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第23話:今日は鬱々真っ盛り

 またしても日向がニュースに映ったのを見てから、一日経った今朝。

 バスに揺られる俺は、鬱々真っ盛りだ。

 とりあえず、青空でも見上げて気分を落ち着かせようと一瞬思ったが、そういえば今日は曇りだった。

 窓の外、空にはそれをこれでもかと見せ付けるかのように、一面灰色の雲で覆われていたが為に、更に鬱になる。

 鬱々を超えたな。

 もう、鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱々真っ盛り。

 あぁ、醜い。もとい、見難い。

 超鬱々真っ盛りの方が短縮出来て良いな。

 ……はぁ。

 とにかく、灰色の空を見ていても鬱が追加されるだけなので、下を見る。

 眼下、道路なり。


「線…線…線…線…線…線…線…線……」


 今度は、まるで病人のように、道路の白線を見て〝線〟と呟き出す俺。

 俺の機嫌は、天気に左右されるのだ。

 以後、覚えておいて貰いたい。

 あれ? 誰にだよ、という突っ込み、聞こえなかった?

 ……はぁ。


「ひょー、ほいっ!!」


 とりあえず、訳の分からん言葉を発するのと同時に、両頬を思い切り叩き、意識を戻す。

 良し、大丈夫だ。

 後は空の雲が、急速に立ち退いて晴れ間を見せてくれれば万事解決だ。

 ちなみに、今回も葵はバスに乗っていない。

 完全に、俺一人という訳だ。

 とにかく、暇な時間を潰す為、昨日のニュースの内容を整理しておこう。

 今回は二回目という事で、そして飛翔鷹高校が有名校である為に、大きく取り上げられていた。

 目撃者の証言によって纏められた内容はこうだ。

 最初は五人組の暴力団組員が少年――つまりは日向に近寄って二、三回会話の後、突然日向が殴り掛かったそうだ。

 流石に今回は五人相手に一人だった為に、日向も頬に痣が出来たらしいが、相手側は五人全員、病院送りになったらしい。

 本当、中々の腕前だな、日向。

 っとまぁ、この事件を切っ掛けに、予想では校門前がマスコミによって押し競饅頭状態になっている気がする。

 そんな想像をしている内に、バスがいつもと同じ場所に到着した為、降りた後に早足で校門へと向かう。

 だが、いざ校門に到着しても押し競饅頭が開催されている様子は無く、生徒達がいつも通りに登校している光景があるだけだ。

 おいおいどうした、マスコミュニケーション。

 いやまぁ、別に来ていて欲しい訳では無いけれども。

 しかし何故、居ないんだ……?


