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第15話:人気者は面倒そうだ

 小鳥の鳴き声が五月蝿い……。

 そう感じた瞬間、瞼を閉じているのにも関わらず光が目を射した為に目を覚ました。

 眩しい。

 見れば、昨夜はカーテンを閉めずに寝たらしく、太陽の光が俺に直撃していた。

 その眩しさに思わず体を起こして光から逃げる。


「……あ~……もう朝か……」


 気怠さを露にした声で呟く俺は、昨夜ほとんど眠れなかったが為に寝不足だ。

 理由は昨日の放課後、葵が言った〝とんでもない事〟と同日、俺の帰路で起きた交通事故。

 その偶然とも言える二つの出来事が、妙に頭から離れず眠気を飛ばしやがった。

 嫌な癖だ。

 にしても、葵が言ったそれが交通事故の事だったとしたら、どうやって分かったんだろうか?

 そう考えると、余計に怖い……。

 もしかしたら、未来予知とか――


「……馬鹿馬鹿しい、そんなもん実在するわけないだろ」


 わざわざ自分に言い聞かせるように、声に出して否定する。

 だが、未来予知という単語には、何故か違和感を覚えない。

 それは過去に、同じように未来予知が何とかって言ってた奴が居たからであって……。


「……あ~、止めだ止め」


 俺は考えるのを止めて、ベッドから抜け出す。

 そして、顔を洗いに洗面所へと向かった。

 蛇口から出る冷たい水を顔に叩き付け、僅かに残った眠気を完全に吹き飛ばす。

 そうしている間に、遠くからドアが開く音がした。

 同時、スリッパで床を擦りながら、その音がこちらに向かって来るのが分かる。

 どうやら夢月が起きたようだ。

 その音は洗面所の入口近くで止まった為、俺はタオルで顔を拭きながら夢月の方へと向く。


「よう、夢月。おは――」

「えぇ!? お兄ちゃんが私より先に起きてる! どうしよう、天変地異が起きちゃうよ!」

「朝っぱらから失礼な奴だな」


 せっかく俺が爽やかにおはよう、と言おうとしたにも関わらず、言い終える前に夢月は、まるでこの世の終わりのような表情で驚いた。

 その為俺は、彼女に近付いて額に一発のデコピンを食らわす。


「イタッ! ……冗談なのに」

「冗談には聞こえなかったし、見えなかった。それよりも、早く朝食だ」


 とりあえず、夢月が顔を洗うのを待って、共にリビングへと向かった。










 早起きした分のんびりしてしまい、少し遅れたがいつも通りにバスに乗り、いつも通りに校門を抜け、いつも通りに生徒玄関で上履きに履き替える。

 嗚呼、いつも通りというのはなんて素晴らしい響きだろうか……。

 いつも通り最高! いつも通り素敵! いつも通りに惚れ直した!

 などと、何故か内心でハイテンションに叫びつつ一階の廊下を歩いていると、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえた。

