第25話:真実を知ったから、どうするのだろうか。
太陽が完全に沈み、暗闇が訪れた頃。
俺は圭吾達と待ち合わせ場所である、飛翔鷹高校の校門前に行く前に、夢月に全てを話しておいた。
もちろん、未来予知が出来る事も含めて、だ。
話が終わった時、夢月はある事を話してくれた。
どうやら、葵が未来予知の出来る奴だと気付いていたようだ。
それは自宅でカレーを皆で食った日の前日、夢で見たらしい。
……夢月の予知能力も、完全には無くなってないんだな。
ともあれ、話を終えた彼女は、満面の笑みで見送ってくれた。
「お兄ちゃんなら大丈夫、保障付きの信頼だよ。だから、葵ちゃんをよろしくね!」と、そう言って。
そして今、俺は夜の道を徘徊――もとい、ランニング中だ。
ちなみに本日の服装は、お気に入りの普段着である水色のTシャツの上に、暗闇で目立たない地味な茶色のカーディガンを羽織っており、下も同色のカーゴパンツという、ランニングに不似合いな組み合わせだ。
特にカーゴパンツは、ポケットが多い為、走り難いったらありゃしない。
まぁ、未だに肌寒い夜風対策としては、丁度良いのかもしれないが。
以上、誰も聞いていないファッションブリーフィングでした。
「にしても、こんな服よくあったな……」
俺が買ったという記憶が無い以上、親父の物だろう。
意外と服を買い込む人だったからな。
んで、たまに圭吾にあげてたし。
そんな昔の記憶を思い起こしながら数十分走ると、やっと目的地に着いた。
校門の前には、街灯に照らされている圭吾と日向の姿が見えた為、ラストスパートを速度ちょい上げでゴールしたが、同時に視界に堂々と入った圭吾を見て失笑してしまった。
「……圭吾。お前はそんなにも目立ちたいのか? 日向を見てみろよ、あのステルス性の高い服を」
指摘する圭吾の服装は、黄色の長袖シャツに、昭和のスターのような金色に光り輝くひらひらが付いた白いジーパン姿だ。
本当、今日何しに行くのか分かってないのか?
隣の日向を見てみろ、上下揃ってジャージを着込み、黒一色だ。
……あ、こいつが一番、ランニング姿だな。
「とにかく、お前に聞きたい事が二、三ある。……その服は何だ? 今日はどこへ行くつもりなんだ? 隠れる気無いのか!?」
「おおぉう、質問攻めだな。芸能人にでもなった気分だぜ」
「それで、どこにあるんだ? 葵の家は」
「えぇ!? 質問しといて放置かよー! パネェッスよ亮さんよぉ!」
横から死語を放つ、五月蝿い馬鹿を無視しつつ、日向に問う。
「桐河町だ。その中でも、住宅地から少し離れた所に建っているから、少し位騒ぎがあっても通報はされないだろう」
「桐河町、か。ここから少し距離があるな……」
桐河町。
そこはHAVEN事件の後、一部が壊滅し完全な復旧が出来なかった東京都が、新東京都としての地域を確保する為に、埼玉県を削って作られた新しい町だ。
……って、桐河町?
桐河、きりかわ……。
「って、俺の住んでる町じゃねぇか!? 走って損したあぁぁ!!」
「お前、葵ちゃんと同じバス停って時点で、近所だと気付けよ馬鹿」
俺を罵りながら、圭吾は俺の肩に手を載せて来た。
笑いをわざと堪えている表情が、非常に腹が立つ。
だが、そんな事よりも、だ。
彼が言った最後の一言に、俺はこの世の終わりであるかのように地面に膝をつき、頭を両手で抱えて嘆いた。
「圭吾如きに馬鹿にされたぁぁぁ!!」
「本当、お前って失礼な奴だな……」
「心配するな、こういう態度を取る相手はお前だけだ。良かったな、泣いて喜べ!」
「それはそれで、何か嫌だぜ!?」
「お前ら、漫才をやりに来た訳じゃないんだ。早く行くぞ」
日向に怒られちまった。
明らかに、呆れた表情で吐息しながら。
「わりぃ、そうだな。それじゃ、行くか。丁度騒ぎを聞きつけた警官が御出座しだし」
言って、俺が来た方向とは逆の方を指差す。
視界に入ったのは、二人組みの警察官がこちらへと歩み寄って来ていた。
こんな時間にご苦労な事で。
「大方、金色のひらひらを付けた変質者に職質しに来たんだろう。どんまいだ、圭吾っと、内心で呟いておく」
「最初から最後まで、声に出てたぞおい」
変質者が何か言っている気がしたが、空耳だと結論付けておこう。
そして、税金泥棒から逃げるのをサブミッションにしながら、メインミッションである篠塚宅へ向けて、全速力を持ってして駆け出した。
心許無い月明かりがアスファルトを照らす中を、俺達は篠塚宅の近くに来ていた。
さり気無く腕時計を見てみれば、時刻は午後八時ちょい前。
日向曰く、この時間にはいつも、総会と呼ばれる会議を開いているらしい。
その証拠に、明かりが煌々と点いている部屋は四箇所だけだ。
多分、総会と証した飲み会でもやっているのだろう。
腹踊りをやっている日向の親父の姿が目に浮かぶ。
はい、馬鹿な想像終了。
「んにしてもでかいな……既に豪邸だって」
正面から見た感じでは、窓の位置からして二階建てだが、横幅がとても長い。もう、篠塚宅じゃなくて篠塚邸だな。
感想を一言で表すと、パネェな。あ、死語だった。
気を取り直して。門から玄関までの距離も何気に長い。
パッと見だと、飛翔鷹高校の校門から生徒玄関までの距離と似ている為、まず正面突破は自滅行為だ。
理由として、玄関の扉上部には小さなスポットライトが下向きに設置されており、その下には二つの人影がある。
見張りと言って、まず間違い無いだろう。
その二人を見た圭吾は、その方向を指し示す。
「で、あの二人はどうすんよ?」
「いや、見張り……なんだがな」
耳を澄ませると、会話と笑い声が聞こえる。
見張りとは言えないな、ありゃ。
「お前の親父は、緊張感の無い奴を雇ったのな。もしかして、もしかすると?」
「あぁ、素人同然の奴らだ。だからこそ、武器に頼って集団リンチしかやれない。……馬鹿親父は、少しでも安い賃金で雇える奴らを集めたんだ。その金銭欲が、俺達に吉と出た」
「だが、いくら雑魚でも数が多けりゃ強敵となるって言うべきところか? この場合。まぁ、俺達二人は一人ずつが既にラスボス級だから、心配する事は無いな」
「……あのー、三人じゃないの? おーい」
とにかく、数が多い事と、屋内戦であり、尚且つ相手は武器を所持している事を考慮しとかないとな。
……全滅させるのは、リスクが大きい、か?
「んじゃ、行くか?」
二人に問い掛けると、圭吾は右腕を振り上げて勇ましい表情になった。
切り替えの早い奴だな、本当。
「よっしゃ、そんじゃあ悪党、篠塚……何だ?」
「篠塚 謙介だ」
「うし。悪党、篠塚 謙介に制裁を! そして我が姫君、葵ちゃんを救い出すぞ!」
なるべく響かないように、小声で掛け声を放った圭吾を見て微笑しつつ、篠塚邸を見る。
「それじゃ、勝ちに行くか」
呟き、内心で別の言葉を発して気合を入れる。
葵を必ず救い出す、と。