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大学4年生、就活も終わり、大学の講義もほぼなくなった時期。
前世の私は、とある乙女ゲームを熱心にプレイしていた。
それこそずばり、私、クラリーズ・ヴァレサが転生した世界である。
類い稀なる魔法の才能を持つヒロイン、デフォルトネームでいうとコレットは、平民としては異例の学園入学を認められる。
そこでの学園生活を主軸として、勉学や魔法の習得に励みつつ、攻略対象たちとの甘いストーリーを楽しむのだ。
攻略対象は5人いるが、なかでも人気なのは「オリヴァン・ルフォール」というこの国の第二王子。
銀髪に紫の目の涼し気な色合い、優し気な雰囲気、女性慣れしているしぐさや態度はまるで王子様そのものなのだが、彼の裏の顔は諜報員……いわゆるスパイ任務を行っている。
そのギャップから、この乙女ゲームファンの間では絶大な人気を誇り、かくいう私も彼が最推しだった。
そして悪役令嬢・偽物の精霊使いであるクラリーズ・ヴァレサの役どころは……
このオリヴァン王子の婚約者である。
高飛車で傲慢な彼女は、学園に入学したてのヒロイン、コレットに初日から目をつけ、ことあるごとに蔑み、けなし、虐めてくるキャラなのだ。
前世の私はクラリーズが大嫌いだった。
だから、第一王子・第二王子ルートで明かされる、「精霊使いが実はコレットの方だった」というざまぁ展開には毎回盛り上がったものだ。
特に第二王子ルートは、オリヴァンがクラリーズともかなり仲良さげな様子が中盤から強調され、プレイしている側としてはやきもきするのだが、それらはすべてクラリーズが偽物であることを暴くためであったということが明かされる。
他の人に対しても距離が近いオリヴァンだけれど、それは仕事上の都合であって、本当はちゃんとヒロインには一途というところが、これまたギャップ萌えなんだよね……
「クラリーズ、着いたわよ」
お母様のその一言で、私は一気に現実に引き戻された。
クラリーズ・ヴァレサ、8歳。
今まさに、偽物の精霊使いになろうとしているところである。
ネックレスを発見した翌日、緊急事態だということで、お父様とお母様、そして私は皆王宮に招かれていた。
私は前世の記憶を取り戻してから、どことなくふわふわとした気分で、いまいち今私がおかれている状況を把握できずにいる。
いや、把握したくないから、脳が拒んでいるのかもしれない。
あの乙女ゲームの王道ルートは、攻略本的にも、人気度的にも、実はヒロインが精霊使いであることが判明することからも、間違いなく第二王子ルート。
ということは、このまま年月が過ぎていけば……
「クラリーズ・ヴァレサ、あなたは自分は精霊使いだと名乗り、国民をだました。よって、終身刑とする!」
人生……終わってしまったかもしれない。
でも、今更やっぱり精霊なんてみえていなかった、なんて言ったら、侯爵家が取り壊しになりかねないところまで話が広がってしまっている。
ああでもない、こうでもない、と考えているうちに、ついに国王との謁見の場に着いてしまっていた。
「おお、それは間違いなく精霊使いのネックレスではないか!」
陛下は感嘆の声を上げ、私を見つめた。
「まさか私の時代に精霊使いと相まみえることになるとは、とても喜ばしい」
椅子から降りてきた陛下は私の手を握り、とても嬉しそうに笑うと、こう言った。
「明日には国民に、精霊使いが現れた、とお触れを出そう。共に私たちの国を支えていこうではないか!」
こんなのってもう……
やっぱり今更嘘だなんて言えない!!!
ヒーローは4話目で登場予定です。
それまでしばらくクラリーズの葛藤をお楽しみください。
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