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第33話:良い思い出をこの夜に

 時刻は午後九時、と言った所か。

 テーブルの上に置かれていた筈のケーキは、既に元の姿を微塵も残して折らず、今は零れたクリームと皿だけになっている。

 二時間前の話だ。

 そして一時間前には、葵へのプレゼント渡しが行われ、それぞれがオルゴールや猫のぬいぐるみ、洋服や可愛らしい写真立てなどを、そして俺はツインテールを結ぶ為の黄色いリボンを渡した。

 葵は、その黄色いリボンを気に入ったらしく、すぐに夢月に付けて貰い、その場で回りながら喜んでいた。

 途中、目が回って暫くダウンした事は、黙っておこう。あ、矛盾。

 ともあれ、回想が早々と終わり、時は戻って現在。

 相変わらず騒がしい声が、部屋中に響き渡っていた。


「――それにしても、皆よくノッてたな! お前も、迫真の演技だったぜ」


 圭吾は数時間前の出来事を掘り起こし、拳を俺に近づける。

 俺はその拳に自分の拳を当てて、言葉を返す。


「お前も、悪役らしくてよかったぞ。特に、葵を~ってところがな。発想がお前らしかった」

「ま、まるで俺が危ない誘拐犯じゃねぇか……。お前からの俺の印象は犯罪者かよ」

「ん? そうだけど……間違っているか?」


 言うと圭吾は溜息一つし、苦笑した。


「本当、お前の俺に対する態度は酷いな……。――それよりも、あの演技力だと、秋の文化祭は演劇やらねぇとな!」

「え? 一人芝居か? そうかそうか、応援するぞ? 頑張れ!」


 俺は笑いながら、圭吾の肩を大きく叩いた。

 そんな俺に向かって圭吾は、お前もだよっと言って指をビシッと指して来た。

 決まった! って思い込んでいる顔が、腹立つ。


「……そういえば前に、昔のアニメで演劇が何とかって言ってたな。それの影響か?」


 言うと圭吾は、チッチッチッと言いながら人差し指を左右に振る。

 何だよ、折角話を合わせてやろうと思ったのに。


「違うな。今回の演技でわかったんだよ。今ここに居る俺達には素質があるんだよ、絶対」

「なぁ皆、記念撮影でもしねぇか?」

「唐突に話を変えるなよっ!!」


 何やら騒がしい圭吾を無視し、話を続ける。


「折角の誕生日なんだ。写真って形で残そうと思って。丁度、葵には写真立てがプレゼントされているしな。それに、創立記念日に出来なかった事だし」


 その提案に皆はすぐに賛成した為、俺は早速、準備に入った。

 確か、一眼レフ型のデジタルカメラが俺の部屋にあった筈だ。









「――えと、葵ちゃんは主役だから真ん中ね。そして、その両側には私と朔夜ちゃん」


 夢月がテキパキと指示を与えた結果、前列は右から夢月、葵、朔夜となり、後列は右から日向、俺、圭吾、直樹、姉御となった。

 圭吾は、専用のスタンドに設置されたデジタルカメラの照準を合わせて、タイマー設定にしてこちらに戻って来た。


「ねぇねぇ朔夜ちゃん、葵ちゃんに抱きつこうよ」

「え? あ、はい、良いですね! それ」


 夢月と朔夜は、えい! と言って葵に飛びつく。


「俺もやるぜ! おりゃ!」


 圭吾はそう言って、俺と直樹の肩に手を回して、担ぐ形になった。


「お前もやるのかよ……って直樹、お前は何で平然と笑顔でいられるんだよ」

「細かい事は気にするな、笑って忘れろっ!」


 瞬間、デジカメからフラッシュが起き、同時にパシャッという音が聞こえた。

 目、瞑らなかったかなぁ。

 そんな、俺らしくない心配をしてみる。











 記念撮影を終えた後も宴会騒ぎは続いたが、日付が変わると、皆は疲れたのかリビングの床で、それぞれの形となって一斉に眠った。

 俗に言う、雑魚寝って奴だ。

 だが、俺はまだ眠れそうに無く、ソファーに座り、暗闇の中で残ったシャンパンを飲んでいた。


「……まるで死んでるみたいだな」


 苦笑しながら、眠っている奴らを見る。

 全員が、安らかな表情で眠っていた。

 馬鹿面の圭吾を除いて。

 と、その時、一つの人影が立ち上がった。

 その人影は唯一の光である、月明かりが差し込んでいる場所へと向かった。


「……葵か」

「良かった、起きてたんだね。……ちょっと話がしたいんだけど、良いかな?」


 問いに少し考えた後、分かったと答えて了承しておく。

 だが、場所は何処が良いだろう。

 話をするのに打って付けな所は……。


「そうだな、ベランダにでも行くか? こんな時間にする話だ、他の奴らには聞かれたくない事なんだろ?」


 問いに葵は、うんと言って頷いた為、俺達はベランダのある別室へと向かった。






 玄関からリビングへと続く廊下の途中、リビングの入口手前の右側には、空き部屋がある。

 そこは完全な和室であり、奥の窓から外に出れば、ベランダとなっている。

 俺達は今、丁度ベランダへと出た所であり、月明かりが二人を照らし出した。

