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第29話:気を取り直して、計画立て

 いつもは寝て過ごす、一時間目の数学。

 その時間、俺は自分の生活がほのぼのとした日常から、毎日が戦いばかりのバトル生活になるような気がして鳥肌を立てながらも、そんな筈は無い! と自分に言い聞かせ、気晴らしに昨日の事を整理していた。

 葵と日向が双子だった事、葵とはあと数日しか会えない事。

 そして、今週の金曜日は葵の誕生日だという事。

 クソジジイの作品が、篠塚家にあった事――って、これはどうでもいいか。

 思えば、一日で色んな事があったなぁ……と、溜息をつく。


「……とりあえず、後で朔夜と姉御に招待するかな。葵の誕生会」


 出来るだけ葵に悟られないよう、隠密に計画を立てる事にしよう。

 そう決断した後、思考に休憩を入れるために左側、窓の外を見る。

 外は生憎の雨。

 無限に降り続けている雨が、窓に力強く当たってメロディを奏でている。

 当たっては流れ、当たっては流れ、当たっては流れ。

 自然が織り成すメロディーって奴だな。ナイス自然。

 だが、その自然のせいで屋上に行けないのが事実である。駄目じゃん自然。

 矛盾した二つの言葉を発した気がするが、気にしない。

 自然は気にした様子だが。

 雨が、強くなった。

 とりあえず、全国の雨に悩んでいる人々に偽善で塗り固めた謝罪を内心でしておき、残りの時間を寝て過ごすために俺は机に突っ伏した。

 数式を言っている教師の声が、だんだんと子守唄のように聞こえ始めた頃、ゆっくりと夢の世界へと落ちていく。











 目覚まし時計のように鳴り響くチャイムの音で目を覚まし、腕時計に目をやると時刻は十二時四十分。

 昼休みである。

 ……ちょい、俺、何時間寝てたんだ?

