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保健室の扉は空いていた。

けれど、そこから漏れ出る声に、私は部屋へ入ることも、その場を離れることもできずにいた。


「大変だったね、もう大丈夫かな?」


「はい、少しここで横になって休めば、どうにかなると思います」


どうやら先生はいないようだ。

2人が話している感じだと、氷片は彼女に突き刺さったようではないみたいで良かった。


「じゃあ、僕はこれで」


「ま、待って」


ドアのわずかな隙間から、そっと部屋の中を覗く。

そこには、ベッドの上から手を伸ばし、保健室を出ていこうとするオリヴァンの袖をつかんだコレットがいた。


「もう少しだけ、そばにいてくれませんか?」


「……分かった。君が寝るまでそばにいるよ」


まるで、少女漫画の一部のようで……


そこまで大きなけがもしていないみたいだし、精神的にやられていても、オリヴァンがいればこの様子なら大丈夫だろう。


私はそっと保健室の入口から離れ、教室の方へ向かおうとした。

しかし、その行く手を、教室へ戻ったはずのミリエットに阻まれた。


「ちょっとお話しませんか?」


いつもの小動物のような可愛らしい雰囲気はなく、真剣な表情をしている。

断る理由もなかったし、断れる雰囲気でもなかったので、私は彼女についていくことにした。


しばらく歩いて、人の気配のない空き教室を発見し、2人でその中へと入る。

椅子に座り、しばらく私の顔を見ていたミリエットは、ゆっくりと話始めた。


「ここ最近、元気がないのは……オリヴァン様に関することですか?」


「……」


「さっき、保健室の中を覗いていましたよね? ……ごめんなさい、私どうしてもクラリーズ様のことが心配で、後をつけていたんです」


まさか見られていたなんて……


「あの2人の邪魔はしていないわ……私よりずっとお似合いだもの」


私の返答に、彼女は更に眉をひそめる。

……何かおかしなことを言っただろうか?


「クラリーズ様は、オリヴァン様のことが好きなのに、どうしてそんなことを言うんですか」


ミリエットは、私の恋心をちゃんと見抜いているみたいだった。

そう、私はオリヴァンのことが大好きだ。

でも、私には彼の隣にいる資格なんてないから。


「私は、私も……彼にとってはただの婚約者で、調査対象で……彼の本命ではないから」


「そんなことない!」


ミリエットの大きな声に驚き、思わずうつむいていた顔をあげる。


「そんなこと、ないです! 私が見ている限り、オリヴァン様が本当に好きなのはクラリーズ様です! それに、エドガー様も言っていました」


彼女は一呼吸おいて、もう一度話し出す。

私の方は、彼女の言っていることにあまり現実味がないからか、「エドガーとミリエットも、2人で話ができるくらい、仲良くなってきているのだな」なんて、関係ないことが頭の中をよぎった。


「小さい頃、オリヴァン様が楽しそうにクラリーズ様の話をしているのを、何回か聞いたことがあるって、エドガー様はそう言ってました。それに、前バラ園に行ったときのことを覚えていますか? あの時、クラリーズ様とはぐれて、焦って探している彼を見かけました。本命ではない人のことを、あんなに必死になって探したりしません!」


あの時は悪夢から目覚めた後だったから、あまりよく覚えていないけれど、そういえばオリヴァンは肩で息をしていたような……


「ね、わかりましたか? オリヴァン様の本命は間違いなくあなたです! もしこの件でふさぎこんでいるのなら、考え直してください!!」


「でも……」


私が反論しようとすると、ミリエットは何故か悲しそうな顔をした。


「私に自信を持て、と教えてくれたのはクラリーズ様です。そのおかげで、最近いつもより毎日が楽しいんです。それに、エドガー様とも少しずつ仲良くなれています。だから……私は」


彼女はそっと私の手をとり、優しく握ってくれた。

その手はとても温かくて、なんだか私は泣きたくなった。


「ありがとう、でもね、長いこと、オリヴァン様の本命はコレットだと思ってきたから……信じられないの。それに、今更そんなことを言われても、どうすればいいかわからないし」


学園コレットとオリヴァンが出会う前からずっと、そう思ってきた。

それに、ミリエットは大事なことを知らない。


そう、私が偽物の精霊使いであることを。


だから、彼女からしてみれば、私は自信のない意気地なしに見えてもしょうがない。


「……分かりました。それなら、これだけは約束してください」


「何?」


「困ったことがあったら、抱え込まないで、いつでも私に相談してください」


「……ありがとう」


黙って留学へ行って、行方不明になったら、きっと彼女は怒るのだろうな。

それとも、悲しむだろうか?


そんなことを考えながら、私はミリエットと一緒に教室へと戻った。

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