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第04話:一匹狼と生徒会役員

「すまん、俺購買行くわ」

「はい? 夢月ちゃんの手料理弁当は?」


 告げて立ち上がる俺に、満面の笑みで近寄って来た圭吾は表情を一転させ、目を丸くして驚きながら問い掛けて来た。


「いや、今日の朝、夢月をちょっと怒らせちまって……。自然と弁当抜き」


 本当は、急ぎ過ぎてて弁当を持って来るの忘れたんだが。

 ……また、怒られるな……。


「そんなぁ~、それじゃあ学校に来てる意味が無いじゃねぇか!」

「……お前は、夢月の弁当だけの為に学校に来てたのか?」

「おうよ! 中三の時からずっと三分の二が弁当目当て」

「なら一日ぐらい我慢しろ。出来なきゃ消しゴム食ってろ。それじゃ、行ってくる」


 如何にも面倒臭そうな口調で言った後から教室を出る直前まで、圭吾は大声で訳の分からない事を言っていた。

 フンッ、文句など何度でも言っていろ。その分、お前は夢月の弁当から遠ざかって行くのだからな。

 ……人が悪いな、俺。

 自粛の為、自分に突っ込みを入れておき、購買へと向かう。

 一階の玄関近くに構えられた、まるで食堂の厨房みたいなその場所は、カウンターテーブルのような部分があり、その奥に店員が居る形となっている。

 俺はその場所で焼きそばパンを無事に購入した後、どこで食うかなと思いつつ、この時間は人気が無さそうな屋上へ行ってみる事にした。

 無駄に長く、疲れる階段を最上階まで上り切り、屋上へ繋がる扉を開けると案の定、誰も居なかった……っと思ったが、

「先客かよ」


 視界が開け、さほど広く無い屋上の周りを、俺の背と同じ位の高さがあるフェンスに囲まれたその奥に、人影が一つ。

 どうやらその人影は、男子生徒のようだ。

 黒髪は邪魔にならないのだろうかと思える程長く、背中の辺りまで伸びており、風に僅かながら靡いている。

 その男子生徒は、パンを食いながら、フェンスに正面からもたれ掛かっていた。

 ……あぁ、カレーパンか。

 とりあえず、声を掛けてみる。


「……よう、お前もいつもこの時間はここに居るのか?」


 問いに反応してその男子生徒がこちらを向くと、そいつの顔にはどこか見覚えがあった。

 ……そりゃ、美形だが、そういう意味で見覚えある訳では無いと付け足しておく。

 ってか、こいつの表情が、どこか俺を小馬鹿にしているように見えるのは気のせいだろうか。


「おかしな事を言う奴だな。昨日、入学したばかりだぞ。今日が初めてだ」

「あ~……一年だったのか。――っと、とりあえず、隣良いか?」

「問題無い」


 ありがたく許可を頂いた俺は、長髪の男子生徒の横に座る。

 そこからさり気無く後ろを振り向いて見える光景は、一面に広がる街並みだ。

 また、横を見れば校舎の屋根も見えた。

 そこには、大量の巨大なソーラーパネルが敷き詰められていた。

 屋上が校舎に比べて小さいのは、これが理由だったのか。

 エコって奴だな、節電だ。もしくは、艦隊を壊滅させる為か。

 明らかに前者だな、と内心で呟きつつ、焼きそばパンに施されたラップを綺麗に剥がし、一口齧る。咀嚼。

 この間、大体三十秒程。

 空気が重い故に、動作がスロー化してしまう……。

 あ~……何か切り出す、か。


「あ、俺は霧島 亮だ。お前は?」

「……神田 日向(かんだ ひなた)だ」


 突然の自己紹介だったのに、日向と名乗ったこいつは直ぐに答えた。

 まるで、俺が名前を言うのを待っていたかのように……って、

「神田? もしかしてC組か?」


 驚きつつ出した問いに日向はこちらを見ずに、そうだ、と答えた。

 そうか、だから見覚えがあったのか。まさか、クラスメイトだったとは。

 良い偶然だ、と思いもう少し話そうかと思ったが、話題が出て来ない。

 結局、チャイムが鳴っても何も浮かばなかった為、立ち上がってクラスに戻ろうとした。

 だが、日向は一歩も動こうとしていない。


「……チャイムが鳴ったが、行かないのか?」

「後から行く」


 またしてもこちらを見ずに答えた為、俺は言葉を返さずに屋上を後にした。

 その途中、さりげなく呟く。


「一匹狼、か」


 その一言は他の誰の耳に入る事無く、僅かに響いて消えた。

 実際、誰にも聞いて欲しくは無い呟きだったので、ホッとしておく。










 午後の授業は何の騒ぎも無く、順調に終わった。

 それは、圭吾が空いた腹のまま午後を耐え切る為に寝ていたからである。

 ……平和だったな。

 思い、微笑を漏らしながら、教科書などを机に全て入れ終えた空の鞄を持ち、机に突っ伏して眠っている圭吾の下に歩み寄る。

