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第55話:超重要事項の内容は。

 俺は今、かなり緊張していた。

 一生で二度目となる、超重要事項クラスの手紙。

 初めて受け取ったのは、次期頭首の継承式に関する内容だったか。

 そんな事を思い出しつつ、暫くその手紙を見つめる。

 だが、意を決して封を破り、慎重に中身を取り出した。

 出て来たそれはいくつにも折り畳まれた物で、広げるとかなりの長さだ。

 それもまた筆で書かれており、堅苦しい言葉が並んでいる。

 故に流し読みをするが、ある部分が目に留まった。

 〝桐嶋家先々代と高柳家の先代である御老体が殺害されました〟

 我が目を疑った。

 御老体だから、亡くなったという報せならまだわかる。納得出来る。

 しかし、この報告は殺害されたというものだ。

 何故、殺されたのだろうか。

 既に頭首の座を下り、隠居していた奴らが。

 そんな事を思いながら、以降の文を読み進める。

 〝先日、霧島家先々代が高柳の下へ会いに行く、という言葉を残し、側近と共に外出なされました。しかし、それから数日経っても先々代は帰って来ず、危機感を覚えた私共は、榊家総出で高柳家先代の下へと向かったのです。するとそこで、大量の薬莢と斬殺された霧島家先々代、高柳家先代、銃を握った彼らの側近の死体が発見されたのです〟

 そこまで読んで、一息つく。

 脳を整理しようとするが、上手く出来ない。

 余りにも唐突過ぎる死は、俺に驚愕しか与えなかった。

 すると糞爺は俺の手から手紙を引ったくり、マジマジと読み始める。

 数分が経ち、ようやく読み終えて手紙を折り畳み出した糞爺は、溜息をつく。


「……実はのう、昨日の話になるんじゃが、榊家先々代が殺害されたと聞いたのじゃ。わざわざここまで来た、護の口からな」

「榊家もか!? 一体、何が起きているんだ……」

「全く分からん。じゃが、霧島と高柳両家の御老体と、榊家御老体の死には明らかな時間差がある。故にか知らんが、一部の分家の阿呆共は一昨日まで、榊家を疑っておったのじゃ」


 本当に阿呆だな、と内心で呟く。

 一般的には疑うのは当然だろうが、俺達の世界ではあってはならない事だ。

 絶対の信用と繋がりを誓ったからこそ、三貴家という組織が出来上がったのだから。

 そのに疑いが生じるのは、屈辱以外の何者でも無い。


「だからこそ、護はこの事件の解決に全力で取り組むそうじゃ。濡れ衣を被せられたまま死んでいった先々代の無念を晴らす為にな」

「さすが護というかなんというか……。ってか、護はそれを告げる為にわざわざ大阪に?」

「いや、他にも用があって大阪に来ていたようじゃ。そのついでに立ち寄ったそうじゃよ」


 もう動いているのか。

 さすがだな、と褒め言葉を今度は内心で呟きつつ、糞爺が折り畳んだ手紙を再度開いて読み返す。

 何か、引っ掛かるのだ。

 いや別に、事件に関わった事ではないんだが。

 事件に関係無い部分で、気になるところが。

 ……あ、

「糞爺。俺は、高柳家は消失していると聞いたが、なんで先代は居るんだ?」


 問うと、糞爺は驚いた表情を見せた。

 なんじゃ今更、とでも言いたげだ。


「もしや、孫は知らなかったのか? 高柳家は先代の息子、簡単に言えば御老体の息子じゃな。そいつに頭首を継がせたのだが、去年唐突に娘と共に行方不明となったんじゃ。また、高柳家先代の方は二年前ぐらいから体調を崩して寝たきりになってな。事実上、高柳家は消失扱いになったんじゃ」

「隠居ってのはそういう意味でもあった訳か。ついでに言えば、高柳家の御老体が先代と呼ばれている理由は、俺達みたいに孫へと継承していないからか」


 少し脱線した確認だが、否定が無いという事は正解という事か。

 三貴家頭首の中で、唯一頭首が大人である高柳家。

 その彼が――いや彼らがか――行方をくらましたのは何故だろうか。

 去年。

 何か、本家やその分家の間で、俺の耳に入るほどの事件はあっただろうか。

 もしくは、個人として何かあったか?

 ……何も思いつかねぇー。

 一体、高柳親子は何を思って……親子?

