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「いやー、本当に面白かったですね!」
ハラハラさせられたり、ドキドキしたりするシーンも多かったけれど、最終的にヒーローとヒロインは無事結ばれ、ハッピーエンドだった。
バラ園の方へ向かいながら、改めて感想を言うと、隣を歩くミリエットも楽しそうに笑う。
「はい、皆様本当に演技がお上手でしたし、シナリオも最高でした」
「うんうん、劇も良かったし、クラリーズの反応も面白かったな」
後ろを歩くオリヴァンが口を挟んできた。
私が言い返す前に、ミリエットが再び話し出す。
「確かに、クラリーズ様って、かなり感情豊かですものね。知り合う前までは、もっとなんかこう......私のイメージでは、怖い人というか......」
「傲慢で、高飛車で、意地悪をしてきそうなイメージ?」
オリヴァンがミリエットの言葉の続きを代弁した。
「そうそう、ってあくまで前に持っていたイメージというだけですからね! 今は違いますから!」
うっかり勢いで肯定してしまった彼女は、慌てて訂正する。
別に今は違うのなら、私は全く気にしないのだけれど。
「ははっ、まさか劇中で泣いたり、婚約者に少しちょっかいをかけられただけで顔を赤くしたりするような感じには見えないよね」
「確かに、まだ少し顔が赤いような……」
「ちょっと、今それ言う必要ないですよね?」
未だに顔の熱が収まっていないの、バレてる......!
そんな私の頭を、オリヴァンが後ろから撫でる中、ミリエットが自分からエドガーに話を振った。
「エドガー様は、その、どうでしたか? 劇は楽しめましたか?」
「……悪くなかった」
「つまり、楽しめたって言っているんだよ」
オリヴァンがエドガーの言葉を通訳すると、ミリエットは安心したようだった。
それでいて、彼女は後ろを歩く2人の方へと振り返り、少し羨ましそうな顔もしている。
「お2人はとても仲良しなんですね……」
「まぁ小さい頃から一緒にいるからね」
「……腐れ縁です」
無表情でそんなことを言うエドガーが面白くて笑っていると、彼は急に
「危ない」
と言って自分の方へミリエットを引き寄せた。
エドガーの方へと振り返っていた彼女は、彼の肩あたりに顔をうずめる姿勢になる。
「え、ひゃっ」
私たちは後ろを向いて歩いているから気が付かなかったけれど、ミリエットの前には街の花壇があった。
あと数歩歩いていれば、彼女はそのまま花壇に激突してしまっていたことだろう。
「……よかった」
エドガーはそれだけ言うと、そのままパッとミリエットを離した。
彼女はすぐにエドガーに背を向け、赤くなった顔を手で覆っている。
「エドガー様の体……体温、温かかった、いやいや、あのまま歩いていたら、私またドジを踏んでいた、あぁ、私小さい頃からこの不注意なところは何も変わってない……」
「落ち着いて、落ち着いてミリエット!」
恥ずかしさと申し訳なさと自己嫌悪でパニックになってしまっているミリエットを宥めながら、ちらりとエドガーの様子も伺う。
一見いつもと同じ無表情に見えなくもないが……よくよく見てみると、少し耳が赤いような……?
オリヴァンも横でにやにやとした笑いを隠せずにいるので、きっとこれはエドガーも照れているということだろう。
エドガーは、ただ愛想が悪くて無表情なだけで、全く悪い人ではないし、ミリエットのことも気にかけているように見える。
もしかすると、彼もミリエットと同じように、きっかけを失ってしまっただけで、本当はもっと関わりたかったのではないだろうか?
それならばきっと、2人が会うきっかけさえ用意すれば、きっと関係も修復できるはず。
案外、私がいなくなる前にどうにかなりそうだ、と安心する。
そして、ミリエットのパニック状態も治った頃、私たちはバラ園に到着した。
◇◇◇
「このバラ……確か本の中で見たことがあります! 北方原産のもので、薬としても使うことができるのでしたっけ」
「葉の部分が使われる。ここの国でもちょっとした熱が出た時に飲む錠剤に入っているな」
「そうなんですね、まだ知らないことばかりです」
ミリエットとエドガーの様子を、背後から眺める。
エドガーはずっと無表情ではあるけれど、口数は増えてきた。
ミリエットもエドガーに対してずっと緊張しているようだったけれど、だんだんと話せるようになってきたみたいだ。
「なるほど、この葉の部分ですね……痛っ」
「……!」
またミリエットがうっかりをしてしまっている。
私は音もなくポーチから絆創膏を取りだし、エドガーの手に押し付けた。
彼は一瞬驚いたような顔をしたが、手にした絆創膏を見て、なるほどという風に頷いた。
「大丈夫か? 少し見せてくれ」
「ほ、本当にずっとこんな感じですみません……」
「……」
無言でミリエットに絆創膏を貼っているエドガーを見ていると、背後から腕を捕まれ、ずるずると引きずられる。
「な、なんですか!?」
「ちょっと、バラ園に来てからずっとあの2人に夢中で、僕のことを忘れてない?」
「……ソンナコトナイデスヨ」
「やっぱりね」
拗ねた顔をしたオリヴァンが、私の腕を引いて、ミリエットとエドガーから遠ざかる。
「ちょっと、2人を置いていくの?」
「きっともう僕たちがいなくても大丈夫だよ」
彼と私は園の中でも奥まったところにあるベンチに座り、少し休憩をとることにしたのだった。
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