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第41話:聞きたい事があったり

 俺と和葉が向かい合ってるリビング。

 その壁側にあるテレビにはバラエティー番組が映し出されており、笑い声が部屋中に広がっているが、二人の間には何故か緊迫した空気が流れている。

 そんな中、最初に口を開いたのは俺だった。


「この芸人、身体はってんなぁ~。富士山の頂上に鯉幟(こいのぼり)を立てるなんて……成功したらギネスだな」

「あら? でも昔、エベレストの頂上に六匹家族の鯉幟を立てた人もいたわよ? ……って、私に質問するんじゃなかったかしら?」

「あ、それじゃ、改めて」


 吐息。


「一つ目は……クソジジイは元気か?」

「初めの質問はそれなのね……お爺様は元気よ。それで、ついでに伝言。――そろそろ夏の季節じゃから、合宿が楽しみじゃのう、っと」

「なら俺からも伝言だ。――お前の葬式で合宿が無くなるのを心から願ってやる。孫の一生の願いだから早くくたばれ、ってな」


 言うと、和葉は苦笑した。


「本当、二人は仲がいいんだか悪いんだか」

「中間くらいだな。……ま、元気で何よりだ。――それじゃ、次の質問に移るぞ。どうして学校と今の態度が少しばかし違うんだ?」

「それは……他人の前だと恥ずかしいから、って事でどうかしら。だから、強く接してしまうのかもしれないわ」

「そうか。まぁ、話しやすいからいいんだがな」


 そういえば、和葉は意外と恥ずかしがり屋な所があった気がする。

 あれは、小六の頃……。

 っと、回想に浸る暇は無い為、次の質問に入る。


「それじゃ……あぁ、そう、三つ目だ。三つ目の質問だ。――何故、転校して来た?」


 問いに和葉は、ん~っ、とうなりながら眉を寄せ、虚空を見る。


「……転校、というよりかは、少し遅れた入学ね。私も亮と同じく、推薦を貰って来たの」

「ん? だが、鬼頭は転校生と言っていたぞ?」

「転校生ってした方が、クラス内でも面倒にならないからよ」


 言って和葉は、フフフッと笑った。

 だが、その表情はすぐに変わる。


「でも、圭吾が許婚だってばらしたから、どちらにしても面倒になったんだけどね」


 深いため息をついた和葉を見て、俺は苦笑する。

 ……確かに、アイツのせいで俺の日常が少しずつ変わっているのはたしかだな。

 という風に、全てを圭吾のせいにした後、次の質問に入る。


「……それじゃ、最後の質問だ。――その眼帯はどうしたんだ? 昔は付けて無かっただろ?」


 問いに和葉は目を見開いて驚いた表情を見せ、すぐに表情が曇って俯いた。

 地雷を、踏んでしまったか……?


「………そう、そうよね……覚えているわけ………――ごめんなさい、これには答えられないわ。これは……私の証だから」

「お前の証?」


 オウム返しのような問い掛けに和葉は、そうよっと言って笑みを作った。

 っと、その時だ。


「はいはーい、お話はそこまでだよー。お兄ちゃんもカズちゃんも、夕飯を運ぶの手伝ってね!」


 両手を叩きながらキッチンから来た夢月は、満面の笑みだ。


「夢月、ちなみに飯は何だ?」

「え? お米だよ? 新潟産のコシヒカリ」

「単純でツッコミ所の難しいボケは止めろ。夕飯はなんだって聞いているんだよ」

「TAKE2ね」

「冗談に対するノリが悪いよ? お兄ちゃん。……えっとね、オムライスだよ」


 言って夢月は、身体を翻してキッチンへと戻って行った。

 その跡についていくように、和葉は立ち上がってキッチンへと向かった。


「ほら、りょーちゃんも手伝ってよ?」

「へいへい」


 曖昧な返事を返しておき、俺もキッチンへと向かった。









 ――放課後の教室にはもちろんの事、誰一人居ない。

 そんな教室に、俺は手紙で呼び出された。

 ちなみに手紙には、小さな丸みのある文字で、「放課後の教室で待っていて下さい」と書かれていた。

 その為俺は、窓から夕日の指した教室の自分の席に座って待つ事にした。

 心当たりもない相手を待って、だ。

 っと、その時だ。

 入口の引戸が音を立てて開き、一人の女生徒が入って来た。

 彼女には、見覚えがある。


『………あ、あの、来てくれてありがとうございます! ……突然ですけど……好きです! 私と付き合ってください!!』


 その言葉を聞いた瞬間、思考が止まり、すぐに胸の奥が熱くなった。


『……実は、俺もお前が好きなんだ!』

「ベタなストーリーねぇ! こんなものを見てる人の気が知れないわよ」


 頬杖をつきながら俺の隣に座っている和葉は、テレビを見ながら文句を言っていた。

 ちなみに俺は、その文句を気にする事無く、テレビを見続ける。


「ゴールデンタイムなのにこんなドラマ……視聴率はどうなっているのかしら? お父様に頼んで、画面端に今の視聴率が表示されるテレビを開発企画に追加してもらうってのもありね……!」

