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第38話:素直に話せるその理由

「すみません、荷物を持って頂いて」

「飯を食わせてもらえるんだ、これくらいはしないとな」


 そう言うと朔夜は、ありがとうございますっと言って微笑んだ。

 ……さて、俺達は今、葵の見舞いを終えた後に、朔夜の頼みで買い物をした帰り道を歩いている最中だ。

 辺りはすっかり暗くなっているが、どうやら朔夜の家は東京都内の荒川区、町屋にある為、少し時間は掛かるが町屋駅から降りた後は徒歩で向かっている。

 そして、その間は俺が朔夜の荷物を持って歩いているという事だ。


「……それにしても、結局最後まで見てしまいましたから、あまり出来ませんでしたね、バンビ」

「災難だよ、ホント。お前ら、俺と夢月のを見てずっと笑ってたしな……――にしてもお前、バンビ下手だったな?」


 問うと朔夜は、両手の平を左右に振りながら苦笑した。


「せ、説明書を読みながらでしたし、亮さんと日向さん、普通じゃ思いつかない戦略を使ってきましたし……日向さんって、飲み込みが早かったですね」

「だな。正直、驚いた。アイツはああいうゲームの才能があるな、うん」


 言って頷き、微笑する。

 すると、朔夜もつられて笑い出した。

 そして、しばらく歩くと不意に、朔夜が俺の名を呼んだ後に問い掛けて来た。


「……前から聞きたい事があったんですが、いいですか?」

「あぁ、いいぞ。答えられる範囲内で話そう」

「ありがとうございます。それじゃ、えと――どうして亮さんは、女の子と最初から気軽に話が出来るんですか? 最近の学生は、自然と男女グループで分断されていて、どちらも会話をあまりしようとしないと聞いたんですけど」


 あ、真佑ちゃんから亮さんは不思議だなって聞いたんですけど、と言葉を付け足して、再度首を傾げた。

 真佑ちゃん、というのは高崎 真佑実の事だろう。

 年齢的には先輩である身、そういう所は疑問に持つんだな……。

 同時に、それを聞いた朔夜も気になった、と。

 ……確かに、今に始まったわけでもなく、二〇二三年くらいから今の二〇三六年の間で、急激に分断が見られるようになったらしい。

 唯一分断されていない男女は、身内か親類、もしくは小学校や中学校からの仲ってやつだけらしい。

 ……っと、コレはテレビでやってた番組で得た知識だ。

 俺は一息入れ、話を始める。


「……俺も最初は、女子と話す機会はなかったが……切っ掛けがあった。丁度中二の時、俗に言う鬼人って通り名で恐れられていた時だ」

「切っ掛け、ですか?」


 オウム返しに問う朔夜の視線を感じながらも、俺は懐かしむように夜空を見上げる。

 歩きながら見る空は位置を変えずに闇に覆われ、しかし都市の明かりで薄い黒、その上スモッグで星がほとんど見えない、という表現になる。


「……夏休みの少し前だ。会った事の無い高校生に突然、廃ビルに呼ばれてな。変な言いがかりを付けられた後、突然喧嘩になった。その時はたまたま圭吾が居なかったから囮役が無く、終わった時は珍しく傷だらけだったんだ」

「さ、さりげなく言いましたけど、突っ込み所が満載ですね……」


 言いながら苦笑している朔夜に、それは言うなよ? っと笑みで返し、続ける。


「で、さすがに疲れたから、夜空でも見て休もうと思って屋上に向かった。だが、そこには先客が居たんだよ。……今にも飛び降り自殺しようとしてる奴がな」


 言った瞬間、朔夜は驚いた。

 ま、無理も無いか。


「そ、それで、その人はどうなったんですか!?」

「助けたよ。それも、ギリギリでだ。……で、ソイツが切っ掛けとなった女子って訳だ。――っと、家まで後どれくらい掛かる?」

「もう少し掛かりますね。それよりも、続きを話して下さい」


 その言葉に了承し、町屋の町並みを見ながら、思い出すように口を開く。


「………助けた時は、当然ながら何で助けたとか、私にはもう生きる理由がないとか居場所が無いとか言ってたんだがな。居場所が無いのなら、俺達の馬鹿騒ぎに加わればいい。毎日馬鹿やって、喧嘩して、好き勝手出来て、きっと楽しいからなっと言ったら、死のうとするのをやめて、次の日には俺達のグループに参加していた」

「亮さん、いい説得だったのに、結局は喧嘩に巻き込んだんですね……」

「いや、一つの命を救ったんだから、そこは気にしないって事で……――まぁ、それからずっと鬼人を引退した後も、一緒に居て笑ってた。二人揃って圭吾を馬鹿にしながらな」


 言って、思い出し笑いが込み上がってきた為、素直に声に出して笑った。


「圭吾さんって、昔から弄られてたんですね」

「今はお前も対象だがな」

「ほぇ!?」


 朔夜はそれを聞いて驚いた表情をし、俺は再度笑い出した。


「ひ、酷いですよぉ~! ……それで、その子は今、どうしているんですか? もしかして、同じ学校!?」


 問われた言葉に一瞬、答えるのを躊躇したが、もうとっくに心が落ち着いているのに気付いた俺は、されど表情を苦笑に変えて空を見上げながら答えた。


「……死んだよ。去年の五月に、交通事故でな」

「え……?」


 事を言った瞬間、朔夜は唖然として言葉を失い、歩みを止めた。

 俺はそれに気付き、少し離れた所で同じく歩みを止めて、彼女の方へと振り向く。

 その表情は、何を言ったらいいのかわからない、そんな表情だ。

 だが彼女は、無理に口を開こうとした。


「……あ、えっと………――」

「そんな話に持っていってごめんなさいってか? 俺が勝手に話したんだ、お前が気にする事じゃない。それに、もうとっくに心の整理が付いている」

「そ、そうなんですか……」


 俺の言葉を聞いて安心したのか、ホッとした表情を見せ、そして小首を傾げた。


「……その人の事、どう思ってたんですか? えと……す、好きだったんですか?」


 言って頬を赤らめた朔夜を見て笑いながらも、首を左右に振って答える。


「好きとか、そういう感情はなかったな。まぁ、思っていた事を例えるなら……家族だな」

「家族、ですか?」

「あぁ、家族だ。圭吾とソイツ、そして夢月。皆が集まっていると、まるで兄弟のような感じがしていた。だから、家族だ」


 それに、っと呟いて微笑。


「ソイツには彼氏が居たしな。たった一ヶ月と数日の、しかも最後まで告白しなかった不器用な彼氏がな」

「たった……一ヶ月………とても、悲しいですね……」


 そう呟きながら、朔夜は表情を曇らせた。

 だが、その表情を無理に笑顔へと変え、目を伏せて軽く会釈した。


「お話してくれてありがとうございます」

「気にすんな。思い出話をしてみたくなったから、しただけだ」

「それでも、ありがとうございます!」


 言って朔夜は歩みを再開し、俺はそれに合わせて同じく歩き出す。

 横の車道を走る車が、一層増した気がする。

 それはまるで、夕飯時である事を知らせているようだった。

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