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第49話:生徒会からの勧誘

「いよっしゃあぁぁ!! やっと終わったあぁぁ!!!」


 突然の声は、教室中に響き渡った。

 その為、俺を含めて全員が、一斉に声のした方向を見る。

 そこには、椅子の上に立って人差し指を高々と上げている圭吾の姿があった。

 ……面倒臭い奴め。

 内心でそう悪態を吐き、溜息を深くつく。

 そして、腕時計に目をやった。

 時刻は九時五十分で、日付はテスト最終日である九日の金曜日だ。

 そのテストは最初の一時間で終わり、今は三十分程の休憩時間が与えられた。

 何でも、その後に新築の講堂にて、生徒会役員による修学旅行の説明があるとか。

 多分、説明をする生徒会役員ってのは、

「失礼します、亮さん」

「……いきなり本人の登場かよ」


 ソイツ、巴は突然に教室の戸を開けて入って来ながら、俺の名を呼んで近寄って来た。

 ……ってか、入って来る時の言葉がおかしいと思うのは、俺だけか?


「おはようございます、亮さん」

「あぁ、おはよう。そしてA組から遥々、ご苦労さん」


 言いながら辺りを見渡すと、見事に多数の生徒の視線が俺達に向けられていた。

 その為、俺は圭吾でも見てろという意味を込めて、顎を圭吾の方に向けて数回振る。

 するとこちらを見ていた生徒全員が何故かほくそ笑み、仕方なさそうに圭吾へと視線を移した。

 ……何だ、この無駄なシンクロ率は。

 とにかく、巴にここへ来た用件を聞いて、さっさとお帰り願おう。


「で、何の用だ?」

「はい、実はですね……詩織の命日のあの日、亮さんが帰られた後に、小さな女の子を連れた女性が来たんです。僕達と同い年くらいの」


 耳元で、誰にも聞こえないように小声で話す巴の声には、少し嬉しそうに感じ取れる。


「それで、その女性が詩織のお墓に手を合わせた後、不意に僕の方を向いて、この子知り合い? って聞いてきたんで、友達です、って答えたんです。そしたらその女性は少しの間を置いて、彼女が助けた人は今も生きている、記憶喪失だけどね、って言い残して帰って行ったんですよ」

「……ちょっと待て。つまりは、その時に助けられたっていう記憶が、その人には無いって事か?」


 じゃなくて、

「ってか、誰なんだ? その人、生きていた人って」

「僕にもわかりません。でも、少なくとも助かった人の情報が入ったんです。それだけでも、よかったです」


 ……確かに、コイツにとっては重要な手掛かり。

 長い間、探し続けていた奴の情報が、少なからず入ったんだ。

 それだけでも、良しという訳か。


「……まぁ、伝えたかったのはコレだけです。それでは、また」

「ん? おう、またな」


 短い、それでも重要な内容だったな。

 そう思いながら、去って行く巴の後ろ姿を見ていると、突然姉御がぬっと顔を視界に入れてきた。

 顔が近い。


「突然だが、お主に問おう。わしが尊敬する西城殿とお主は、知り合いか!?」

「あ、あぁ、そうだが……尊敬? 尊敬しているのか?」


 意外な言葉に驚き問うと、姉御は腰に手を当てて大きな胸を張り、当然じゃ、と答えた。


「あの者、西城殿は素晴らしい。生徒会役員一年代表を務め、その就任式での演説には心打たれる程の強い信念が感じ取れたのじゃ。西城殿こそ、来年の春の選挙で生徒会長に立候補する者として相応しい……!」

