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その日の放課後、色々と考えてしまって頭がパンクしそうだったので、図書室で勉強することにした。


ミリエットも一緒に図書室へ来ようとしていたが、今日の放課後はエドガー様と勉強デートをすると前に聞いていたので、さすがにそちらへ行ってもらった。

話を聞いている限り、こうして学園外の時間に2人だけで出かけるのは初めてのはずだ。

順調に仲良くなっているみたいで良かった。


それに比べて私は……

でも、ミリエットはオリヴァンの本命は私だって言っていたし……

でもでも、私が偽物の精霊使いだと、薄々気が付いていそうなオリヴァンにとって、私のことを好きになる理由なんてないし……


「ふぅ……」


一度大きく深呼吸して、目の前の参考書に目を戻す。

少しでも気を抜くと、こうやって色々と考えてしまう。

勉強に集中して、ちゃんと心を落ちつけよう。


留学へ行ってもうここには戻らないとはいえ、テストでいい結果は取りたい。

こうして私は、1人で黙々と勉強を続けた。

◇◇◇


「ん……」


あれ?

図書室の窓から外を見てみれば、すっかり暗くなっていた。

時計が示す時間は、ほぼ最終下校時刻だ。


「最近、忙しくしてて疲れたから、かな」


しょうがない。

今日進めたかったことは、家に帰ってからやろう。


目の前のノートや参考書を片づけようと手を伸ばすと、何かが肩からずり落ちる音がする。

不思議に思って、手を伸ばすと、誰かのマントがあった。

寝ているところを、誰かが心配をしてかけてくれたのだろう。


「優しい人もいるのね」


こんなことをしてくれたのは、一体誰だろうか?

名前が書かれていないかとマントを見てみたけれど、わからなかった。


「でも、これじゃあ誰に返せばいいかわからないわ、うーん……」


何か分かったりしないかな、と少しだけマントを顔に近づけて、匂いを確かめてみる。

なんだか、安心できるような温かさを感じる匂い……って!

ちょっとこの行動は、気持ち悪い人すぎる!

慌てて周囲を見渡したが、誰もいなかったので、ホッと溜息をつく。


よく考えてみれば、明日からは衣替えでマントは必要なくなるはず。

お礼にマントに加護をかけて、明日落とし物ボックスに入れておこう。


私はその優しい人の存在に心を和まされ、図書室へ来た時よりもずっと良い気分で、家に帰った。


◇◇◇


「寝たかな」


いや、狸寝入りかもしれない。

あくまで彼女のことが大好きでたまらないという態度のまま、保健室を出る。


今日の試験は中止。

放課後までいくつか授業はまだあるが、多少欠席しても問題ないだろう。

そのまま、学校にある僕個人の部屋へ、密輸事件の後処理の書類を作成しに向かう。


それにしても、あの令嬢は簡単に引っかかってくれてよかった。

こっちはもっとやらなくてはならないことがたくさんあるから。


例えば……コレット嬢の不可解な行動について。


彼女の魔法の才能は黒魔術によって支えられているものではないか、という疑惑がある。

それに、クラリーズに対して明らかな害意を感じる場面も多々あった。


今日だって……間違いない、あの氷玉の暴走はコレット嬢によるものだ。

皆気が付いていなかったかもしれないが、2人の様子を注意深く見ていた僕は、コレット嬢が舌打ちをしたのを見逃さなかった。


もし、試験が始まる前、僕がクラリーズに保護魔法をかけていなかったら……と思うと、ゾッとする。

黒魔術は人の心を操ったり、幻覚を見せたりする非常に危ないものだ。

そんな魔法に……僕の大事な大事なクラリーズを近づかせるわけにはいかない。


「これを父上まで届けてくれるかい?」


書類の最後に「オリヴァン・ルフォール」と署名をして、完成したものを使者に手渡す。

どこからともなく現れたかと思えば、僕から書類を受け取った途端、また見えなくなった。


クラリーズは元気だろうか。

最近はいつにもまして疲れているみたいだから心配だ。

精霊使いでもないのに、精霊使いの公務を……いや、それ以上のことまで無理して頑張っていて、いつか体を壊してしまわないかどうか、とても不安になる。


彼女が精霊使いではないと勘づいたのは、かなり前のことだ。

神殿や王宮から、精霊を顕現させるよう言われても、のらりくらり断っていること。

精霊使いとは思えないほどの、魔法の練習量。

それに、きっと僕のことを好いてくれているはずなのにも関わらず、どこか引け目を感じているかのように、一線を超えさせてくれないその態度。


このあたりから、きっと彼女はネックレスを付けているだけで、精霊使いではないということが分かった。

だが、それにしてもおかしな話だ。

あんなに努力家で、献身的で、誰に対しても優しいお人よしで、コロコロと変わる表情がとっても可愛い彼女が、精霊に選ばれていないだなんて。

きっと、精霊の目は腐っているに違いない。


「でも、僕も無理をさせているよね」


この間のバラ園では、いきなりコレット嬢が現れたものだから、対応しなければならず、危うくクラリーズにあらぬ誤解をさせるところだった。

きっと、あの時彼女が泣いていたのは、僕の本命がコレット嬢へ移ったと勘違いさせてしまったからだろう……まぁ、あの時「ちゃんと分かっています」と言ってくれたから、そんな心配は杞憂にすんだけれど。


僕としては、本当はもっとクラリーズとの距離を詰めたい。


でも、まずはコレット嬢をどうにかする必要がある。

あの子は警戒心が強く、事あるごとに「クラリーズ様じゃなくて、私が本命ですよね?」と確認してくる。

ここで僕が彼女よりクラリーズを優先したら、黒魔術を使っていることを吐かせることができなくなるどころか、クラリーズにまで危険が及ぶ可能性も大いにある。


あとは、クラリーズは僕と両想いなことを分かっているにも関わらず、自分が実は精霊使いではないという事実のせいで、距離を取っていることも問題だ。


これについては、僕の方から「君が精霊使いではないことなんてわかっている、それでも好きだ」と言ってしまえばいい話かもしれない。

けれど、彼女が精霊使いではないことを直接言ってしまったら、彼女のプライドをへし折ってしまうも同然。

できるならば、もう少し円満に事を解決したい、と考えているし、その方法にも目途がついていて、何年も前から計画を実行中である。


そんなことを考えつつ、たまっていた書類作業を終わらせると、あっという間に遅い時間になっていた。


今日は借りた本を返して、もう帰ろう。

そう思って部屋を出て、図書室へ向かうと、そこには1人すやすやと眠る大好きな人の姿があった。


「……クラリーズ」


またこんなになるまで頑張って。

髪の間から覗く、隈のある目が相当な疲れを物語っている。


起こさないようにそっと頭を撫でてみると、彼女の口角が少し上がった。

それがとても可愛くて、思わずこちらも笑顔になる。


「一生僕の隣からいなくならないで」


それは、3年前彼女に伝えた言葉。

彼女はこのまま僕のそばにいるより、何の責務もない他国や田舎へ行った方が幸せなのではないか、なんて何度も考えたことはある。

でも……僕はそんなの耐えられそうになかった。


だから、これは僕のわがまま。

だけど、クラリーズは隣にいると応えてくれた。


そのせいで彼女にこんなにも負担を強いている。


「離してあげられなくてごめんね」


明日から衣替えとはいえ、まだ夜は寒い。

僕はマントを外し、彼女の背中にかけながら、彼女に囁く。


「ずっとそばにいて」

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