことが好きだし、僕もクラリーズのことが好き。

そんなこと、お互いによくわかっているから、最初から心配する必要なんてなかったんだ。


勿論、あの男の出る幕なんてないけれど、後で一言釘を刺しておこう。


あと……


嫉妬されるのは嬉しいけれど、あまり嫉妬させすぎてしまうのも問題だ。

コレット嬢を早いところ、どうにかしないと。


コレット嬢からの信頼を勝ち取れる、あと一押しが欲しい。


僕はその機会を虎視眈々と狙っていたが、案外早く訪れた。


◇◇◇


「あれ? あそこにいるのは……コレット嬢」


文化祭の準備もいよいよ大詰めにかかり、昼休憩の時間だというのに、作業をしている人もいる。


僕も台本を読み込んでいるところだったけれど、エドガーが隣のクラスへ向かうのを見て、一緒に抜け出してきた。


ミリエット嬢と、一緒にお昼ご飯を食べる約束をしているのだ、と珍しく浮足立っているように見える彼を見て、僕もなんだか、一目クラリーズの顔を見たくなったのだ。


「そうみたいですね。何やら囲まれていますが」


エドガーは早くミリエット嬢に会いたいのか、さほど興味を持たずに、そのまま廊下を歩いていく。

しかし、僕にとってその光景は、目の前に大きなチャンスが転がっているようなものだった。


「すまない、僕はここで」


「えっ?」


ミリエット嬢の前以外では、相変わらず口数も少なく、表情の動かないエドガーが、無表情のまま、短く声をもらす。


僕はそんな彼をおいて、急いでコレット嬢のもとへ向かった。

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