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第01話:新しい日常の始まり

 お前が無駄に過ごした今日は、昨日死んだ誰かが死ぬほど生きたかった明日かもしれないぞ?

 そう、昔言われた事があった。

 だが俺は、毎日がそんな無駄だとも言える日常でも良かった。

 何も大きく変わらない、そんな日常が好きだと、胸を張って言いたいからだ。

 三途の川で対岸に渡る船を待っている間、良き思い出として回想する為に。

 だが、もし神様が居るとしたら、その神様とやらは俺を毛嫌いしているらしい。

 望み通りの日常が突然、非日常となった時、身をもってその事を実感させられたよ……。

 それでも俺は、いつかその神様とやらに好かれる為、俺らしく生きていこうとそう決めたんだ。











 春だ。その時期は新たな一歩の始まりであり、新たな出会いの季節。

 周りには、紺色の制服を着込んだ男女生徒がそれぞれの友達と会話をしながら歩いている。

 その人々の中の一人である俺、霧島 亮(きりしま りょう)は、私立・第二飛翔鷹高等学校の入学式に向かう真っ最中だ。

 ……何で第二なんだろうか。

 まぁその疑問は、ずいぶん前に考えるのを止めた事だ。

 などと思いながら、俺は歩みを続ける。

 事前の調べによると飛翔鷹高校前には、俺の自宅マンションの近くにあるバス停を経由しているバスが停まるそうだ。

 自宅から飛翔鷹高校まで、そんなに遠くは無いが、ありがたく使わせてもらう事にする……筈だったのだが、入学式が始まる八時四十分に丁度良い時間帯のバスが無く、かと言ってそれより前の時間帯だと早すぎる為、こうして歩いている訳だ。

 春休みが取れていないのか、重い足を動かしながら。

 にしても、徒歩で登校する生徒が多いな。健康に気を使いすぎじゃないか?

 そんな事を内心で呟きつつ、ふと生徒達を見渡した時、視界に入る光景に新たな疑問が生まれた。

 疑問を持ちまくるとは、忙しい性格だなと思いながらも、ご丁寧に疑問を脳内で読み上げる。

 この高校に入学する生徒の数人は髪色が黒では無く、それぞれ多色の髪色なのだ。銀髪である俺が言える事では無いのだが。


「――ういーッス、おっはよ! りょーちゃん!」


 その時、突然後ろから響く大声。

 振り向くとそこには、ツンツンの黒い短髪がトレードマークの男子生徒が、こちらに向かって来ていた。

 彼を見て俺は、思わず溜息をつく。


「お前なぁ。もしかして高校でも俺をその名で呼ぶ気か?」

「あったりまえじゃねぇか。相手をニックネームで呼ぶ事は、親友として当然なんだよ!」


 俺をりょーちゃんなどという名で呼ぶこいつは、自称・親友の本田 圭吾(ほんだ けいご)