 今宵は満月。運のいい事に、空には雲一つ無く、綺麗な満月を見る事が出来た。

 冷たい夜風に当たる中、上を見上げていた俺に葵は、聞いても良いかな? と確認して来た。

 俺はそれに、無言で頷く。


「えと、遠回しに言うのは苦手だから、直接言うね。……日向さんって、私の弟でしょ?」


 予想外の言葉を聞いて、正直驚いた。失笑もした。

 そして、葵の方を向くと彼女は丁度俺を見ており、やっぱりと苦笑した。

 俺はそんなにも驚いた表情をしていたか……。

 こいつに、いや全人類に、俺は隠し事が出来無いようだ。

 大げさな冗談だな、自重しよう。


「……いつから気付いてた?」


 問うと、先日の騒動があった日っとすらすら答え、

「だって日向さん……じゃなくて日向、お父さんと話していた時、兄が何とかって言ってたもん。しかも私の名前も言って」


 一息ついて葵は笑い、対する俺は苦笑。


「でも良かった。これで疑問が解けたよ。昔、それまでの記憶が無くなった時があって、大きな喪失感があったんだ。……忘れてはいけない、大切な誰かを忘れてる気がするってね。……私の予知が見れるのは、絶対の未来。その未来には、日向が弟だって知る機会は一度もなかった。でも……」

「でも?」


 俺は止まった言葉を、オウム返しで返す。

 この俺を焦らすとは、いつからお前は鬼畜側に回った。


「屋上で亮に、未来について話したでしょ? あの時の亮の返答はね、私が見た未来とは違っていた。その日から、未来が何度も変わって、私が見る意味も無くしていったんだよ」


 だからあの時、驚いていたのか。

 ……何故か、俺の選択は未来を変えるらしい。

 夢月の時も、同じように驚かれた記憶がある。

 そんな記憶を掘り返していると、葵は両手を後ろで組んで、前屈みになって上目で俺を見て来た。


「……ねぇ、亮。ありがとね、私の未来を一つだけでも変えてくれて」

「あ~……気にするな、俺はやりたくてやっただけだ」


 微笑を見せ付けると、葵はいつも通りのにゃはははっという笑い声を上げる。


「亮らしいね。お気楽って言うか、何て言うか。あ、能天気!」

「うごっ! お前に言われると、俺の純粋な心が傷付く!」

「うわっ! 自分で純粋とか言っちゃってるよ! 末期、この人頭が既にまっき~」

「何を言うか。お前程どす黒くは無いぞ!」

「酷い! 私の事、そんな風に思ってたのね!? やっぱり、私との関係は全部遊びだったと言うのね……およよよよ……」


 大袈裟に泣き真似をする葵は、一息つくと笑顔を俺に向けた。


「……でも、やっぱり変えられない未来もあるんだね……。――それじゃあ、私はもう寝るよっ」


 一瞬、悲しそうな表情で、聞き取れなかった何かを呟いていたが、すぐに笑顔に戻り、ベランダを出ようとした。

 その為、俺は苦笑しつつも振り向いて、おやすみなっという言葉を発しようとしたが、葵は部屋とベランダの境目で止まっていて、ついでに俺の方を向いていた。


「どうした? 言い残した事でもあったか?」

「……ねぇ、明日もし私に何かあった時は、日向にこう伝えておいてくれないかな? 私が――」









 葵が伝えてほしい事を聞いて疑問が生まれたが、それを聞こうとする前に葵は、じゃあおやすみーっと言ってリビングへと戻って行ってしまった。

 呼び止める事は簡単だっただろうが、俺には何故か出来無かった。

 ただ短に、本心では止める気が起きてなかったからかもしれないが。 

 俺は手で顔を覆い、大きな溜息をつく。

 その後、室内の暗闇に視線を向け、問い掛ける。


「……で、お前は何の用だ?」


 視線を一点から逸らす事無く待ち続けていると、ややあってから暗闇の中で何かが動いた。

 その何かは、月明かりに照らされて人影となる。


「……どうして分かったの?」

「視線と気配ですぐに気付いた。流石に誰かはわからなかったがな。――で? 何の用だ、直樹」

「別に用はないよ。ただ、二人が出て行ったからどこに行くのかなぁ、と思ってね」


 直樹はそう言うと、部屋の出口側に身体を向き、上半身だけで俺の方を向く。


「それじゃ、僕はもう寝るね」


 そう言い残し、直樹は部屋を出て行った。


「……何だったんだ? アイツ」


 俺は首を傾げてから外に向き直し、しばらく夜風に当たる事にした。

 満月は、雲一つ覆う事もなく、ただただ町中を照らし続けている。

 ふと、満月に兎が見えるか確かめてみる事にした。

 ……おいおい、死神に見えるよ、見えちゃうよ。

 疲れてるんだな、と結論付け、満月を見るのを止めた。

 もし本当に死神なら、どの位置からでも俺が見えちまうじゃねぇか。

 おー、怖い怖い。

 以上、現場の亮でした。

 ……最近、俺の性格が急激に変わりつつある気がする。

 一番嫌な、馬鹿な奴方面へと。





 はは、悪くねぇな。

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