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「終了です。ペンを置いてください。私が解答用紙を回収するまで私語は厳禁です」
ようやく最後の教科のテストが終わった。
これで春休みがやってくるからか、皆どことなく嬉しそうな雰囲気を漂わせている。
解答用紙の回収も終わり、先生が教室を離れると、私の机の元へミリエットがやってきた。
「ようやく終わりましたね! 最後に名前を書いているか確認するようにって、クラリーズ様から口酸っぱく言われていたおかげで、今のテストは命拾いしました」
やっぱり名前を書き忘れていたのか……そこがミリエットの可愛らしいポイントでもあるけれど。
「私もミリエットと一緒に勉強する時間があったおかげで、より細かい知識まで頭に入ったから良かったわ」
「そ、そんなことないです……むしろ私の方こそ、クラリーズ様にもエドガー様にもたくさん勉強を見てもらって、感謝しないとです」
彼女は暗記系科目はとても強いけれど、それらの知識を応用するとなると、あまりできなくなってしまう。
でも逆に言えば、知識の細かさは他の誰にも負けないので、私も勉強になった。
「ようやく春休みですね……とはいえ、ほぼ文化祭の準備で終わってしまいますが」
そう、この学園では春休み明けに文化祭がある。
文化祭では全クラス劇をするので、演劇部の生徒を中心にクラス総出で、劇の準備に取り掛かるのだ。
だから、春休みとはいえ皆学園にはやってくるので、普段の授業がないだけである。
「確か私たちのクラスは、コメディだったかしら」
「そうです! 文化祭委員を担当している方が、じゃんけんで負けてしまったらしいので」
各学年2クラスあるこの学園では、一方のクラスは恋愛劇を、もう一方のクラスはコメディをやることになっている。
とはいえ、恋愛劇の方が人気が高いので、毎年取り合いになっているみたいだ。
まぁ、私は準備にも本番にも参加しない予定だから、何も関係ないけれどね。
そして実を言えば、私たちのクラスがコメディになるのは分かっていた。
なんて言ったって、このイベントも原作乙女ゲームで既に履修済みだから!
ヒロインのコレットは、オリヴァンやエドガールートの場合には、恋愛劇で主役をつとめ、距離を縮めていく。
2人以外のルートでも、文化祭での何らかのアクシデントで、距離は一気に縮まっていったはずだ。
「クラリーズ様は、文化祭ではどんなことを担当したい、とかありますか?」
「んー、春休みは少し忙しいのよね」
留学に行って、ここへは帰らないつもりだから。
という言葉は飲み込む。
どこからばれるか分かったものではないから、この計画はまだ誰にも言っていない。
でも、さすがに今日家に帰ったら、両親には全てを打ち明けるつもりだ。
「そうですよね、精霊使いとしての公務もありますものね……クラリーズ様が劇に出たら、集客効果もありそうだな、とか思っていましたが」
しょうがないですね、と笑うミリエットに対して私はなんだか申し訳ない気持ちになった。
でも、もうずっと前から決めていたことだ。
「私がいなくてもどうにかなるわよ。それに私、そんなに演技は上手じゃないの」
「確かに……クラリーズ様って、思っていることが全部表情に出るタイプですからね」
「……ちょっと言い過ぎじゃない?」
「えへへっ」
この学期を通して、彼女は大分私に心を開いてくれたように思う。
きっと出会ったばかりの頃だったら、こんなことは言わなかっただろう。
「ちょっとお手洗いに行ってきますね」
「分かったわ」
ミリエットを見送った私は席から立ち、窓の外を眺める。
春特有の香りを運ぶかのように、カーテンがそよそよと揺れて、窓からは下校する生徒たちが見えた。
こんな日常も今日が最後。
明日すぐに隣国へ出発するから。
この景色を目に焼き付けようと、しばらく外を眺めていたのだけれど、5分経てど、10分経てど、ミリエットが帰ってこない。
うーんでも、おなかが痛くてトイレにこもっているというならありうる時間なのかな?
いや、これだけの時間、戻ってこないなら、一応様子を見に行ったほうがいいかもしれない。
そう思って教室から一番近いトイレを覗いてみるも、そこには誰もいなかった。
……別の場所のトイレが好きとか?
いやいや、そんなトイレフェチではないはず。
となると、トイレに行く前か行った後に、何か別の用事ができたのだろうか?
もう一度教室に戻るも、そこには誰もおらず、ただ私の鞄とミリエットの鞄が残っているだけだった。
私に何も言わずにいなくなってしまうなんて……さすがにおかしい気がする。
どんどん不安が増していった私は、慌てて学校中を探し回る。
一階の保健室から、専科棟の隅にある生物室、グラウンド、図書室から職員室に至るまで、淑女失格のスピードで探し回ったけれど、彼女の姿はどこにもなかった。
「……どこに行ったわけ?」
ミリエットが無事ならそれでいい。
1年生の教室をもう一度確かめ、彼女がいないことを確認してから、次は屋上へと向かう。
そろそろ階段を上る私の足も重くなり動かなくなってきたけれど、幸運なことに、屋上へと続くドアが開かれており、そこから話し声が聞こえた。
テストも終わったので、学園の皆はもう大方帰ってしまっている。
だからきっと、ここにミリエットがいるに違いない。
まずは状況の確認から。
そう思って、私がそっと扉から顔を出そうとしたとき……
「何をしているんだい?」
「ふぁっ!」
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