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第39話:思い込みの激しい親ってのはどうかと

 車道の隣にある歩道を歩いていた状況から、いつの間にか住宅に囲まれた道を歩いていた。

 朔夜が言うにはもうすぐらしく、その言葉はすぐに現実となった。

 朔夜が立ち止まった視線の先には〝九条流秘伝・ガッツ! もんじゃ焼き〟と書かれた暖簾(のれん)が掛かっている店があった。

 ……神よ、どうかこの訳のわからん暖簾を掛けた店が、朔夜の家じゃありませんように……。


「着きました、ここが私の家です」

「ノォォォォォォッッ!!」

「ど、どうしたんですか!?」


 俺、頭を抱えてしゃがみ込む。


「人ん家の前で騒ぐな! うるせぇぞ!!」


 その時突然、店内からエプロンを付けた金髪の若い男が怒鳴って出て来た。


「あ、お父さん! ただいまです」


 お父さん!?


「おぅ、よく帰って来たな朔夜ぁ! ……で、そっちの男は誰だ?」


 言って、朔夜に父と呼ばれた男は、俺を指で差す。


「……あ、俺は朔夜のクラスメイトで霧島 亮。今日は、朔夜に晩飯を食って行かないかと誘われて来たんだ」

「ほぅ、クラスメイト……そうか!!」


 何がそうなのかっと問う前に、朔夜の父は俺の真横に来て肩に腕を回して来た。


「つまりは、朔夜の彼氏だなぁ!? ついに俺の娘にも、彼氏が現れたかぁ! 父さん、嬉しいぞ! よろしくな、亮とやら!! 俺は九条 将史(まさし)だ」

「えぇ!? ち、違いますよ! 亮さんはそういう人じゃありませんって!」


 ぜ、全力否定……。


「そんな言い訳しても無駄だぜ? もう下の名前で呼び合っているのと、晩飯食わせるために家へと誘ったのが、何よりの証拠だぁ!」

「それは友達として、下の名前で呼んだ方がいいって思ったからです! それに誘った理由は、今日は亮さん、夕飯がないそうなのでどうせならって思って誘ったんです!!」


 ……それにしても、俺の入る隙がねぇな、この会話。

 などと思っている間に、将史は俺の耳元に顔を近付けて来て、朔夜に聞こえる声で何やら呟いた。

 ……ツンツンの金髪が当たって痛い。


「娘はあの通り、天然だからよ。しっかり守ってやってくれ、息子よ!」

「息子じゃねぇ!」  「息子じゃありません!」

「はっはっはっ、息が合ってるじゃねぇかぁ!」


 この時、俺は思った。

 この人には、何を言っても通用しない、と。

 それなら、嘘を言ってでも終わらせるしかないんじゃないか?

 腹も減ってるし……。


「……アンタのしつこさには負けたよ。そうだ、俺は朔夜の彼氏なんだ」

「おぉ! やっと白状したかぁ! やっぱ、俺の読みは正しかった」

「えぇぇ!? な、ななな、何、何を言ってててるんですか!?」


 頬を赤らめながら、異常なほどに慌てている朔夜に、内心で手を合わせて謝りつつ、肩に掛かっている将史の腕を下ろして、話を変える事にする。


「まぁ、そういう事だから、とりあえずこの話はここまでって事で――晩飯、食わせて貰っていいか?」

「もちろんいいぞ! っと、その前に……その袋は何だ? 朔夜」


 言って将史は、俺が持っている袋を指でさし、朔夜に問い掛けた。


「り、亮さんが私の、わた、私の――ほえ? あ、あぁ、それはですね、夕飯の材料を店から使うわけにはいけないと思って買って来たんです」

「何言ってんだ? お前の彼氏が来たんだ、喜んで店のを使うぜ!」

「え? いいんですか? ……って、彼氏じゃないですって!!」


 再度慌てる朔夜を見て、俺は将史と共に笑っていた。

 ……仲のいい、面白い家族だな。そう思うと、更に笑みが増した。


「さてと、それじゃあそろそろ中に入れ。今日はもう店仕舞いって事にしておくからよ」


 言いながら将史は暖簾を下ろし、さっさと店の中へと入って行った。

 その後、俺は未だに頬を赤らめて混乱している朔夜の名前を呼んで正気に戻し、中へと入る事にした。









 暑い所に居た後に吸う夜の空気は普通よりも冷たく、温まった肺を急激に冷やした。

 その風を目一杯吸った後、俺は横に居る朔夜を一度見て、町屋駅へと歩みを再開する。

 結局あの後、少し抵抗を持ちながら食べたもんじゃ焼きが予想以上に美味く、声に出して歓声を上げたところ、将史が大喜びして大量に追加を持って来てしまった。

 まぁ、全部食えたからよかったが……。


「………なぁ、朔夜」


 呼び掛けに朔夜は、はい? っと返して来たので、言葉を続ける。


「今日はありがとな、美味い飯を食わせてくれて。それと、勝手にお前の彼氏だなんて言って悪かった」

「えぇ!? い、いえいえ、そ、そんな事……あ、お父さんを止める為に言ったんですから、別に気にしていないですよ?」


 最初は慌て、後は何か思いついた表情をして冷静になり、微笑した朔夜を見て俺も釣られて微笑した。

 その後、町屋駅に到着した為、改札口で分かれる事になった。

 すると、不意に後ろから声が聞こえた。


「また、来て下さいねっ!」


 それは、朔夜の大声だ。

 その声に答えるかのように、俺は片手を上げて改札口を通過しようとする。

 その時、改札口は俺を通す事無く閉まった。理由は簡単だ。


「……切符買ってなかった……」


 その呟きと同時に、後ろから朔夜の笑い声が聞こえた。











 四月の終わり目である三十日の水曜日。

 結局、早めの下校は前日もあり、二日連続で校内から強制撤退させられた事により、二度ある事は三度ある、ということわざが頭に浮び、まさか今日も強制撤退か? っという希望を抱きながら、自分の席に突っ伏していた。