「……まぁ、考えるだけ無駄だな」


 誰にも聞こえないように呟き、疑問を全て捨ておく。

 一雨降りそうな空を見上げ、早々に生徒玄関へと向かった。











 四時間目、鬼頭の授業。

 既に後半を迎えている今現在、各自自習と黒板に大きく書かれ、鬼頭はと言うと教卓で睡眠中だ。

 ほんと、それでいいのかね、担任教師さん。

 そして、相変わらず授業に顔を出さない日向の席は、もちろんの事空席。

 理由は多分、いや絶対、昨日の件だ。

 ついでに朝、鬼頭がホームルームに来ていなかったが、何か関係はあるのだろうか。

 もっとも、朝も不思議に思った、マスコミが居ない事に対する原因も掴めていない現状だ。

 まぁ、一生徒である俺が、そんな裏情報を知る術がある訳無いだろうが。

 などと考えていると、背中をペンのような物で突かれた。

 後ろ、という事は朔夜だろう。

 とりあえず、呼ばれたので後ろへと振り向く。


「あの、亮さん。神田さんがまたテレビに映っていましたよ?」

「あぁ、知ってる。ほんと、どうしたもんかねぇ……。その内、俺も映ったりして」

「変な冗談は止めて下さいよ、もう……」


 頬を可愛らしく膨らましてしかめっ面をする朔夜は、僅かに顔を傾けて上目遣いになっている。

 やっぱり、鬱を吹き飛ばす為の新鮮な反応を求めるなら、こいつが一番だな。

 おかげで、大量に並んだ鬱の字が、二十個も減った。ほぼ全部だ。

 思い、微笑してから、冗談はここまでにしておく。


「とりあえず、この後の昼休みに屋上にでも顔を出してくるわ。どうせ後二、三分でチャイムが鳴るしな」

「分かりました。それでは、今日はお弁当が無いと圭吾さんに伝えておきますか? 多分、まだ起きないと思いますし」

「いや、その必要は無い。お前達で食っていてくれ。折角持ってきてるんだから、無駄にしたくないからな。……もしあいつと二人っきりが嫌なら、姉御でも誘えばいいしな」

「え? そ、そうですか? では、遠慮無く頂きたいと思います」


 多少、遠慮がちに見えるのは、俺だけだろうか。

 とりあえず、小さく会釈した朔夜に、鞄から取り出した弁当を渡した。

 そして、チャイムが鳴ると同時に、教室を出ようとする鬼頭の下へと向かった。

 真後ろに立つと、彼女は俺に気付いたのか、戸に手を掛けたままこちらを向いた。


「どうした、霧島。何か用か?」

「あぁ。……日向の件なんだが、処分は決まっちまったのか?」


 記憶の冷蔵庫から一日だけ冷凍保存していた情報を取り出し、問い掛けると、鬼頭は腕を組んで困った表情をした。

 だがそれも、表面上だ。

 俺の目には、偽の表情をしているようにしか見えない。

 今の俺には、どうでも良い事だが。


「その件か。……とりあえず、マスコミに関してはこうちょうがふぁふぇふあぁぁっと」

「欠伸するか喋るか、どっちかにしろよ」

「欠伸するか喋るか、そのどちらかで無いといけないのか!? ……すまん、私の年代ネタだ、忘れてくれ。とにかく、校長が何もかもを手回しで押さえ込んでくれたのだが……」


 はぁ~、と年の所為かやけに似合う溜息のつき方をした鬼頭は、肩を竦めた。


「次があると、流石に庇い切れんのだ。最悪、退学処分となってしまうだろう」

「退学、か……。わかった、ありがとう。なら俺が、日向に話をつけてくるわ。もうするな、とな」

「ほう、それは良い考えだな。だが、ゾンビ取りがゾンビになるなよ?」

「ミイラ、だろ。ま、ゾンビの方が分かりやすいけどな。つー事は、俺は既に感染している、と」


 微笑と共にそう言うと、彼女は対照的に苦笑を返して来た。


「何だそれは? それだと、行く意味が無いじゃないか」

「それじゃ、血清を探す為、屋上へサバイバルに」

「なら納得だな。ペンは要るか? ペンは剣より強し、と言うからな」

「それは自動拳銃を見た事が無い奴しか吐かない台詞だ」

「違いないな」


 鬼頭と、他愛の無い会話を自然な形で終わらせ、教室の戸を潜る。

 途中、彼女が俺のポケットにペンを突っ込んで来た為、すかさず抜き取って、前を行く生徒のポケットに入れた。

 そしてそのまま、何食わぬ顔で屋上へと向かう。

 後ろから、怒りか呆れの交じった声が聞こえたが、気にしないでおこう。






 いつもよりやけに長く感じる階段を上りながら、あぁきっと鬱だからだと結論を出した俺の足は、最上階に到達した。

 そして、目の前にある扉のドアノブを捻り、開け放つ。

 開けた外の光景を少し見渡せば、すぐに日向は見つかった。

 いつも通り、フェンスにもたれ掛かって。

 その為、俺は彼の隣まで行き、同じようにもたれ掛かった。

 相変わらずの曇り空は、俺の機嫌をまたしても悪くする。

 ……っと、駄目だ駄目だ。どう考えても、機嫌を悪くするような状況じゃない。

 とりあえず深呼吸し、日向の方へと向いた。

 会話のキャッチボールを始めるか。


「……なぁ、日向。昨日は何で、あんな事になったんだ?」


 問うが、多分無言か回答拒否を決め込むだろう。

 そう思っていた俺の予想を、日向は軽々と外してくれた。


「先に、俺から質問させてもらう。……お前と良く一緒に居た、篠塚葵とは大分、仲が良いのか?」


 日向が放つ最初の一球で、いきなり魔球を投げて来た。

 そのボールは、完全に予想外の方向から飛んで来る。

 全く、質の悪いボールを投げる事がお好きなようで。

 まぁ、いくら魔球でも取っちまえばただのボールだ。

 手元に入ったボールを、今度は俺が投げる。


「あぁ、仲が良いぞ。馬鹿にし合える位。だが、どうしてそれを聞く?」

「あいつ、今日は欠席だったろ? ……あれは昨日、俺が相手をした奴らの組に連れて行かれたからだ」


 んん? 正直、日向の言っている台詞の意味が理解出来ない。

 だから、上手くボールをキャッチ出来なかった。

 ……何故、そうなるんだ?


「それは、真面目に言ってるのか?」

「大真面目だ。昨日の奴らが、それを教えて来た。だから俺は、奴らを殴った訳だ」

「ちょっと待て。まず、まずだ。何でお前に教えたんだ? お前と葵のどこに関係性があるって言うんだよ」


 問いに、日向は吐息一つし、間を空ける。

 その間が辛い。

 知りたいという欲求が、苛々に変わりそうになる丁度その時。

 何かを決心したかのように頷いた日向は、言った。


「あいつは、葵は……双子の妹だ」


 キャッチボールの筈なのに、投げたボールがバットで打ち返された。

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