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「クラリーズ様、よろしくお願いいたします」
「よろしく、コレット……さん」
考えうる限り最悪の択を引いてしまった!!
きちんと対面するのは初めてだけれど、私にとっては前世から聞いていた名前だし、今世で記憶を取り戻してからは、何度も警戒してきた名前だ。
それに……彼女がオリヴァンと仲良くしている場面だって、この学園に入学してから何度も見たことがある。
だからか、何と呼べばいいかよくわからなくなって、思わず「さん」を付けてしまった。
「あら、私のことをご存じだとは……あっ、そりゃあそうですよね」
嬉しそうに微笑んでいるようにも見えるけれど、私の先入観からか、その笑顔は私を嘲笑っているようにも見える気がした。
今日に限らず、どうも原作ヒロインのコレットより、怖いというか……上から物を見ているような目線や態度をされる気がする。
彼女は私に警戒されていることを感じ取って、敵対視しているのだろうか?
それとも原作とは異なり、既にオリヴァンが彼女に、「クラリーズは実は本物の精霊使いではない」と話しているのだろうか?
「練習時間は5分、それが終わったら1組ずつテストを開始します。では、練習を始めてください」
試験内容としては、氷玉に火を付けて、20メートル先の的に当てるというもの。
手元には何も用意されていないので、まずは魔法で水を集め、凍らせて、氷玉を作る必要がある。
その後からは作業を分担して、1人は氷玉のコントロールを、もう一人が氷玉への炎付与をすれば、効率が良いはずだ。
絶対に失敗してはいけない。
これは試験に合格しなければならない、という理由だけではない。
むしろ私の人生がかかっていると言っても過言ではない。
だって、もしこの場で事故が起こって、コレットがその事故を防ぎたいと願ったら
彼女の願いと私の付けてるネックレスが反応して、彼女が精霊使いとして覚醒してしまうから。
そしてそれは、私の人生の終わりを意味する。
試験だけじゃなくて、会場内の皆の安全にも気を使わないと……
「クラリーズ様、役割分担はどうしますか?」
「……」
「クラリーズ様?」
「あ、ごめんなさい。少しぼーっとしていたわ……えっと、最後の炎付与とコントトールだけ分担するのはどう?」
「了解しました。私、炎付与の方を担当してもいいですか?」
凍らせた状態のまま炎を付けなければならないから、炎付与の方が難しいはず。
私がそっちを担当しようと思っていたけれど、まぁ未来の精霊使いであるコレットなら大丈夫だろう。
「分かったわ。少し練習もしましょうか」
「はい」
一度2人でやってみたところ、特に問題なくこなすことができた。
そして練習中、コレットから必要外の話を振られることもなくてホッとする。
だからか、それよりも周囲の状況が気になってしょうがない。
少しのミスなら大抵、ペアの相方がカバーしているが、そうでもないペアもある。
あまりにも大事故に発展しそうなところは、私も自分の練習をしつつ、こっそり遠隔から魔法で対処した。
特にミリエットは転んで照準を誤り、他人のマントに火を付けていたので、私が急いで消しておいた。
そんなこんなしているうちに、あっという間に5分の時間は過ぎたようだ。
「そろそろ5分経ったので、始めようと思います。トップバッターになりたい方はいますか?」
「……」
とたんに静まり返るグラウンド。
先生は生徒皆の方を見ているが、誰も目を合わせようとしない。
「こうなることはわかっていました……では、クラリーズさんとコレットさんのペア、前にいらっしゃい。2人がやっている間に、他の皆も列を作っておいてくださいね」
まさかのトップバッター指名。
でも、当然と言えば当然。
だって、肩書き的には精霊使いの私と、平民だけれど魔法の才能を見込まれて異例の入学を果たしたコレット。
お手本にするには丁度いいといったところだろう。
トップバッターで注目を浴びるのは、あまり私の性格には合わないけれど、指名なので仕方なく、コレットと一緒に前へ出た。
「炎付与は彼女が、的に当てるのは私が担当します」
「分かりました。ではお願いします、お手本を期待していますよ」
先生の合図を聞いて、私たちはまず水を集めそれを凍らせる作業を行う。
そういえば小さい頃、水魔法で失敗したな……なんて考えていると、あっという間に氷の玉は出来上がっていた。
私はそっと魔法を使って、それらをコレットの目の前まで持ち上げる。
彼女は両手に炎をまとわせて、氷玉を包み込む。
しかしその炎付与が終わった瞬間、突然氷玉は勢いよく、コレットへと向かっていった。
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