 昔からずっと同じ学校であり、同じクラスだった嫌な縁がある為、高校も同じになるのかと思っていたが、その通りになってしまった。

 なんでも、一人に一台、最新型のノートパソコンが支給されるからだそうだ。

 そういえば圭吾がパンフレットを見ながら、最新型だぞ最新型! と五月蝿かったっけ……。

 だが、一番の理由は、馬鹿の圭吾に推薦が来ていたからだ。

 驚きだね。例えるなら、天変地異でも起きたかのよう。

 あ、ちなみに俺も推薦入学。

 と、そんな纏めを内心で行いつつ、横で喚いている奴の頭にチョップを一発食らわせる。

 すると彼は手で頭を押さえて、驚いた表情で俺を見た。


「な、何すんだ、りょーちゃん!」

「だから、そのりょーちゃんってのを止めろっ。……にしても、やけにテンションが高いな?」

「おいおい、テンション高いのはいつもの事だろ? それにな、」


 一度言葉を区切り、人差し指を左右に振った圭吾は、不適な――もとい、馬鹿みたいな笑みを浮かべて周りを見渡した。


「見てみろよ、この美少女の数! さっすが有名私立校は格が違うね、格が!」

「……あ~、前々から思ってたんだが、お前ってやっぱり馬鹿だな」

「ストレートに言うなよ……。ってか、普通男なら、美少女だらけの学校に夢を持たねぇか!?」


 両手を広げて訴えるようにして叫ぶ圭吾はしかし、一点を見たまま固まった。

 そんな圭吾に、どうしたんだ? っと問おうとすると、

「早速、今日一番の美少女発見! 亮、俺、ちょっくら行ってくるぜ!」


 そう言って、圭吾は俺に親指をグッと突き出し、ウィンク一つして走って行った。

 ……心配だから、俺も付いて行く。

 その方向には楽しそうに笑いながら、歩いている二人組みの女子生徒が見える。

 圭吾はその二人の内、左側の金色をした短髪の女子生徒に声を掛けた。

 呼び掛けに振り返った彼女は、確かに美少女と言える綺麗な顔立ちだ。

 ……いや別に、その隣の、黒い短髪の女子生徒が美少女では無いと言っている訳ではないが。

 ともあれ、そんな彼女に圭吾は、右手の人差し指でビシッと指した。


「我が魔術の一つ、制約の意を持つ“ギアス〟で、命令させてもらうぜ! 俺と付き合って下さいっ! ――ぐがっ!?」

「阿呆」


 唐突に馬鹿をほざいた圭吾の背中を足で蹴り、もう一蹴りで地に落とした。

 そんな状況を見た金髪の女子生徒は、困惑した表情で何か言おうとしている。

 ちなみに、もう一人の女子生徒は、唖然の表情だ。


「あ~……気にするな。コイツの事は綺麗さっぱり忘れて、さっさと登校しろ」


 言うと、金髪の女子生徒はにこやかな笑みで会釈し、もう一人の女子生徒と共に歩いて行った。

 ……あの笑みの意味は感謝だろうか、それとも同情だろうか……。

 たぶん後者だろうな、と苦笑交じりの呟きを内心で行う。

 ちなみに、下から俺を呼ぶ呻き声が聞こえたが、気にしない。

 他人のフリ他人のフリ、と自分に何度も言い聞かせ、〝平成四十八年・入学式〟と書かれた看板の掛かっている校門を早足で目指した。

 










 かったるい入学式を終え、一年間お世話になる教室へとクラスごとに列となって向かい、今は教室内だ。

 席順は市松模様という形式で、縦の列を男子・女子・男子・女子という順番で一列六人構成となっており、俺は窓際の一番後ろから一つ前という、居眠りには打って付けの席をゲットした。

 嬉しい事、この上ないな。

 だが、「いやっほう! たまらねぇぜ!!」などと叫びながら狂喜するつもりは無い為、常人らしく内心で喜んでおく。

 そして新学年の基本、自己紹介が始まった。

 トップバッターは、俺の席の最前列にいる人からだ。

 一番最初に言うという、とても緊張するであろう役柄を担う阿部さんに、内心でエールを送っておく。

 そんなこんなで、俺は自分の番が終わった後は何をしていようかと考えながらも、自己紹介に耳を傾けた。


「――中学校出身の出雲 直樹(いずも なおき)です。一年間、よろしくお願いします」


 ……俺の二つ前の奴、紹介はシンプルだが名前が気になる。

 出雲…か。確か、島根県の方にも出雲と言う所があった筈だ。

 出雲大社、だったかな? っと、そんな事を考えている間に俺の番。


「あ~、俺は星凛中学出身の霧島 亮だ。とりあえず、よろしく」


 よし、普通だ。

 その事に満足し、その後の順調な進行に時たま耳を傾けつつ、俺は窓の外を見ている事にした。

 相変わらずの青い空は、どこか心が落ち着く。

 流れる雲を見ていると、時間を忘れてしまう位だ。

 それから大分経って、圭吾の番。

 すると圭吾は勢い良く立ち上がり、思い切り息を吸う。

 そして、

「星凛中出身の本田 圭吾だ! 俺はこの高校生活を、誰も感じた事が無いぐらいに面白く過ごしたいと思う! よって、興味のある奴は俺に話し掛けてみろ! 但し、ヲタクだがなっ! 以上です!!」


 静まり返る教室。

 もちろん、俺は言葉が出なかった。

 唖然だな。

 ……本当、いきなり何言ってんだよ、馬鹿圭吾くんは。

 あいつには少しの間、他人のフリでもしていようかな? などと考えながら、俺は机に突っ伏した。

 圭吾によって、今後の日常が狂わされないか心配しつつも、それはありませんようにと、俺を嫌う神に祈りながら。

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