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スタっとほぼ音を立てずに降ってきたそれは、人だった。

黒い服に身を包み、顔はよく見えない。


この時間にこの怪しげな服装で、私の前に現れたということは、きっとこの人が、これからの私の一芝居に協力してくれる人だろう。


私は打ち合わせ通り、


「誰かー! 助けて!」


と大声をあげた。

若干棒読みっぽくなってしまったが仕方がない。

ここで声をあげることで、この街の人に何か事件が起きていることを認識させる。


こうすることで、オリヴァンが後々調査しに来た時に、私がここで襲われたという証言をしてもらうのだ。


さて、次はどうすればいいんだっけ。

一旦伸びをして考えようと体を逸らしたその時、ヒュンっと私の耳元で刃物が通り過ぎる音がした。


驚いて刃物が飛んできた先を見ると、先ほどの黒い服の人がこちらを見ている。

どうしてこんなことを……?


困惑していると、足元に一房だけ金色の髪の毛が落ちているのが見えた。

……なるほど! 台本にはなかったけれど、私の髪の毛を残していくことで、更にここで連れ去られたという証拠を残すつもりか!


これならば確実に私の身に何かあったことが証明できるから、精霊使いの公務を放棄して勝手に隣国へと姿を消したことにはならない。

そう、不可抗力だったと証明できるのだ!


ナイスアイデアだと思って、黒服の人に思わずサムズアップしようとしたが……


それは叶わなかった。


その人は再びナイフを構えており、ちょうど私に向かって投げる最中だったからである。

私が丁度その人の方を見ていたから、なんとか避けることができたものの、ナイフが路地裏の石に当たった音は、私の背筋を凍らせた。


もしかして、本気で私を殺しにきている!?


一旦ここは路地裏を出て、どういう状況なのか整理しなくてはならない。

この人たちは私が雇った人たちではないのか?

何故私は殺されそうになっているのか?


パニックで頭の中がごちゃごちゃになりながらも、なんとか逃げ出そうと足を踏み出す。

幸い、路地裏には少し入っただけで、そこまで深くは進んでいない。


魔法で周囲の石を動かして、ナイフの軌道に合わせてはじいていけば、1人分の攻撃くらいは避けられるだろう。

攻撃するような魔法は使ったことがないけれど、防御ならばできないことはない。


しかし、再び投げられたナイフに石をぶつけて、そのまま180度体を回転させて路地裏の出口に向かおうとすると、入口側から3人ほど、先ほどの人と同じ恰好をした人たちがやってくるのが見える。


退路をふさがれてしまった。

ここは一本道だから、両側を陣取られてしまったら逃げる道がない。


そんなことを考えている間にも、どんどん距離が詰められる。

そして、4人は一斉に私に向かって刃物や銃を振りかざして来た。


咄嗟に自分自身を氷の壁で包み込み、一旦攻撃は避けたものの、これではどうにもならない。

私も、この人たちに対抗しなければ!


……でも、今まで人を攻撃するための魔法なんて使ったことがないし、そんなことのために魔法を使う勇気もないし……



いや、そんなことは言っていられない……!


「……!」


意を決して私が反撃しようとしたとき、またしても頭上から人が降ってきた。

私も、私を囲む人たちも、何事かと一瞬動きが止まる。


降ってきたその人も、例に漏れず顔を隠すように目深にフードをかぶっている。

どうせ向こうの増援だろう。

そう思った矢先に、フードを被ったその人は、強い風魔法を使ったのか、私以外のその場の人たちを一瞬で吹き飛ばした。


そして私を背中で守るようにして、剣をふるい、一人ひとり剣でなぎ倒していく。

とはいえ、切りつけるのではなく、気絶させるように剣に鞘はつけたままだ。


一瞬私はその動きに見とれていたけれど、私の方へ近づいてきた敵を、彼が剣でなぎ倒しているのを見て我に戻る。

どういうことかわからないけれど、この人は私の味方だ。


「守りは私に任せてください」


その言葉は聞こえたみたいで、顔は見えないけれど、頷いてくれるのは確認できた。


「こんなところで死んでやらないんだから!」


逃げた先での、のんびりスローライフ生活を実現するためにも、私は彼と背中合わせに戦うことにした。

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