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第08話:予想外な遭遇

「ど、どうして亮さんがこ、こここ、ここに!?」


 どうやら朔夜は、突然俺に会った事に対して動揺が隠せていないようだ。

 その為か、震える手で紅茶を置く仕草は、実に危なっかしい。

 メイド服は、意外と似合っているが。


「俺は圭吾に誘われて来たんだ。お前こそ、何でここに居るんだ?」

「ん? なんだ、亮。この子と知り合いか?」

「知り合いも何も、クラスメイトだ」

「へぇ~、クラスメイトだったのか。――俺は本田 圭吾だ。よろしく!」


 親指をグッと突き出し、満面の笑みで言った圭吾に、朔夜は笑顔で返した。


「あ、私は九条 朔夜です。よろしくお願いします」


 と、その時だ。

 名前を聞いた圭吾は、不意に表情を変えた。

 笑みから疑問の表情へ、だ。


「九条……? もしかして、天然要素が香る九条ちゃん……?」

「て、天然って言わないで下さいよ!」


 トレイを抱き抱えて訴える朔夜を他所に、圭吾は勢い良く立ち上がって叫んだ。


「天然の女神、ここに見つけたり! まさかまさかの、偶然な出会いですぜ!」

「うるせぇ、阿呆」

「ぐべっ!」


 他の客の迷惑になるだろうと思った俺は、立ち上がって圭吾の首筋に手刀を叩き込む。

 すると圭吾は、奇怪な声と共にテーブルに突っ伏し、ピクピクと痙攣を始めた。

 ……虫みてぇだな……。

 って、あれ? 痙攣? 角度、間違えたか?

 とりあえず馬鹿は無視し、座り直して朔夜の方を向く。


「で、話を戻すぞ。なんでここに居るんだ?」

「あ、私は幼馴染みの紹介で、アルバイトとして一緒に働いているんです」


 知り合いの紹介、か。

 圭吾も見習って欲しいもんだねぇ。

 ま、期待はしていないが。


「どうしたの朔夜? 何かトラブル~?」


 突然にして、メイドの一人が朔夜に話し掛けて来た。

 どうやら、朔夜が俺達客と話している様子が気になったらしい。

 そのメイドは、朔夜の隣に立つのと同時に俺と目が会う。


「ん? その制服は……。もしかして、私と同じ飛翔鷹高校の生徒君かな? って事は、朔夜のお友達?」


 そのメイドは、どうやら俺達と同じ学校らしい。

 つまりは、彼女が朔夜の言っていた幼馴染みなのか?

 それにしても彼女、勘の鋭い人だな。


「あぁ、そうだ。そんでもってクラスメイトだ」

「へぇ~、朔夜に男友達とはねぇ? 珍しい事もあるもんだにゃ~」


 そう言いながら、彼女はニヤニヤと朔夜を見る。

 同時、何かを思いついたかのように拍手を打った。


「そうだ! 朔夜、この人達を私に紹介してよ」

「あ、はい! えと、こちらが霧島 亮さんで、こちらが――」

「本田 圭吾ッス。よろしく!」


 お前、いつの間に復活した?

 ってか、先に言うなよ。


「あ、……えと、そしてこちらが私の幼馴染みの――」

「二年の高崎(たかざき) 真佑美(まゆみ)だよ。朔夜とは昔からの仲なんだ~。とりあえず、よろしく~」

「あぅ~……」


 朔夜、テンションダウン。

 そりゃあ、紹介を任されたのに自分より先に名前言われちゃ、落ち込むわな。


「二年生って事は、先輩と呼ぶべき人じゃないッスか!」


 先程まで朔夜に天然が何とか言って興味を示していた圭吾は、落ち込む朔夜を全く気に掛けていないようだ。

 酷い男だ。絶対、女に刺されて死ぬタイプだなこいつは。

 お~、怖い怖い。

 そして、圭吾の素早い反応に真佑美は、あははっ、気にしなくて良いよぉ、と言って笑った。

 ……って、ん? 飛翔鷹高校二年の高崎?