 娘が居ると先ほど聞いた。

 俺も、幼い頃に数回会ったのを覚えている。

 確か俺と同い年だった気がする。

 そして、行方をくらましたのは高柳家頭首とその娘。

 どうでも良い事だが、それでも聞いておきたい質問ばかりが生まれる。


「なぁ、糞爺。さっき、行方不明になったのは頭首とその娘って言ったな。母親はどうした?」

「母親はのう……HEAVEN事件に巻き込まれて亡くなったわい。それ以降、頭首が男手一つで娘を育ててたんじゃ」


 またしても初耳だった。

 とは言っても、あの事件の時は多くの葬儀に出席させられてた為、もしかしたら高柳家の葬儀にも出ていたかもしれない。

 連日葬儀だった所為か疲労で記憶が曖昧となり、今となっては断片的に、というか誰かの葬儀に出席していたってな感じに、大まかな事しか覚えていない。

 故に、葬儀に居たとされる三年前の高柳家親子がどんな奴らか、それさえも記憶には無い。

 こういう時、自分の無関心さに嫌気がする。


「おい孫。そこまで深刻な顔をするでない。っというより、この話はもう纏めに入るぞ」


 俺はそんなに深刻な表情をしていたのか?

 自覚が無かった……。


「高柳家の先代と霧島家、榊家両先々代が殺された。動機も犯人も不明。現在、その事件の解明は榊家と、おそらく少数の榊家協力派の分家のみが行っている。これくらいかのう」

「高柳親子については触れないってか」

「関連性は感じないからのう……。親子についての情報は、孫の自己満足の為だけに話しただけじゃし」


 ふむ、と呟き、背もたれに身体を預けて踏ん反り返る。

 同時に深い溜息をつき、机の下に手を伸ばす。

 こちら側からは見えない為、何をしているのか把握出来なかったが、手を机の上に出した時、持っていたのは茶色い液体の入ったグラスだった。

 ウィスキーだろうか。

 糞爺はそれを一気飲みし、かーっと爽快な声を上げた。


「やっぱ、ウィスキーは美味いのう。にしても、話し続けてると喉が渇いて仕方無いわい。老いには敵わんのう……」

「ウィスキーじゃ喉は潤わないんじゃないか? 渇きが悪化するだろ」

「それは飲んだ事無いから言えるんじゃ。孫も、飲むようになったら分かるわい」

「糞爺に昔、無理矢理飲まされたよっ!」


 何が、お茶だから一気飲みせい一気飲み、だ!

 片手で口元を鷲掴みにされ、もう片手に持った瓶の中のウィスキーをぶち込まれたのを思い出した。

 あの時は、事前に水で割ってあった事もあって、大事には至らなかったが、酒で溺れかけた。

 以来、ウィスキーはトラウマだ。


「あぁ、合宿の時だったかのう。懐かしいわい。ちなみに今年もやるからの、合宿」

「和葉から聞いたよ……。どうせ、強制参加なんだろ?」


 問うと、当たり前じゃ! と大声で言って、親指を突き出された。

 それとほぼ同時に、後ろの扉が開く音が聞こえ、続いて声が来た。


「源次郎様。後数分ほどで飛翔鷹高等学校の見学が終了致しますので、切りの良いところでお開きとして下さい」


 凛とした声が室内に響く。

 振り向けば、先ほどの秘書が扉を全開にし、両手を下腹の前に添えて立っていた。

 対し、糞爺は彼女に短い返事をした後、「孫よぃ」と訳の分からん呼び方で俺を呼んだ。


「今年の合宿は、連れて来たい奴は全員呼べ。孫も大分出来上がって来たからのう余裕が出来たわい」

「なら、圭吾を真っ先に推薦するぞ」

「圭吾か。奴は……まぁよい。人数制限は無いからの、誰でも良いぞ誰でも特に女子(おなご)


 最後に本音出たな糞爺。

 ともあれ、用は済んだのだ、戻るとしよう。


「じゃ、またな糞爺。次会う時はお前の死に際の病室である事を祈るよ」

「はっはっはっ! わしゃ、そう簡単に死なんよ。もしかしたら、孫より長生きするかもな!」


 馬鹿言え、と吐き捨て、身体を翻して秘書の下へと向かう。

 そして社長室を出る直前、片手を上げておいた。

 糞爺は気付いただろうか。

 背中越しであり、また今は扉が閉まった為にもう確認のしようも無く、そのままエレベーターへと乗り込んだ。

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