「結構高評価なのな。――ってか、来年の春? 生徒会長ってのは、三年がやるんだろ? 二年の選挙は早くて秋だろうに」


 何言ってんだお前、という顔で言うと逆に、何言ってんだコイツ、って顔を返されてしまった。

 しかも姉御は、ご丁寧に溜息と肩竦めをセットで。

 傷付くわぁ……。


「この学校の事、何も知らぬのだな、お主は……いいだろう、話してやろうぞ。――この学校の生徒会全般は、三年生ではなく二年生が中心なんじゃよ。三年生は進級した時から、進学に集中する為に生徒会から手を引くのじゃ。進学校である飛翔鷹高校では、進学の方が圧倒的に多いからのう」

「だから、生徒会長などの上位クラスは、二年が真っ当するって事か」

「うむ、その通りじゃ。……時にお主、提案なんじゃが、生徒会執行部に入らぬか?」

「パスだ」


 俺、即答。

 姉御も、まさか即答されるとは思っていなかったのか、口を開けたまま固まった。

 だが、すぐに再起動し、空いている席の椅子を持って来て俺と向き合う形で座った。


「……今現在、執行部として相応しい手練(てだれ)が、この学校にはおらんのじゃ。お主とわしを除いてな。故に、お主の力が必要なのじゃ!」

「あのなぁ、それは生徒会が生徒を力で捻じ伏せるようなもんじゃねぇか? そんなもの、どっかの独裁国だけで充分だ。力よりも、話術の優秀な奴を探せ」

「それはわかっておる。じゃが、それだけでは足りぬのだ……時にはどうしようも無いくらい、力が必要なんじゃ……。それに、現・生徒会長もお主を欲しておる」


 最後の言葉に、俺はピクリと反応する。

 生徒会長という優秀な存在が、一生徒でしかなくその上過去に問題を持っている俺を間接的に勧誘しているのだから、当然だ。

 ……だが、考える時間が欲しいな。


「少し、待ってくれないか? テストが終わったばかりで、脳が疲れてるからよ」

「む……毎時間、早く終わらせて眠っていたというのに、疲れたというか……まぁよい。では、ここらで失礼するぞ」


 良く見てらっしゃる。

 言って軽く会釈した姉御は、立ち上がって椅子を元の場所に戻し、自分の席へと戻って行った。

 ……生徒会執行部ねぇ。

 正直、あまりそういう責任の問われる組織には入りたく無い。

 俺はただでさえ校内にも他校にも顔が広がっているんだから。悪い意味で。

 そんな俺が問題を起こして、生徒会に迷惑を掛ける訳にはいかないと思っている。

 生徒会長が、それでも良いというのなら話は別だが、生憎、俺はそこまで買われていないだろう。

 ともあれ、考える時間は必要な現状だ。

 その結果に行き着き、吐息して圭吾を見る。

 すると圭吾は、未だに椅子の上に立っており、訳のわからない踊りをやっていた。

 ……良いねぇ、悩みのなさそうな幸せ者は。










 三十分の休憩を終え、一年全員は新築であり別棟にある講堂という場所に集められた。

 内部はかなり広く、体育館同様、入って正面に当たる場所には広いステージがあり、その中央には教卓のような物が置かれている。

 そのステージを中心として、出入口に近付くに連れて坂を上るような形となっており、出入口からステージを見る場合、軽く見下ろす形となっている。

 そして、一番下から平行に、映画館にあるような固定された折り畳み式の椅子がずらりと敷き詰められていた。

 また、それらと同じ造りの物が二階にもあり、こちらは来賓や保護者、一般客用となっているようだ。

 まぁ、一言で映画館かコンサートホールと言えばいいのだが……。

 ちなみに俺達のクラスはその坂の一番下から十段目くらいの位置にあり、その列の椅子に座って校長の話を聞きつつ、現在進行形で絶賛暇中だ。

 と、その時。

 丁度真後ろの席に座っている圭吾が、俺の肩を突きながら声を掛けて来た。