 すると突然、スピーカーから放送が流れ始めた。


『はぁ~い、まだ眠気がとれていないと思われる皆さん、おはようございま~すっ! 今回が初の放送となる元・放送部、現・情報提供部部長であり、進行を勤める事となったメグミで~っす! よろしくぅ~』


 異様な、それでもリズム感のある音楽と共に聞こえる、元気の良すぎる声。


『二日間の工事によって、やっと機材か揃ったから、こうして始める事が出来ましたぁ! 皆さんのご協力、ありがとうございまぁす!! ――今回の二日間には工事によって拡張された機材の他にも、スポンサーの方からの支給品がやっととどいたから、一時間目を潰して先生方に配ってもらおうと思いますっ。全学年、楽しみにしててねぇ~』


 元気すぎるのはあれだが、何故か数名の男子が歓声を上げている為、悪くないなっと思い、机に突っ伏しながら聞耳を立てていた。


『あ、それと、今日からは普通に授業を開始するから、無意味な希望は持たないよーに! ――それでは、今日はここまで! ご質問、ご感想は直接、情報提供部に言ってねぇ~! また放課後~』


 そう言い残して、メグミとやらの放送は終わった。

 ………何だったんだ?

 そういう疑問が残るが、一日の情報を毎朝流すっていうのは意外と便利な気がする為、悪くはないと自分の中で答えを出しておく。

 そして、不意に顔を上げると、正面、圭吾が満面の笑みで机の間を通って向かって来ていた。


「……どした? やけに嬉しそうだが、何かあったのか?」


 問うと圭吾は、にへらっと笑みを強めて答える。


「いやぁ、今日はいい日だなぁっと思ってな」

「急になんだよ? 何でいい日なんだ?」

「よくぞ聞いてくれた!! 実は今日、このクラスに転校生が来るんだが、そいつの名前は――」

「ほらお前らー、席に着けー」


 圭吾が名前を言おうとした瞬間、タイミング悪く鬼頭が入って来た為、圭吾は、見たらわかるぜっと言って素早く自分の席へと戻って行った。


「それじゃあまず最初に……」


 言って鬼頭は、両手を教卓に叩き付けた。


「喜べ女子! 昂れ男子! 今日は転校生を紹介するぞ! 入れ!!」


 その言葉を合図に入口が開き、一人の少女が入って来た。

 教卓の横に立った彼女は、少し赤みの掛かった黒い長髪を後ろで束ねてポニーテールにしており、美少女と呼んでもいいくらい可愛らしい顔の左目には、彼女に似合わない漆黒の眼帯が付けられていた。

 そんな彼女を見て周りの男子は歓声を上げ、女子は小声で会話を始めたが、俺は机に全力で突っ伏して、されど少しだけ隙間を作ってそこから見始めた。

 ……顔を隠す理由は、俺はソイツをよく知っているからだ……。


如月 和葉(きさらぎ かずは)よ、よろしくね」

「あ~、彼女はかの有名な|First Mechanical Progress《ファースト メカニカル プログレス》、略せばFMP社・社長の一人娘だ。その会社はこの学校のスポンサーであるから、入学案内に書かれていたノートパソコンの支給はもちろんFMP社からだ。後で配るから、楽しみにしてるようにな」


 それとっと言って鬼頭は教室中を見渡し、頷いた。


「あそこに空いている席があるだろ? ここから見て、あのやる気が無い銀髪の左奥、クリーム髪の左だ」


 言うと和葉は、わかったわっと答え腰を左右に小さく振りながら、指定された席へと、俺の列に沿って歩き出す。

 まるでどっかの女優を気取ってるな……。

 そして、俺の横を通った時、一言呟いた。


「……会えて嬉しいわ、りょーちゃん……」


 言って和葉は、フフンっと小さく笑って、右後ろの席に座った。

 最悪だ。

 悪夢だ。

 俺は内心で呪文のように呟きながら、教室を去って行く鬼頭の後ろ姿を細目で睨んだ。


「……厄日だ……」

「何、独り言呟いてんのよ?」


 突然、右から声が聞こえた。

 その声に反応するかのように右を向くと、腕を組んで微笑している和葉の姿があった。


「……よう、久しぶり」

「久しぶりの再会でそれだけ? ホント、変わってないわね、亮」


 言って微笑した和葉に俺は苦笑しながら、余計なお世話だっと嫌味を込めて返答する。

 すると、後ろの席に座っている朔夜が、不思議そうな口調で問い掛けて来た。


「……あの、お二人はお知り合いなんですか?」

「その質問には俺が答えよう!」


 出た、説明役の圭吾。

 だが、さすがに今回は、

「おい圭吾、あれは言うな――」

「この二人は、両親が決めた許婚なんだ」


 圭吾の言葉、特に最後には、聞耳を立てていたヤツらを含めて、その場に居た全員が驚き、叫んだ。

 ……厄日だ……。

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