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今までこんなに近い距離になったことは無い。
驚いて、薄く開いていた目を瞑る。
するとその直後、何か柔らかいものが唇に当たった。
間違いない、これは......
キスされた!?
認識した途端、顔に熱が集まるのが分かる。
あ、もしかして顔が赤くなるかどうかで、私が本当に寝ているのか判断してるのかな?
というか、私のファーストキスが......!
なんてグルグルと色々なことを考えていると、ふと正面から、小さいけれど声が聞こえてきた。
「僕、今まで本気で人を好きになったことはないんだ。でも、ひたむきに頑張る君を見ていると......」
これは、これは、まさか……
ダブルデートの待ち合わせに来る前に考えていた、
オリヴァンルートのあのセリフだ。
「他の誰にも渡したくなくなる」
彼は少し私の頭を撫でた後、隣のベンチへと戻ったようだった。
彼が動いている気配を感じながら、これからどうするべきか考える。
これ、このセリフを私が貰ったということは……
オリヴァンは私に本気ってことで……
このまま考えると、ますます顔が熱くなってきて、寝ていないのがばれてしまいそうだ。
よし、今起きたフリをして、お手洗いに行って、色々考えることにしよう。
大丈夫、私はこれでも、嘘をつき通してきた演技派なんだから!!
「ん、んー……良く寝れました。どのくらい経ちましたか?」
わざとらしく見えない程度に大きく体を伸ばし、横にいる彼に尋ねる。
もちろん、顔なんて見たら動揺していることを見抜かれてしまうだろうから、適当に周りの花を見てごまかした。
「うーん、まだ15分くらいかな? もう大丈夫そう?」
「はい、良い休憩になりました。その、手を洗いに行ってきますね」
「分かった。帰ってきたら、一緒にもう少しバラを見に行こうか」
「はい!」
落ち着いて、私の心!
恥ずかしくて、早くその場から逃げ出したい、とはやる気持ちを何とか抑えながら、私はゆっくりとした足取りでお手洗いへと向かった。
「はぁ、起きてるって気がついていたのに」
◇◇◇
別にお手洗いに用はなかったが、なんとなく1人の空間が欲しくて、個室に立てこもる。
まさか、前世で幾度となく聞いたあの言葉を、本人の口から聞くことができるなんて……
それに、本来ヒロインが受けるべき言葉を私がもらったということは、オリヴァンは私のことが好きに違いない。
精霊使いだと嘘はついてしまったけれど、その嘘をついた罪を償うために、今日まで堅実に努力を重ねてきた。
原作のクラリーズとは異なり、黒魔術には頼らず自力で公務はこなしているし、ヒロインを虐めるようなこともしていないし、周囲の人に対して高飛車で傲慢な態度もとってこなかったはずだ。
だからこそ、シナリオが変わったのかもしれない。
まだオリヴァンに対して完全に心を開ききることはできないけれど……折を見て、私の秘密を伝えて、円満にヒロインへと精霊使いの役目を継承できれば……
「もしかして私、隣国で行方不明になる必要なんてないのかも?」
考えがまとまってきたので、個室を出て鏡の前に立つ。
いくらか顔の赤みも引いてきていて、少しホッとした。
もし、行方不明にならずに精霊使いをやめることができたら、
家族やミリエットに心配をかけずに済むし、わざわざ小細工をする必要もない。
それに、これからもオリヴァンのそばにいることができる。
諜報活動のためにたくさんの人に声をかけて、仲を深めているオリヴァンの本命が、自分だと考えただけで、前世にゲームを攻略していたころの感情……つまり、好きという気持ちが湧き上がってくる。
「ふふっ」
思わずこぼれてしまった笑みはそのままに、私は来た道を戻る。
花を見ながら、彼とどんな話をしようかな。
ところが、もう少しでベンチへたどり着くその時、風向きが良かったのか、誰かの声が聞こえてきた。
いや、良かったというよりは悪かったと言った方が正しいかもしれない。
だってそれは……聞きたくない組み合わせの、聞きたくない内容の話だったから。
「それで、今日はここへは何をしに来たのですか?」
「そうだね、ここへ来たら君に会える気がして」
聞きたくない
思わず耳をふさぎたくなりながらも、どんどん会話は続く。
「実は私も、オリヴァン様がいたりしないかなと思って来てみたんです! こんなに偶然出会えるなんて運命ですね!」
「あぁ、僕もそう思うよ……花、一緒に見に行こうか」
「え……その、なんか、ここでもう少しゆっくりしたりとかは?」
「座っているより花を見た方が楽しいと思うよ? ほら手を貸して」
花の陰からおそるおそる顔を出すと、予想通り、ベンチにはオリヴァンとヒロインであるコレットがいた。
オリヴァンはこちらに背を向けて、コレットに手を差し出している。
コレットは少し怪訝そうな顔をしていたが、オリヴァンと手をつなぐと、まるで花が咲いたかのような可愛い笑顔になった。
風向きは変わってしまったのか、話し声はあまり聞こえなくなる。
そして、立ち去る2人を呆然と見つめていた私の存在を知っているかのように、彼女が私の方へ振り返った。
思わずパッと姿を隠したが、私の脳裏には、一瞬の間に焼き付いたコレットの意地の悪そうな笑顔が張り付いていた。
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