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「お姉ちゃん、もう行っちゃうの?」
「もう1回たかいたかいしてもらいたい!」
「ねぇ次はいつ来るの? 明日? 明後日?」
「コラコラ、みんなクラリーズ様を困らせないの! とってもお忙しい方なんだから」
「「「はーい......」」」
孤児院の子供たちの、悲しそうな顔を見て、私は申し訳ない気持ちになる。
うん、近いうちに予定をつけてもう一度来よう。
「すみません、この後に予定が入っていなければ、もう少し遊べたのですが......」
今日は休日で学園もお休みだけれど、その代わり大切な予定が入っている。
そう、ダブルデートの日なのだ。
「いえいえ、元々は孤児院の保護魔法のかけ直しと、壊れかけてきた物に修復魔法をかけていただくだけでしたのに、勉強を教えたり、遊び相手にまでなってくださったりするだなんて......」
確かに精霊使いとしての公務の範囲は超えている。
でも、普段見かけない私という人物に対する、子供たちの興味津々な目に抗えなかった。
「私がやりたくてやったことですから! また近いうちに遊びに来ても良いでしょうか?」
「勿論です! 子供たちも喜びます」
「おねーちゃんまた来るの!」
「やったー!」
それから孤児院の人たちには別れを告げ、約束の時間に間に合うように、急いで馬車に乗り込んだ。
今日は朝から神殿にも行って、王国全体の保護魔法のかけ直しもしてきたから、魔法の使いすぎでかなり疲れも溜まっている。
でも、時間に遅れるわけにはいかない。
もし、待ち合わせ場所でエドガーとミリエットが2人きりになってしまったら......ミリエットが緊張で逃げ出す未来が見える。
そこにオリヴァンも加われば......地獄の雰囲気待ったなしだ。
急がなければとはやる気持ちを抑えつつ、今日の予定をおさらいしてみることにした。
まず最初に、劇を見に行くことになっている。
とはいえプロの劇ではなく、学園の演劇部の人達による定期公演会だ。
ダブルデートの予定については、全てオリヴァンが組んでくれた。
私が思った通り、彼とエドガーはかなり交流があると言っていた。
そして、友人であるエドガーが婚約者の話を全くしないことに、違和感を覚えてはいたらしい。
というわけで、エドガーとミリエットの関係修復には彼も乗り気のようだった。
そしてそんな彼いわく、
「劇の鑑賞なら、見ている間は話さないし、久しぶりに会う婚約者とのデートにはピッタリなんじゃないかな?」
とのことだ。
前世で言う、映画館デートに似たような原理なのだろう。
彼の出した理由に私が納得している横で、
「僕と君が見に行くとなったら、演劇部の人たちも気合いが入るだろうし、嬉しいだろうからね。それに、僕らが来ると聞いて、驚いて慌てふためいてる姿を想像するのもいい。うん、まさに一石二鳥ってやつだ」
なんて悪い笑顔で言っていたのと、昨日学園で、
「どどど、どうしましょう!? オリヴァン様とクラリーズ様が明日の公演にいらっしゃるらしいわ」
「な、なんだって!?」
と大騒ぎになっていたのは、見なかったし聞かなかったことにしよう。
何はともあれ、劇鑑賞は私もとてもいい案だと思う。
そして劇を見終わった後は、貴族の間で最近流行り出したデートスポットである、バラ園に行くことを提案された。
「話を聞いた時から、クラリーズと一緒に行きたいなって思ってたんだ」
なんていつもの笑顔で言われたけれど......私は知っている。
原作乙女ゲームでは、オリヴァンとヒロインのコレットが一緒にバラ園へ行っていたことを。
なんと言ったって、オリヴァンルートを周回していた前世の私の、お気に入りシーンの1つだったから。
「僕、今まで本気で人を好きになったことはないんだ。でも、ひたむきに頑張る君を見ていると......」
これ以上セリフを思い出すと、この後オリヴァンに会った時、どんな顔をすればいいか分からなくなってしまう。
だから、えっと、何を考えていたんだっけ......
そうだ、彼がバラ園をピックアップしたのは、コレットとデートするための下見にぴったりなことも理由の1つなんだろうな、って考えていたんだった。
勿論、4人で楽しく話せる場によって、ミリエットとエドガーの距離を自然に縮めたい、って理由もあるだろうけれどね!
「よし! 今日はミリエットの為にも頑張るぞ!」
何とかして私がいなくなる半年後までには、関係修復させてみせる!
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