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「私の話はいいのよ! それよりもミリエット、あなた、エドガー様と進展はあった?」
「あっ、そ、その件ですが……」
エドガーという名前を私が口に出した途端、彼女は顔を赤く染める。
「お互いがお互いのことを勘違いしていたと、ようやく気が付きました。それもこれも、あなたのおかげです。私に勇気をくれたのも、クラリーズ様でしたし……それに、エドガー様に勇気をくれたのも、クラリーズ様だと聞きました」
エドガーに関しては、ほぼ説教みたいなものだったけれどね。
という言葉は心の中にしまっておく。
彼がどこまでミリエットに話したのかはわからない。
だけど、ミリエットに自分の恥ずかしいところを、聞かれたくはないだろう。
それにしても、いい結果を聞けて良かった。
今度2人が一緒にいるところをこっそりのぞいてみようかな、なんて考えていると、クラスメイトの1人が話しかけてくる。
「ご歓談中すみません、クラリーズ様も是非、文化祭の劇の準備に参加していただけたら嬉しいな、と思っておりまして……クラリーズ様ほどの人気がある方が劇に出てくれたら、隣のクラスの恋愛劇にも勝てるのではないかと!」
「私が、劇に……?」
春休み前まで、いかにして国外へ逃げるかしか考えていなかったため、自分が文化祭に参加するなんて思ってもみなかった。
今日だって、クラスの皆が学園に集まっているから来てみただけで……文化祭については、特に深く考えていなかったのだ。
「勿論、無理にとは言いません! 勉学や公務でお忙しいのは私もよくわかっていますから」
うーん、今のところ期末試験は終わったので、勉強はしなくても大丈夫。
それに、隣国へ逃げて帰ってこない予定だったから、ある程度公務は先に済ませてある。
そうじゃないと、コレットが精霊使いとして覚醒するまで、皆困ってしまうだろうから。
まぁ、こうして帰ってきてしまったから、先に公務を済ませた意味は失くなってしまったけれど。
「でも……もう配役とかは決まっているんじゃないかしら?」
配役だけではない。
既に衣装班や舞台装置班、演出班などに分かれて、私たちがこうして話をしている間にも、作業をしている。
「確かに決まっていますが……クラリーズ様が演者として参加してくださるなら、交代してくれる方も多いと思います!」
「……」
さすがに、交代してもらってまで劇に出るのは忍びない。
黙ってしまった私を見たミリエットは、私が劇に参加するのをためらっていることを感じ取ったのだろう。
代わりに返事をしてくれた。
「多分、クラリーズ様に演者は向いていないと思いますよ……多分、私が衣装班に参加するくらい向いていないです! クラリーズ様は正直で嘘をつけないタイプの方なので」
言っていることは間違ってはいないけれど!
確かにミリエットが衣装班に入ったら1分に1回、針を指に刺していそうだけれど!
そこまで言わなくてもいいんじゃないかしら!
私が頬を膨らませたのを見て、なぜかミリエットも話しかけてきたクラスメイトも笑った。
「私、クラリーズ様のこと、どこか遠くの人だと思っていたのですが、印象よりずっと親しみやすい方ですね」
彼女はミリエットに面白そうに言っている。
その言葉を聞いたミリエットは、私に向かって親指を立てた。
あぁきっと、クラスに私がなじめるように、居場所ができるように……わざとそんな雰囲気にしてくれたのだ。
原作ゲームでは悪役令嬢だったことから、きつい顔立ち。
一応精霊使いであり、一応オリヴァン王子の婚約者という身分。
そんな私は、クラスメイトから敬意を払われているがゆえに、距離を置かれているように感じていた。
でももっとこんな風に、素の自分をさらけ出していけば、もっと仲良くなれる日も来るかもしれない。
「ということで私、演者はやらないわ。でも何もしないのは申し訳ないし、面白くないから……雑用係でもやろうかしら」
「そんな、クラリーズ様に雑用をさせるなんて……!」
「私、もっとたくさんの人と仲良くなりたいの。雑用なら色々な班の人たちと関わることができるでしょう?」
「大丈夫ですよ、クラリーズ様は器の広い方ですから!」
ミリエットも援護射撃をしてくれる。
「分かりました……そ、その代わり! 私とも仲良くしていただけますか? ずっと憧れていたんです!!」
「勿論よ!」
また逃げる目途がたつまでの間だけれど……私はオリヴァンと会わないと決めたことでできた心の穴を、クラスメイトたちと一緒に埋めていくことにした。
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