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「ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした……」


裏庭のベンチで、ミリエットの背中をさすっていると、だんだんと落ち着いてきたようだった。


「気にしないで、私も暇だったから」


「やっぱり噂通り、魔法の才能があるだけじゃなくて、性格も優しい方なんですね。それに比べて私は……あっ、そういえばまだ自己紹介すらしていませんでした」


落ち込んでいてうつむきがちだった顔をようやくあげて、私と目が合った。


「ミリエット・バローと申します。実は、クラリーズ様とは同じクラスです!」


乙女ゲームの登場キャラクターとして、名前も同じクラスなことも知っていたが、ここでは初めましての挨拶をする。


「そうなのね、私はクラリーズ・ヴァレサよ。さっきは……その、災難だったわね」


「災難……なんですかね、私がもっとエドガー様の婚約者としてふさわしければ良いだけの話だから、災難ではなくて、ただ自分の責任なのかもしれません」


やはり、原作乙女ゲームと同じように、婚約者であるエドガー様との間で問題を抱えているようだ。

ヒロインがエドガールートを選ばなかった場合、この二人はいったいどうなっていたのだろうか?


もしここで、私が二人に手を差し伸べなかったら、一生ギクシャクしたままの関係で……


そんなの半年後には逃げてしまう私には関係ないとも言える。

でも、心を痛めて自信を失くしているミリエットをこのままにはしておけないと思ってしまった。


「その、どうして自分はふさわしくないって思うの?」


「え、あ、その」


「話したくないのなら話さなくて大丈夫よ。でも……一人で抱え込むよりは、初対面の私だろうと話した方が、気が楽になると思って」


私が説得すると、彼女は少し悩んだあとに、眉を下げながら笑った。


「……本当に優しい方ですね。少し長くなってしまうかもしれないですが、聞いてくれますか?」


「えぇ」


一呼吸おいてから、ゆっくりと話始める。


「私が幼い頃、私の両親の人柄を買われたことと、家柄も釣り合っていたことから、私はエドガー様の婚約者になりました。でも……その後、隣国との取引の場で両親が騙されてしまい、家は大きな損失を被ったんです。そこからは、もはや私たちには家の名前しか残っていませんでした」


両親はあまり人を疑わない、まっすぐな性格なんです、と彼女は笑った。


「このような状態では、公爵家の令息であるエドガー様との婚約を継続することなんてできないと、そう思っていました。でも……公爵家の皆さんは私たちのことを見捨てないでいてくれたんです」


確かに一般的にそのような状態になってしまったら、婚約は解消されることが多い。

そうならなかったということは、きっと彼女の両親と彼女自身がとても良い人ということだろう。


「私は、見捨てないでいてくれたことに対して恩返しをしたいと思って、色々頑張ってみたんです。魔法、経営学や歴史の勉強、社交会で役に立ちそうな知識のリサーチ、エドガー様の横に立てるようにたくさん努力したつもりでした。でも、努力でどうにかなる範囲……例えば歴史や人名の暗記などは良いのですが、暗記ではどうにもできないことについてはダメダメでした」


得手不得手はあれど、きっと彼女も両親と一緒で、努力を惜しまないまっすぐな人であるのだろうことがうかがえる。


「ちょうどその時、エドガー様からかなり多くの方が集まるお茶会に、婚約者として一緒に参加しようと、手紙を通じて誘われて……できないなりに今まで努力したことを発揮するチャンスだと思って、精一杯頑張りました。でも、当日は頭が真っ白になってしまって、変なことを口走ったり、テーブルクロスに躓いて物をひっくり返したり、他の方のドレスの裾を踏んでしまったり、とにかく散々で」


そこで一旦彼女は言葉を切り、乾いた笑いを漏らす。

それは自嘲気味な笑い方で、聞いている私も胸が痛くなった。


「それだけならまだ良かったのですが、帰りの馬車の中で、私悔しくて恥ずかしくて、エドガー様もいるのに泣いてしまったんです。その時彼は……ハンカチを貸してくれましたが、無言でずっと険しい顔をしていました。そしてそれ以降、彼からの誘いはパッタリ失くなってしまったんです」


それでそのまま今に至ります、と彼女は昔話を終えた。

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