 その声は、小声だがはっきり聞こえる事から、前屈みの体勢になっているのだろう。

 だから俺は、背凭(せもた)れに頭を沈め、振り向かずに口を開く。


「……何だ?」

「ちょっと聞きたい事があってね。――さっき、姉御と何話してたんだ?」

「お前ががっつくような内容じゃないぞ? ただ、生徒会執行部に入ってくれないか、と言われただけだ」


 言うと圭吾は、なにぃ!? っという声を上げて、俺の頭を両手でガッチリと掴んできた。

 そしてそのまま小刻みに揺らしながら声を殺して、

「生徒会執行部に誘われたぁ!? 鬼神と呼ばれるような事を過去にやって今現在他校にもその名が知れ渡っているお前が生徒会執行部に……!?」


 驚きのあまりか、呼吸せずに一気に言った圭吾は、数回深呼吸して溜息をついた。


「……姉御も、何考えてんだろうねぇ。こんな大問題児を執行部に誘うなんて」

「知るかっ、こっちが聞きてぇよっ。……だが、誘ってんのは姉御だけじゃないらしい。生徒会長も、俺を誘っているそうだ」

「生徒会長? ……あぁ、生徒会長がか……」


 なんだ、その納得したような反応は。


「生徒会長なら、納得なのか?」

「もちろん。……ってか、生徒会長の噂を知らないのか?」

「知ってる訳無いだろ。詳しく教えろ」



 そう命令しつつ、話を終えて頭を下げた、ステージ上の校長を見る。

 ……あ、(カツラ)が落ちた。

 絶対に落ちない鬘があるこのご時世に、落ちるような鬘を着けるとは……。

 鬘愛用者のクソジジイ曰く、落ちる鬘は鬘にあらず、との事だ。

 俺には関係無い事だから、別にどうでもいいが。

 とりあえず、大爆笑をしている一年全員が止まるまで、校長は赤面必須だろう。

 などと思っている間に、圭吾が話を始めた。


「今年の生徒会長はな、今までに無い美青年であり、成績優秀で人望が厚いんだ。その上、やる事成す事全てが大規模で、受けもいいんだ。まさに、バの付くケモノだよ」

「普通にバケモノって言えよ。……で、その生徒会長が俺を誘うのは、納得出来ると?」


 いつまでも笑いの止まらない一年全員に堪忍袋の緒が切れたのか、マイクを持った鬼頭がステージに上がった。

 そして深く息を吸い、

『貴様らぁ! 静かにしろ!!』


 怒声で叫んだのと同時、キーンッという音がスピーカーから鳴り響き、そのダブルコンボによって一斉に静まり返った。


「どうしたんだ? 鬼頭先生。……ま、いっか。――納得出来る例を挙げると、創立記念日の時、柄の悪い奴らが騒動を起こしたらしいんだが、そいつらを止める為に、モノホンのヤクザを呼んで止めさせたそうだ。また、部員の一年生全員に可愛がりとかなんとかほざいて重傷者を出した部活があったんだが、二・三年生が全く反省の色を見せなかったが為に、部を潰したそうだ。二・三年生を病院送りにしてな」


 一息。


「つまりは、だ。校内の風紀を、いや秩序を守る為なら、どんな事でも限度を超えて行なう奴なんだよ。まさに、目には目を、歯には歯を、って事だな。それでも人望が厚いってのが、驚くべきところでもある」

「だからこそ、過去に問題を起こしている俺でもお構い無しって訳か」


 なんとも単純な事だったな。

 ……何かを守る為ならどんな事でも、か。

 どことなく護と性格が似てるところから、結構な切れ者なんだろうなと想像出来る。


「……ま、執行部に入るつもりなんてないがな」

「おぉ! そう言ってくれると思ったぜ! それじゃ、一つ頼みがある。俺が作った部活に入ってくれ」

「……は?」


 突然の勧誘に、思わず後ろへと振り向く。

 そこには誇らしげに、満面の笑みを浮かべる圭吾の姿があった。

 その表情は、何かを企んでいる時の圭吾の表情だった事に、後から気付いた。

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