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勢いで隣のクラスに、照明を借りに来てしまったけれど……隣のクラスと言えば、オリヴァンとコレットがいることに気が付いた。


2人に近づいたら、私の嘘が暴かれて全てを失う、あの断罪イベントが、いつ発生するか分かったものじゃない。

それに……


私がこっそり教室のドアから中を覗くと、やはりというか……演者たちが練習をしていた。

もちろん、オリヴァンとコレットも。

恋愛劇のヒーローとヒロイン役として。


「待って!」


オリヴァンはそう言って、台本を片手にコレットの腕をつかむ。

舞台袖であろう方向へはけようとしていたコレットは、ゆっくりと彼の方を振り返る。


「ごめんなさい、私はあなたの隣にいるべき相手ではないの。きっと私なんかよりずっとふさわしい人に出会えると思うわ。だから……ここでさようならをしましょう」


コレットは腕を振り払って、そのまま立ち去ろうとする。

オリヴァンはそれに対して、悔しさとやるせなさ、そして恋情の入り混じった表情で立ち尽くしている。


クラスメイトは、私に他クラスの話題……つまりオリヴァンとコレットのことを話すのを、意図的に避けていたし、私も自分からわざわざ聞こうとはしなかった。

だから、2人がこうして演じているのを見たり、聞いたりするのは初めてだった。


あぁ、演じているわけではないか。

きっとあの二人は思いが通じ合っていて、本心であんな表情をしているのだ。


ダブルデートとか言って、この劇を4人で見た時、オリヴァンは私に「ずっと隣にいてね」なんて言っていたのに……


嘘つき。


嘘つき嘘つき嘘つき!!!


「っ……!!」


頭が黒い感情に支配されそうになったものの、握りしめた拳に爪が刺さる痛さで、私はかろうじて平静に戻ることができた。

もし、私がこの嫉妬に支配されていたら……と思うと、ゾッとする。


劇の練習はまだ続いているが、それ以上見届ける事はせず、私はドアから離れた。


「そんなわけがない! 俺は君のことが好きで、君もきっと同じ気持ちでいてくれているんだろう? 隣にいるためにそれ以外の理由なんて必要ない!」


「それは、私のことなんて何も知らないから言えるのよ。だって本当は……私、伯爵令嬢ではないから! 王子のあなたに釣り合うような人ではないの!」


「……そんなこと、とうの昔に知っていたよ」


私はそんな劇中のセリフを背に、上級生のクラスへ向かうことにした。


◇◇◇


少し深呼吸をして完全に感情を押し殺した後、私は3年生のクラスへと顔を出す。

照明を借りるため、まずは廊下にいる人に声をかけて、監督を呼んでもらおうとしたのだけれど……数分待った後、なぜか目の前にはディナルド様がいた。


ディナルド様はこの国の第一王子、つまりオリヴァンの兄である。


「何か俺に用があると聞いたが」


別にディナルド様を呼んだわけではない。

きっと、突然現れた私にパニックになった上級生たちが、何か勘違いをしてしまったのだろう。


「すみません、ディナルド様に用事があるというよりは、文化祭で使う照明をお借りしたくて、ここへ参りました」


一応、オリヴァンの婚約者であるものの、ディナルド様とはそこまで交流はない。

ただ監督と話すだけだと思って来たため、予想外の展開に緊張して、少し声が震える。


「そうだったのか。では、このクラスの監督を呼んでくるから、少し待っていてくれ」


「はい、ありがとうございます」


彼がドアの向こうへ消えていき、私は緊張を吐き出すように息を吐く。


ディナルド様はこの国の第一王子。

その身分とかっこよさ、誠実さから、学園でも人気が高く、もれなく原作乙女ゲームでは攻略対象の1人だ。


そして特筆すべき点としては、婚約者がいないことがあげられる。

彼ほど高貴な身分ともなれば、オリヴァンのように、幼い頃に婚約者を決められているのが普通だ。


しかし……


彼の婚約者は数年前に、病で亡くなってしまった。

彼女のことをとても大事に想っていた彼は、それ以来婚約の話が上がってもずっと1人を貫いている。


原作では、そんな傷心のディナルド王子の心を、コレットが癒して、支えていくこととなるのだけれど、オリヴァンルートに入っている彼女は、特に交流もないだろう。


ディナルド王子の婚約者……私が何かできればよかったのだけれど。


原作を知っている私は、彼の婚約者が亡くなってしまう未来を知っていた。

しかし、魔法で怪我は治せても、病気は治すことができない。


人が死ぬのを分かっているにもかかわらず……精霊使いであるにもかかわらず、何もできず悔しかった、数年前の自分を思い出す。


なんだかやりきれない気分に沈みそうになったけれど、丁度よくディナルド様が監督をつれて戻ってきたので、持ち直すことができた。


「こんにちは、私がこのクラスの監督です。照明を借りたいと聞いたのですが……」


「はい、お忙しいところ呼び出してしまい、申し訳ないです。補助で使う照明が余っていたら、貸してほしくて参りました」


「そんな敬語を使わないでください、クラリーズ様! 補助照明ですね、丁度1つ余っているのでお貸しますよ。出してくるので、少々お待ちください」


あっさり照明を借りることができ、私は胸を撫でおろす。


そして、監督が教室へ戻っていった後、ディナルド様がなぜか私をじっと見つめていることに気がついた。

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