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第18話:忙しく、騒がしく、楽しく

 創立記念祭の前日である金曜日。

 この日は一日中、本番を明日に控えているが為の準備らしく、授業は無しだ。

 その分、準備とやらが忙しい訳だが……。

 ちなみにC組は、結局放課後に残ってやる生徒が二日目から増え始めた為、なんとか二日で三日分を終える事が出来た。

 つまりは、今日の作業が残り少ないという事であり、三時間程で終わった。

 よって残るは最終調整だが、それは各部活が利用する模擬店などに必要な物を設置するというものであり、僅か十分程度で終了した。

 その為、俺と圭吾は自由時間を利用して、今は屋上へと来ている。


「それにしても、この学校の創立記念祭は大規模だな。おかげでヘトヘトだぜ~」

「たった一日の為であっても、成功させようと全力を出す、か。良い方針じゃないか、そういうの」

「まぁ、そうなんだけどな。けどよ、やっぱり規模がでか過ぎるって」


 圭吾はそう言いながら、先程、彼が自販機で買って来た炭酸飲料を開けて、一口飲む。

 ちなみに俺も、パシリで――もとい、頼んで買って来て貰った炭酸飲料を片手に持っている。


「……ぷはー! この一杯の為に生きているんだぁ~」

「黙れ、お前はおっさんかっ。……ってか、お前は余り働いてなかっただろうが」


 そう文句を言い、俺も炭酸飲料を開けて、一口飲む。


「――ぶはっ! 何だこれ!? めちゃくちゃ苦いぞ!!」


 豪快に噴出す俺。

 仕方ないだろう、異常な程に苦いんだから。

 確か、これは圭吾が買って来た物だから……。

 っと、それに気付いて圭吾の方を向くと、腹を抱えて笑っていた。


「ぶはっ! だってさ、ははははは! はら、腹がいてぇ! はははははっ!!」

「やっぱりお前の仕業か……。今度は何だ?」

「ははは――ん? それの事か? それは無糖炭酸飲料〝元気百倍炭酸君 ニガリ君混入ver.〟だ。普通の飲み物みたいなラベルに騙されて、お前と同じような反応をした奴が続出したそうだ」


 た、炭酸君って……。

 しかもニガリ君混入って何だよ、本当。

 そう思いながらラベルを見ると、圭吾が好きそうな萌え系とかいう部類のキャラクターのイラストがプリントされていた。

 何故か猫耳が生えた金髪巨乳の美女が、「お疲れにゃん!」と言っているイラストだ。


「な、なぁ圭吾。……その犠牲者って普通の飲み物みたいな、とかじゃなくてこのイラストに釣られて買ったんじゃないか? ――って、ん?」


 俺が半目で圭吾に問い掛けている途中、滅多に来客の無い(と思われる)屋上に、人が来た。

 入口の重い扉を開けて来たそいつは、日向だった。


「……喧しいと思ったらお前らか。笑い声が一つ下の階段まで聞こえていたぞ」

「よう、日向。突然なんだが、コレ飲んでみないか?」


 言って、俺は手に持っていた炭酸君を差し出す。

 ちなみにラベルは、手で器用に隠しているが為に、怪しまれはしないだろう。

 近寄って来た日向はそれを無言で受け取り、何一つ疑う事無く一気飲み。

 ゴクリッと、彼の喉が快音を鳴らした瞬間、

「――ぶはっ! く、ぐふっ。……チッ」


 反応は良かったが、舌打ちされてしまった。

 ちらりと横に居る圭吾を見れば、必死に笑いを堪えている様子。

 一方、日向は腹が立ったのか炭酸君をフェンスの外側に向けて投げ捨て、出口へと向かった。

 そして、扉のドアノブに手を掛けようとしたその時だ。


「――っ!?」

「あ。……あ~」


 扉が突然、しかも勢い良く開き、日向に直撃した。

 俺と圭吾は、そんな彼を見て思わず声を揃えた。

 ……一歩横にずれていたのが運の尽きだったな、日向。

 そして、その犯人である扉の向こう側の奴は、半開きになった扉の間から顔を覗かせた。

 って、葵じゃねぇか。


「亮介いる~?」


 青髪のツインテールと、相変わらずの、まるで新人芸人がやりそうなボケは、間違いない。

 その新人芸人は俺と目が合うと、笑顔で大きく手を振った。


「見つけた見つけた! ヤッホー」

「何がヤッホー、だ。それに、俺は亮介じゃない、亮だ。……そんな事よりお前、開けた扉が直撃しちまったそいつに謝っとけよ?」

「え? 直撃? 何の話?」


 どうやら、まだ気付いていないらしい。

 視野が狭いのか? あいつは。

 とりあえず、面倒臭いが一応、日向を指差す。

 すると日向は、やっと動き出し、額をさすりながら半開きの扉を全開にした。


「ありゃ? ドアが勝手に――おわぁ! ご、ごめんなさい! まさかドアの向こうに人が居るとは思わなくって!」


 慌てふためきながら謝罪する葵を見る日向は、しばらくその状態を保ち、そして額をさすっていた手を下ろした。


「気にする事は無い。単なる事故だ」


 日向はそう言い残して、屋上を出て行った。

 その途中、一瞬だったがこちらを、いや葵をちらりと見て、何か安心したかのような笑みを浮かべたのが見えた……気がする。

 なんか、不気味だな。

 じゃなくって。……どういう意味だろうか?