「高崎ってもしかしてあの、高崎コンポレーションの?」

「おや? 我が家も有名になったねぇ。そう、その通りだよ」


 高崎コンポレーションは東京崩壊時、救済作業及び新東京都の開発を支援した大企業の一つだ。


「ちなみにちなみに、このお店も我が家が経営してるんだよぉ~。私、ここの店長っ!」

「マジッスか!? そんじゃ、友達って事で割引してもらえないッスか!?」


 真佑美の言葉に、圭吾が勢い良く食らい付いた。

 せこいぞ。


「う~ん……。常連客になってくれるのなら、考えてあげても良いよぉ?」

「なる! なります! いや、ならせて下さい!!」


 言いながら圭吾は、勢い良く長椅子の上で土下座した。

 ……そこまでしてでも、割引して欲しいもんなのか?

 確か、


「それでは、これから亮と共にちょくちょく来させて頂きます」

「は? ちょ、おま――」

「まいど~」


 こらそこ、まいど言うな! ……まぁ、別に良いんだが。

 来なきゃ良いだけだし。

 そして二人は、今後の入店についての話を始めた。

 俺は呆れながら視線を逸らすと、丁度朔夜と目が合い、揃って苦笑い。

 たぶん、朔夜も呆れているのだろう。

 丁度その時だ。

 カウンターの方から、元気の良い声が聞こえた。


「店長ー、九条さーん! そろそろR入ってもいいですよー」


 その声は、真佑美と朔夜に休憩の時間である事を知らせたようだ。

 ……ってか今、こうやって話しているのは休憩の内に入らないのか?


「はーい! ――それじゃ、また学校で会おうね~」

「では私もこれで。また明日、会いましょうね」


 そう言い残して、二人はカウンターの方へと走って行った。


「――なぁ、Rってロスタイムの事か?」


 馬鹿は放っておこう。

 すっかり冷めた紅茶を一気に飲み、伝票が表示された小型電子板を持って俺達はレジへと向かった。

 ……そう言えば、Rってどういう意味だったっけ?

 たしか、レストだったかな。










 いつもとは少し違う帰り道を、女子では無く男子と肩を並べて歩くってのは、全く嬉しく無いもんだな……などと思いつつ、その男子である圭吾と下らん話をした後、いつも通りの分かれ道でそれぞれの帰路へと向かった。

 俺は残り僅かな帰路を、綺麗に咲く桜を見ながら歩き続ける。

 この桜も、あと半月程で見られなくなるんだろうなぁ。

 しばらくそんな事を考えていると、やっと自宅のマンション前。

 俺は、エレベーターに乗って七階のボタンを押した後、ここまで来る間にどれ程内心で喋っていたのかを考え、すぐに止める。

 それとほぼ同時、七階に到着する音がしてドアが開き、自宅まで後少しだ。

 エレベーター近くのドアの前に大量の新聞紙と成人誌が置かれているのを気にしつつ、安息の場へのドアを開けた。


「やっとの思いで……。ただいま~」

「あ、お兄ちゃん! ナイスタイミング、だよっ」

「どうした夢月、そんなに急いで。エプロンが解けてるぞ?」

「そんな事どうでもいいから、とりあえず来てきて!」


 そう言うと夢月は俺の手を取り、リビングへと引っ張った。

 そしてリビングの端にある液晶テレビを指で指して、俺に問い掛けて来る。


「見てみて、この人。この学校名って、お兄ちゃんと同じだよね?」


 夢月が言う液晶テレビにはニュースがやっており、どうやらどこかの組が暴行事件を起こしたらしい。

 だが、この事件の被害者の写真を見て驚いた。

 そこに写っていたのは、前に一度屋上で出会った一匹狼の神田 日向だったからだ。

 なんでも、先に暴力を振るった暴力団組員を数人打ち負かしたそうだ。

 ……何で数人相手に勝てるんだよ……。

 思わず、溜息が漏れた。

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