「アホかっ!」


 結局、我慢出来ずにツッコんでしまった。


「お前、そんな事したら番組が見辛くなるだろ!」

「ツッコミ所がズレてるよ、お兄ちゃん……」


 声に気付けば、斜め向かいに夢月が座っていた。

 夢月は呆れ顔を隠さずにモロ出ししながら、持って来たと思われるお盆の上に載ったコップを一つずつ俺達に配った。

 中には茶色の液体、たぶん烏龍茶であろうものが入っている。

 ……何故か、俺の烏龍茶だけ色がおかしい。


「……なぁ、夢月。俺のお茶の色が濁っているんだが」

「番組は視聴率で決めるんじゃ無くて、内容でいいかどうかを決めるんだよ? 実際、二十四時間徹底観察~野良猫の日常を首輪に付けた小型カメラで公開~は、低視聴率だったらしいけど、面白かったんだから!」

「それは視聴者が途轍もないくらいに限られるわね……」


 熱の入った夢月の説明に、和葉は眉を下げて苦笑を漏らした。

 ……俺は無視ときましたかい。


「………飲む」

「だってね、カメラを付けた猫が、期待通りの行動を何度もしてくれて、そこがまた可愛くって――あ、お兄ちゃん。それは賞味期限がとっくに切れているヤツだけど、味の方は大丈夫?」


 吹いた。もちろん、コップの中に。


「あぁ、行儀が悪いなぁ。賞味期限は美味しく頂ける期間の事なんだから、飲んでもたぶん大丈夫なんだよ? たぶん」

「たぶんかよ………ってか、実の兄に対する行動が酷くねぇか? 悲しすぎて泣きたくなるよ……」


 肝心の味ですが、烏龍茶とは違う苦味が、口の中に広がりました。


「大丈夫、大丈夫。もし倒れても、私が看病してあげるわよ」

「全力で拒否させてもらう。それと、さり気無く腕を絡ませるなっ」

「え~! ケチ……」


 和葉はそう呟き、渋々と腕を解いた。

 そして、あっと何かを思いついたかのように声を上げ、和葉は夢月を見る。


「夢月ちゃん、お風呂は使えるかしら?」

「え? うん、ちゃんと沸いているよ!」


 夢月は親指をグッと立てて、和葉にウインクした。


「わかったわ。それじゃ、早速使わせてもらうわね」


 そう言い残し、和葉は浴室へと小走りで行った。


『――って、おわぁ!! ごめん! 見るつもりは』


 ……ベタだなぁ……。

 などと内心で呟きながらほのぼのとテレビを見ていると、不意にある事を思い出した。


「……なあ、夢月。確か風呂のシャワー、昨日壊れてからそのままじゃないか?」

「あ、そういえばそうだった。お兄ちゃん、伝えてきてくれる? 私はこれから食器とか洗わないといけないし」


 立ち上がりながら言った夢月は、空になったコップ三つをお盆に載せて、キッチンの方へと歩いて行った。

 面倒事を押し付けられた俺は、軽くため息をついて立ち上がり、浴室へと向かう。

 ……確か、機器の故障で水しか出なくなったんだっけか。

 湯は、昨日の夕方に俺がホームセンターにて急いで買って来た湯沸し機器〝熱いの入れたいのぉ〟略称・熱入とか言う、いかにもすぐに壊れそうな企画商品で沸かせたが、シャワーはどうにもできないからな……。

 その為、今日は湯だけだな、と思いつつ浴室のある洗面所の引き戸を開ける。


「和葉、言い忘れてたがシ――」


 さて、ここで自問だ。

 ドラマや漫画などで、ラッキーな主人公が起こすハプニングの一つに、たまたま着替え中の女子がいる部屋に入ってしまうというものがある。

 ちなみに、圭吾は一生の中で遭遇してみたい状況トップ3に入っているらしい。

 だが、そのような状況などは所詮架空のハプニングであり、遭遇する確立なんてポーカーでロイヤルストレートフラッシュを出すのと同じ……の筈だった。

 引き戸を開けた時、視界に入ったのはまさにその状況であった。

 すでに全裸状態だった和葉は、外した眼帯を持ったまま、入って来た俺に気付き振り向く。

 その時見えたのは、眼帯をしていた左目が透き通るような白い目をしており、それから俺の視線は降下。

 スラリとした綺麗なラインの身体と、胸元の中心には……傷?


「――って、おわぁ!! わりぃ、見るつもりはなかったんだ!」


 ついさっき、どっかで聞いた事のある台詞を、俺は全力で慌てながら放った。

 対する和葉は、驚きの形相を赤く染め、そして叫ぶ。


「だったら早く出て行きなさぁーいっ!!」

「はいっ!!」


 言われるがままに、俺は全速力で廊下に出て、勢いよく引き戸を閉める。

 ……何やってんだろうなぁ、俺は……。

 内心で呟きながら、先ほどの光景を思い出す。

 全裸だった身体――じゃなくて、眼帯の下のあった白い目と、胸元から腹部にかけてついていた大きな傷跡だ。

 すくなくとも、最後に会った日の記憶からして、左目の色は白ではなく黒だったはずだ。


「……知りたき謎を知る時、新たな謎が己を悩ます、か」


 無意識に呟いた言葉は、昔どこかで聞いたものだ。

 そんな言葉を呟く自分に、思わず苦笑する。


「きゃあ! 冷たいっ!!」


 その時、和葉の声が浴室から響いた。

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