 そう思ったのとほぼ同時に、圭吾が俺の肩を数回、軽く叩いた。

 振り向けば、こっちは本当に不気味な笑み。


「見たか? 日向のあの表情。ありゃきっと、恋って奴だぜ……!」

「あ~……お前の脳内はいつでもハッピーハッピーだな。第一、あの表情はそんな意味じゃないと思うぞ」


 小声で多分、と付け足しておく。


「じゃー何だよ? お前には分かるっつーのか?」

「そうだな……あの表情は――」

「葵選手、走る走る! ホームまで間に合うか!?」


 俺の言葉を遮るかの如く、どこからとも無く訳の分からん実況が聞こえてきた。

 っと、次の瞬間、

「スライディング! セーッフ!!」

「うぐぉっ!?」


 脇腹に、棒で思い切り突かれたような痛みが来た。

 それと同時に体は変な方向に曲がり、その後俺は激痛で蹲った。

 ……しゃ、洒落になんねぇ……。


「上手く滑られたなぁ、葵ちゃん」

「へへぇ~ん、これが私の実力なのだぁ!」


 圭吾の言葉から察するに、葵がスライディングをしたらしい。

 んで、その時の足が俺の横腹に直撃した、と。

 激痛で体を振るわせつつ、ゆっくりと葵を見れば、人差し指を天へと突きたてて勝ち誇っていた。


「……いってぇじゃ……ねぇか……!」


 怒りを込めた声で呟きながら、両手で素早く葵のツインテールごと頭を鷲掴みし、髪を思い切りくしゃくしゃにし始める。

 これでもか! とでも言う位、わしゃわしゃとくしゃくしゃに。


「ひゃああぁぁあ!! やめ、止めてー! ごめん、謝る! 謝るから止めてぇ~!!」


 悲鳴を上げながら謝る葵を見て、充分……とは思わなかったが、謝罪の言葉を放った為、仕方なく手を離す。


「び、びっくりしたよ~――って、なんで亮、そんなに楽しそうに笑ってるの?」

「は? 楽しそう……?」


 気付くと俺は、確かに笑っていた。

 さっきまでは怒りの感情だったはずなのに。


「にゃはは、亮が壊れたぁ! にゃはははは!」

「う、うるせぇ」


 何故、俺は笑っていたのかと疑問に持ちながらも、笑い続けている葵にデコピン一発当てておく。

 すると彼女は痛いじゃん、と言いながら額をさすり、そして何かを思い出したかのように、無理矢理笑うのを止めた。


「あ、そうそう。明日の創立記念祭なんだけど、皆で一緒に模擬店を見て回らない?」


 その問いに圭吾はもちろん、と背後から即答。

 まぁ、俺も同意権である訳で。


「模擬店やイベントは各部活動や生徒会が担当だし、俺達は暇だからな。もちろん、オッケーだ」

「それじゃ、朔夜ちゃんも呼んでね!」


 夢月もなと言い掛けた瞬間、先程の疑問が解けた。


「そうか……夢月か……」

「え? もちろん、夢月ちゃんも! ――それじゃ、また明日ね~」


 手を大きく振りながら、葵は屋上を出て行った。

 その姿を見送った後、圭吾は俺の肩に手を置き、立ち上がった。


「それじゃあ、俺達も行くか」

「……なぁ、圭吾。さっき俺が笑ってた理由なんだがな。……単に楽しかったというのもあったんだが……あいつ、夢月に似てる感じがするんだよ」

「それで、昔を思い出したってか? 馬鹿馬鹿しい」


 俺が引き止めるかのように話を始めた為、圭吾は仕方無さそうに座り直した。

 そして、肩を竦めて、呆れた表情をする。


「いいか? 夢月ちゃんはまだ生きてるんだぜ? 元気百倍、生存率百パーだ。簡単に照らし合わせるなって」

「いや、そういう意味じゃねぇんだ。何て言うか……無理して明るく振舞っていた頃の夢月にな……」

「あぁ、あの事件の後の……退院後か」


 俺はそうだ、と軽く返事をし、昔の夢月を思い出していた。

 両親が事故で死んだ後、しばらく入院していた夢月は、心を閉ざしていた。

 だが、ある事を切っ掛けに心を開いたが、退院後の数日間は大分無理をしているように見えていた。

 だから俺は、先程葵にしたのと同じように、夢月の髪をくしゃくしゃにしたりして、自然な笑顔を出させていた。

 今思えば、かなり自分勝手な理由な気がするが。

 それ以来、無理をしなくなったが――

「いってぇ! 何だよ」

「なーにボーっとしてるんだよ。過去を無理矢理振り返って我忘れる奴には、俺の制裁チョップが一番だ」

「うるせぇ、なら俺は仕返しに踵落としを食らわせるぞ」


 言いながら、技を構える為に立ち上がる。


「おいおい、意味わかんねぇぞ――って、ちょっと待て、とりあえずその足を下ろせって!」

「チッ、仕方ねぇな。今回だけだぞ」

「いつの間にか、立場変わって無いか? ……まぁいっか。とりあえず、明日の模擬店をさっと把握しておこうぜ」


 言いながら、圭吾は制服のポケットから小さく丸められた紙を取り出した。

 それを俺に見せつけながら、親指をグッと突き立てる。


「創立記念祭のパンフレットだ。用意周到だろ?」

「まるでゴミのようにここまで丸められてたら、ただ捨てるのが面倒だったとしか思えねぇよ」


 呆れた口調で言い、圭吾の手から紙を奪い取って、破らないよう慎重に開いて、しばらく目を通す事にした。

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