 昨日の疲れが原因だな、多分。

 そう思いながら圭吾の方を見ると、アイツも寝ていた。

 起きる気配が無い以上、昼食は朔夜と二人っきり、か。

 ちなみに葵は休養の為、俺の家で休んでいる。

 夢月が言うには、栄養不足だから一日安静にして、ゆっくりと体力を養っておく必要があるとの事だ。

 故に、夢月も学校を休んだらしい。

 友達思いってのは、良いもんだなぁ。

 圭吾にも付けて欲しいオプションだねぇ……。

 とりあえず夢月に感謝しつつ、鞄から弁当を取り出して後ろを向く。


「……飯の時間だぞ」


 そう言いながら、朔夜の机の上で弁当を開く。


「あ、亮さん、おはようございます! ――って、もう開けちゃうんですか? 葵ちゃんと圭吾さんはまだ来ていないようですが」

「あ~、葵は休みだ。そして圭吾はあの通り、結構疲れているから寝かせてやって欲しい」

「あ、はい、わかりました……」


 そう言って朔夜は、しばらく何かを考えるように黙り込み、急に頬を赤らめた。


「……え、えぇ! 二人だけで昼食なんてそんな……ふあぁ!」


 明らかに取り乱している。

 ……何を考えたんだ? コイツは。


「あのなぁ、少しは落ちつ――っ!?」


 瞬間、俺の言葉を止めるかのように強い衝撃が頭に直撃した。

 その衝撃で、顔面が目の前の弁当にシュート! ……されるわけにはいかない為、素早く両手をストッパーとして机に叩きつける。

 そのおかげで、俺の顔面は弁当スレスレで止まった。


「……っぶねぇな! 誰だよ!」


怒声を出しながら衝撃が来た方を向くと、そこには両手を合わせて謝罪の意を表している姉御の姿があった。


「すまん、力加減を誤ってしまったんじゃ」

「……まず、力を使うような事をするなよ」


 俺は呆れてため息をつく。

 それと同時に、大切な事を思い出した。


「あ~、そうだ。お前ら二人に話しておきたい事がある。とりあえず、姉御もそれに座れ。そして弁当を食え」

「なんじゃ、藪から棒に。まぁ、良いがの」


 アンタがそれを言うな。

 とりあえず、隣の席の空いている椅子を持って来て、机の横に置く。

 すると姉御は、少し驚きつつも席に座った。


「で、話というのはだな――って、朔夜。お前いつまで取り乱しているんだよ」

「つまりは、あ~んで口に――ほぇ? あ、すみませんっ! ……それで、何でしたっけ?」

「……まぁいいや、気を取り直してお前らに話しておきたい事がある。その内容というのはだな」


 俺は今週の金曜日に葵の誕生会を開きたいから、二人に参加して欲しいという事と、その準備を手伝って欲しいという事を話した。

 その際、葵の予知能力や昨日の事、日向と双子である事は伏せておいた。

 告げるのは、まだ先になるだろう。

 話し終えた後、朔夜は目を輝かせて笑顔を見せた。


「もちろんいいですよ! ……プレゼント、何がいいかなぁ」

「わしもいいぞ。宴ほど楽しい事はないからのぉ」

「よし、今週の金曜日を葵にとって最高の思い出にしてやろうか」

「はい、頑張りましょう!」 「当然じゃ!」


 俺の声の後に二人の揃った声、合計三人の声が教室内に響き、全員の視線を集めてしまったが、今はそんな事を気にせずに食事を始める事にした。

 とりあえず、食事に集中しよう。











 やっとこさ放課後。

 いやぁ、最近一日が長く感じるわ~。

 俺は軽いカバンを持って帰ろうとすると、ちょっと待ってという声に呼び止められた。

 ……って、この声、どこかで……。

 そう思い、声のした方へと向くとそこには、最近ずっと休んでいた出雲 直樹が立っていた。


「久しぶり、りょーちゃん」

「おう、久ぶ――って、ちょっと待て。お前は俺をその名で呼ぶつもりか? 第一、会話したのは初めてじゃねぇか」


 言うと直樹は、はははっと笑い出した。


「細かい事は気にしない、気にしない。それに圭ちゃんが、亮の事はりょーちゃんと呼べって言ってたし」


 あいつ、余計な事を……。

 俺の知らない所でも面倒事を振りまきおって。

 後でお仕置きするべぇ~。しないけど。


「……なぁ、りょーちゃんなんてやめて亮にしないか?」

「嫌だ」


 即答かよ。


「……………………………」

「……………………………」


 しばらくの間、両者目を合わせたまま、一歩も動かない。

 蛇蛙だな。あ、勝手に略させて頂きました。

 結局、折れたのは、

「……分かった分かった、好きに呼べ」


 俺だった。

 とりあえず、用件を聞いて帰る。

 それが一番だ。


「で、何の用なんだ?」

「あ、そうそう、どうせ帰るのなら、途中まで一緒に帰ろう」

「……は? 誰と?」

「僕と」

「……本気か?」

「当たり前じゃん」


 当たり前なのか?


「だけど、俺はすぐそこのバ――」

「別にいいよ」

「…………………………」


 初対面で一緒に帰ろう、か。

 相手が女の子なら、どんなに嬉しかっただろうか……。

 まぁ、そこまで女好きじゃないが。


「分かったよ。それじゃ行くぞ」


 俺はそう言って、先に歩き出す。 

 その横を直樹は、無言のままついて来た。

 無言、ねぇ。

 せめて何か、話題を振って欲しいものだ。

 俺は振るような話題を、残念ながら常時持ち合わせていない。

 そのまま話題も無く歩き、階段を下りる。

 途中、唐突に聞きたい事が頭に浮かび、すぐさま問い掛けた。


「なぁ、何でずっと休んでいたんだ?」

「ん~……ちょっと用事で、九州と四国に行ってたんだ」

「ちょっとの用事でそんな所まで行ったのかよ。変な奴だな」

「ははは、よく言われるよ」


 直樹は満面の笑みを見せた。

 だがその笑顔はすぐに消え、何故か真剣な表情になる。


「……ねぇ、次は僕からの質問。――もし、自分の姓の家系が特別な存在で、昔から穢れを持っていたらどうする?」

「特別な……家系?」


 それは出雲家がなのか? と問おうとしたが、喉から先に出る前に、直樹が言葉を発した。


「そう、特別。……そしてその穢れが、もしも大切な者を傷つけてしまう物だった場合、りょーちゃんならどうする?」

「……お前、何が言いたい?」


 穢れ。

 その言葉を聞いていて思い出してしまったじゃねぇか……。

 霧島家の、穢れを。


「もしもの事を、質問しているだけだよ?」


 その、小首を傾げた直樹の表情には、どこか小悪魔のような雰囲気が漂っていた。

 男に対する例えで小悪魔ってのは、趣味の悪い冗談だがな。

 対する俺の表情は、強張っている……気がする。

 そう思ったのと同時、直樹は急に笑顔になった。


「そんなに怖い顔しないでよっ。 ビックリしたなぁ~」

「は? あ、あぁ、わりぃ」

「まぁ、まだ答えが出ていないって事で良しとするかな……――話せてよかったよ! それじゃ、圭ちゃんをよろしくねー!」

「お、おい!」


 俺の制止も空しく、直樹は走って行ってしまった。

 何が言いたかったんだ?

 答えとか……良しとするとか……。


「……それにしても、何で圭吾を――って、あぁ!!」


 アイツ、教室で寝たままじゃねぇか!

 それに気付くと俺は、急いで教室へと向かった。

 馬鹿を起こすために。

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