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頭の中で考えていた人の声が、すぐ隣から聞こえて、私は数センチ飛び上がる。
私を驚かせた当の本人は、そんな私の様子をみて、面白そうに笑っていた。
それはいつものこと……でも、いつもと少し異なり、なんだか元気がなさそうな感じもする。
なんだかオリヴァンに会うのは久しぶりだな。
あっ、そうか。私が彼のことを避けていたからか、そっかそっか。
なんてぼんやりと考えていたが、自分で考えていることの意味を理解した途端、心臓が縮む思いがした。
「……!!」
慌ててあたりを見回したけれど、コレットの気配はない。
とりあえず断罪イベントが起こる条件は満たしていなさそうだ。
私が安心して、無意識にこわばっていた体の力を抜くと、なぜかオリヴァンはますますムッとした顔になった。
「クラリーズ、最近僕のことを避けてない?」
どう答えれば穏便に済むか、考えを巡らせてみたが、良い案は思いつかない。
オリヴァンのことを避けていることについては……イエスとしか言いようがない。
この前、彼に鉢合わせそうになって、焦ってUターンしたときは、さすがの彼も、私の姿が見えていただろう。
じゃあ、この質問にどう答えれば……
しかし無慈悲なことに、時間制限が訪れたようだ。
私が返事をしないことにしびれを切らしたオリヴァンは、私の手を握って、そのまま専門科棟の裏に続く階段へと進み始める。
無言でどんどん歩く先にあるのは、やはり校舎裏で……
あそこには良い思い出がない。
違法貿易をしていた家の令嬢が、いろいろと聞き出されていた現場だ。
私もここで、あんなことやこんなことを言われて、彼にメロメロになって、思わず自分の秘密を暴露してしまうのか……?
いや、すでにコレットが専門科棟の裏に待機していて、断罪イベントが発生するのかも。
そんなことを考えているうちに、オリヴァンは軽々と人除けの魔法をかけて、この前令嬢を口説いていた場所と同じところまでやってきてしまった。
コレットはいない。
最悪の事態は回避できたと安心していると、すぐ横のベンチに彼が座る。
そして手を引いて、彼の膝の上に来るように、私を座らせる。
……彼の膝の上?
「ちょ、ちょっと何を!」
「あんまりじたばたしないで。僕には充電が必要なんだ」
なんだか変なことを言いながら、彼は私の体に腕を回すと、そのまま抱きしめる。
「充電?」
「あぁ、最近君が僕のことを避けるから」
「だって……オリヴァン様は、他の方に夢中で、ずっと一緒にいるから……見ていられなくて」
ポロっとこぼれた言葉。
オリヴァン1人ならいいけれど、コレットと一緒だと、断罪イベントにつながる可能性があるから、私は近づくことができない。
そして、2人が一緒にいるのを、まっすぐ見ることができない。
後者の理由も認めざるを得なかった。
「それは……すまない。前にも話した通り、彼女は警戒対象であり、捜査対象なんだ。僕も、やりたくてあの役をしているわけじゃない。どれもこれも、彼女の秘密を暴くためだ」
ほらまたそう言って、私のことを騙そうとする。
彼が本当に暴きたいのは、コレットではなく私の嘘だ。
「君のためだったら、僕はなんでもする。コレット嬢と一緒にいるのも、言うなれば君のためでもあるんだ……詳しいことは話せないけれど。だから……見捨てないで、そばにいてほしい。僕は君さえいればいいんだ」
最近私が避けていたからか、言動がかなり甘い。
本気にしてはいけない。
いけないのだけれど……
コレットもいないし、人除けの魔法もされている。
だから、今日だけ……もう少しくらいこのままでもいい、よね?
私はそっと彼の膝から降り、隣に腰かける。
そしてそのまま、彼に抱きついた。
彼は一瞬固まったものの、先程よりもずっときつく、私を抱きしめ返してくれる。
今日だけ、今日だけだ。
私は考えることをやめ、ただ目の前の温もりにしがみついた。
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そろそろ終盤に差し掛かります!