 そして、圭吾の椅子を軽く蹴った。

 すると圭吾は驚いたのか跳ね起きて、目を見開いたまま辺りを見渡した。


「何だ! 敵襲か!? ……って、亮かよ。つまらねぇ事するなよ……」


 敵襲って、どれだけ壮絶な夢見てたんだよ、こいつ。

 とりあえず、悪態を吐いておく。


「お前なぁ、今はもう放課後だぞ?」

「へぇ……」


 軽く相槌を打った圭吾は、ゆっくりと顔を黒板の真上にある時計の方に向ける。

 そのままジッと見て、そして立ち上がった。

 勢いで椅子が倒れ、五月蝿い音が響くが、気にしていない。


「放課後じゃねぇか!」

「何だよ、その平成初期のようなボケは」

「お前、平成初期生まれの人に謝れ! 多分、鬼頭先生だ。謝って来い! と、そうじゃなくて。すまんが帰り寄る所があるから一緒に帰れねぇわ!」

「そうか、まぁ別にい――って、速いな……。本当、変わらねぇ馬鹿だ……」


 呟き、苦笑を漏らす。

 そして圭吾が通ったのと同じ戸を通り、他の下校生の流れに乗って階段を下り始める。

 ……にしても四階から下りる生徒、つまりは一年生だけでも結構な量だ。

 流石と言えば流石なのだろうか、有名私立校さん?

 と、答えが来る筈の無い問い掛けをしつつ、ようやく一階に到着。

 このまま生徒玄関まで行こうか、と思ったのだが、やけに喉が渇いた。


「……確か、別棟に自販機があるって、昨日聞いたな。たまには役に立つなぁ、圭吾は」


 馬鹿に賞賛を送りながら、階段の真正面にある別棟への渡り廊下を通り、別棟へと向かう。

 そこは、教室のある側の棟とはやはり光景が違い、色々な部活の名前が書かれたプレートが多数見える廊下だった。

 ずっと奥までそれは続いている。

 確か、管理棟と言ったっけか。その名の通りに値する場所は、二階の職員室のみだが。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。自販機だ、自販機。

 そうやって目的を再確認し、入ってすぐ右側を見ると、そのには多数の企業が販売する自販機の列があった。

 俺はその内の一台に金を入れてボタンを押す。

 同時、飲み物が出て来た時にチャリンッという音がした。

 金は丁度入れた筈だ。

 そして、分かっている。この音は自販機の中の金を貯めておく部分に落ちた音だと。

 だが、人間の欲は恐ろしい。

 何故か、釣銭の出る部分に手を入れてしまう。

 すると後ろから、笑い声が聞こえた。


「ふふふっ、そうじゃのう少年。ついつい確かめたくなる、という気持ちは分かるぞ」


 爺さんのような喋り方をした女の声がした。

 俺はそれに反応し、後ろへと振り返るとそこには、長い紫色の長髪の美人が立っていた。

 百七十センチはあろう身長と細身のある身体つきは、まるでモデルのよう。

 多少見とれてしまいそうだ。

 ちなみに、目前に居る美人の青色をした瞳は、笑みを作っている。


「おや? 少年、どこかで見た顔じゃな?」


 それは、俺も同じ意見だった。

 またか、と思えるくらいの偶然で、その人はクラスメイトだったからだ。


「えと、川瀬 奈々(かわせ なな)だよな? C組の」


 C組で生徒会役員に立候補したたった一人の人で、クラス委員だったな、確か。


「そうじゃが何故、儂の名を? もしかして、奴らと同じファンか?」

「いや、別にファンじゃないが。……俺は霧島 亮。同じC組だ」

「おぉ、同じクラスであったか。よろしくのぅ。そしてすまん、最近そういう輩が多くて困っとったんで疑ってしまった」


 ファンって、何だよ……。

 どうやら俺が出会うこの学校の生徒は皆、不思議な奴のようだ。

 神よ、頼むから普通の奴にも会わせてくれ……。

 と、さり気無く、俺を嫌っているであろう神様に小さな願い事をし、奈々に別れの言葉を言って自販機を後にした。

 だが、何故か奈々は、満面の笑みでついて来る。


「……どうした?」

「どうしたと言われても、儂はこれから帰るのじゃ。校内での道が同じでもおかしくなかろう?」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 だが、笑みの意味が分からない。


「……何か、良い事でもあったのか?」

「ん? 鋭い奴じゃのう、その通りじゃ! 内容は言えんがのぉ~……。許せよ?」


 そう言い残して、奈々は早足で俺を追い越して行った。

 途中、彼女は軽く飛び、次の瞬間には回し蹴りをしていた。

 俺はそれを見て、唖然とする。


「……何者だよ、あの人は……」


 呟き、深い溜息をついた。

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