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第31話:朝からハイテンション

 眠っていた脳が、少しずつ覚醒していく。

 春の、未だに肌寒い空気が張り詰める朝。

 俺はその覚醒していく感覚がとうとう寒さを感じ取り、暖かい布団に顔ごと潜り込んで寒さを凌ぎ、再び眠りにつこうとした……筈だったのだが。


「――どーんっ!!」


 突然、腹に強烈な衝撃が来た。


「―――ッ!?」


 声にもならない叫びが出る。

 激しい痛みに耐え切れず、脳は一気に覚醒しエマージェンシーエマージェンシー!

 警報が脳内で鳴り響き、急いで起き上がった。

 そして、俺の腹に来た衝撃の原因を確かめようとすると、そこには葵が立っていた。

 一度言った気がするが、俺の腹の上で。


「おっはよう!」

「お…はよ……うじゃ……ねぇ……」


 今にも気絶しそうな痛みを気力で堪えながら、震える手でデコピンの形を作り、何とか葵の額まで伸ばそうとする。

 が、気力持たず、全身の力が抜けて、起き上がった身体がベッドに倒れた。

 同時に、伸ばした腕は無造作に落ち、俺はゆっくりと目を閉じた。


「あ、あれ? 亮? 亮~?」


 近くにいるはずの葵の声が遠退いて行く。

 そして、今までの思い出が走馬灯となって頭の中を駆け巡った。



『お前の膝を地につける男や』

『えぇ!? お兄ちゃんが私より先に起きてる! どうしよう、天変地異が起きちゃうよ!!』

『にゃはは! わ、馬鹿!! だってさ、にゃははははは!!』




「――って、俺にとって鬱な記憶しか思い出さねぇのかよ!!」


 地獄の入口で整理券を持ち、待機していると閻魔大王が直々にやって来て俺を現世へと摘み出した。

 冗談はさて置き、再度、勢い良く起き上がる。

 葵はその突然の動きに驚き、うひゃあ! という声を上げて、俺の腹、というよりベッドから落ちた。


「注意力が薄いぞ、何やってんの? お前」

「だって亮が急に起き上がるんだもん――って、私を無視しないでよぉ」

「うるせぇ、腹減ったんだ。飯食いに行くぞ、飯」


 痛みが残る腹を摩りながら言い、俺は部屋を出た。

 しっかし、腹が痛いと言うのに食欲があるとはな。

 天性の鋼鉄胃袋なのだろうか。いや、もしそうだったとしたら空腹感が無いわな。

 と言う訳で却下。

 ともあれ、後ろから俺の名を何度も呼ぶ葵を無視しながら、急ぎ足でリビングへと向かった。






 葵が霧島家に泊まる事になってから三日目。

 そして、今日は葵の誕生日でもある金曜日だ。

 誕生会の開始は夕方、葵が霧島家に帰るのと同時。

 それまでに俺は、日向を誘っておこうと考えていた。

 だが、いざ教室に入っても日向の姿は無かった。

 全く、あいつは居なきゃいけない時に限って屋上だな。

 いつも屋上に居るのだと思うが。

 ともあれ、俺は吐息をつきながらカバンを机の上に置き、屋上へと向かう。

 途中、この学校に自販機がある事を思い出し、先に一階にある自販機コーナーへと向かった。

 そこでお気に入りの缶コーヒーを二本購入し、両手に一本ずつ持って再度、屋上へと向かう。


「……それにしても、この学校の自販機はある意味凄いな」


 呟きながら、手に持っている缶コーヒーに目を落す。

 その表面には大きく〝MISS・香り重視のブレンドコーヒー〟と言う風に、長々とプリントされていた。

 だが、微糖と書いてあるのに、時々チョコ以上に甘い。

 名前通りなんだが、製品としては最悪である。

 とは言いつつも、この当たり外れのような所が、俺のお気に入りである理由なんだが。

 などと考えている間に最上階に着いた為、屋上への扉を開いて日向を探す。

 あぁ、やっぱり居た。それも、いつもの通りの場所でフェンスにもたれ掛かり、目下に広がる街を見渡していた。


「おい、日向!」


 その声が聞こえたからか、日向はゆっくりとこちらを向く。

 同時に俺は、受け取れと言って缶コーヒーを一本投げると、彼は片手で上手くキャッチし、ありがとなと言って来た。

 日向の口からその言葉が出た事に感心し、驚きながら彼の横まで行き、同じようにしてフェンスにもたれ掛かる。


「……なぁ、日向。突然だが、お前も葵の誕生会に出てくれないか? っというより、出ろ。強制だ」

「強制って……――俺は出ない。いや、アイツが俺を兄だと知らない限り、出る資格は無い」


 あ、また苛っと来ましたよ、と意味の無いナレーション。


「葵のせいにして逃げるのか? ってか、資格が無いって言うけどよ、三日前に葵を助ける事を提案し、共に実行したのは誰だった? 葵の姿を見た瞬間、叫びそうになったのは誰だ?」


 一度言葉を止め、缶コーヒーを開けて一口飲む。

 そして、微笑を浮かべながら話を再開する。


「……本当は祝いたいんだろ? あいつに良い思い出を作ってやりたいんだろ? もしそうなら、お前には参加する資格があるんだよ、残念ながら」


 それを聞いた日向は、缶コーヒーを二口ほど飲んで溜息をつく。


「……お前は、何で俺がそう思っていると言えるんだ?」

「そりゃあ、俺も妹がいる身の兄って立場だからな。不器用なお前の考えなんて、全てお見通しだっ」


 俺は微笑と共に、日向に向かって親指をグッと上げる。

 その姿を見た日向は、苦笑して吐息を一つ。


「お見通し、か……それはそれで困るな。……本当の事を言えば、怖いだけなんだ。俺を知らない妹と同じ時間を過ごす事が」

「そんな恐怖は捨てろって。あの日、篠塚邸に葵を助けにいった時の気持ち、それを一番にしろ。自身を持てって、な!」


 最後の一言と同時に、日向の背中を少し強めに叩く。

 叩く、叩く、叩く、睨まれる。

 どうやら、調子に乗り過ぎたようだ。


「ささ、そろそろ行くぞ。鬼頭がキレるぞ!」


 話を無理矢理逸らした俺が先に走り出すと日向は、もう遅いと思うがなと呟き、同じく走り出した。

 この後、鬼頭に捕まり、怒りをぶつけられたのは言うまでも無い。

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