 だが、それに気付いた瞬間に、俺の横をその音は勢い良く駆け抜けて行った。

 は、速いな……。まるで某ハリネズミだ。

 ともあれその音を放っていた人物は、すぐ近くにある女子トイレに駆け込んだ。


「……姉御?」


 スレンダーな長身、紫色の長髪、そしてその髪型までもが一致している為、まず間違いないだろう。

 その姉御が女子トイレに駆け込んでから少し経って、今度は複数の足音が後ろから聞こえ始めた。

 まばらな足音が、一つ一つ揃う事無く、連続して鳴り響く。

 十人は居るな、こりゃ。


「奈々様ー! 待ってくださーい!」

「逃げないでくださいよー!」


 嫌な予感が、鳥肌と共に感じ取れた。

 恐る恐る後ろへと振り向くと案の定、十数人の生徒達がこちらに向かって走って来ていた。

 その光景は、まるで軍隊の練習だ。

 いや、足並みが揃ってないから、部活動か。

 ともあれ、俺は急いで壁際へと避難する。

 だが、生徒達が何故か俺の前で止まり、全員が一斉にこちらを向いた。

 こ、怖いな……。

 その事に口元を引きつらせていると、この団体の代表と思われる女子生徒が一人、一歩前に出て来た。


「質問です。先ほどこの廊下を走って行ったと思われる人物、川瀬 奈々さんはどちらへ向かったか分かりますか? あ、紫色の長髪の女性です」


 ……どうやらこいつらは、姉御と初めて会った時に言っていたファンって奴らしい。

 にしても、人数が思っていたより多いな。

 てっきり、二、三人という少数で成り立ってるのかと思ってた。

 とにかく多い、男女問わず。

 まぁ、そんな事はさて置き。

 彼女が指差している方を見ると、少し行った所に左右への曲がり角があった。

 右は階段、左は部室棟への渡り廊下だ。

 だが、確か姉御は、手前の女子トイレに入った筈だが……。


「左だ、左に行ったぞ」


 その一言を聞いた生徒達は、ありがとうございました! っと、元気良く礼を言って一斉に走って行った。

 ……悪い事したかなぁ。

 いや、女子トイレに大量の生徒が流れ込んで行くって光景は怖いから、この選択で合ってるだろう。

 さすがに男子生徒は入らないだろうが。

 ともあれ、姉御に借りを作るってのも滅多に無い事だろうし、良しとするか。

 そう思い頷いた後、何気無く腕時計を見ると、ホームルーム開始時間の五分前だった。

 そう言えばたまに、鬼頭は口癖のように、私より遅かった場合は欠席扱いにする、と言っていた気がする……。


「やべぇ! もう来るじゃねぇか!!」


 俺はそう叫び、全速力で階段を駆け上がった。






 全速力で向かった結果、僅か十秒で一年の教室がある四階に到着した……その時だ。

 偶然にも、鬼頭と鉢合わせしてしまった。


「ほう、誰かと思えば霧島じゃないか。この時間にここで私と会ったという事は、遅刻と見て欠席扱いしてもいいな?」

「いやいや、アンタよりも先に教室に入れば問題無いって」


 俺と鬼頭は睨み合ったまま動かない。

 唯一動かすのは口だけ。

 ……なんとなく、鬼頭が人を見下すような表情をしているのは気の所為ではないだろう。


「生徒の分際で、教師に対しアンタと吐くとは……。余程、私を敵に回したいようだな」

「おいおい、生徒を軽蔑するような人が、教師を名乗れると思ってるのか?」

「今の時代のガキ共には多少、軽蔑が出来る教師が必要なんだよ。やれ親だ、やれPTAだ何て言っていては、馬鹿が増える一方だからな」

「屁理屈を並べる頭がにあるのなら、生徒の意見も聞いた方がいいんじゃないのか? アンタの軽蔑は充分過ぎるので、そろそろ生徒と同じ目線で付き合って行って貰えませんか?」


 それを聞いた鬼頭は、鼻で笑いやがった。

 同時に腕を組み、見下す表情をより一層濃くする。

 次いで、口の端を吊り上げた。


「フンッ、断る。霧島、お前は同じ事を私に言わせて楽しいか? 今の時代のガキ共には多少の軽蔑が必要だ。そして、お前達にはまだまだ足りない物が多いのだよ……。故に霧島、お前は見せしめとなるべきだ」


 ……今、気付いた。

 こいつと会話で争っても、一向に終わりが見えない、と。

 ならば、強行突破しか無いのか?


「とりあえず、俺が遅刻にならない方法として、アンタより先に教室に入るってのは有効か?」

「ほう、試してみるか? 霧島」


 その、挑発とも言える返事を聞き終わる前に、俺は教室目指して、勢い良く走り出す。

 だが、その動きを読んでいたのか、鬼頭も走り出した。

 刹那、足に軽い衝撃を感じたのと同時に、視界が回転する。

 そして腹部に強い衝撃を受け、一瞬にして意識が飛んだ。

 ふごぅっ! なんて情けない声を上げたのは、何年振りだろうか……。

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