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第10話:〝鬼人〟と呼ばれた者の噂

 昼に聞くべき事を忘れていたのが仇となったのだろうか、俺は凪に置手紙で呼び出される羽目となった。

 それも、手紙を下駄箱の中に置くという、誤解を招きやすい方法で、だ。

 しかも場所は体育館裏という、如何にも古典的な場所だ。

 まぁ、内容は「すぐに体育館裏の用具庫に来い!」というものだったので、俺が約束通りの事をしようがしまいが、呼び出しはくらっていたようだ。

 この事を圭吾に話すと、面白そうだから、と言ってついて来る事になっちまった。

 心底、言わなきゃ良かったと思う……。

 内心でそう後悔しつつ、どうせ凪だからと思ってゆっくりとした歩みで生徒玄関を抜け、別棟となっている体育館の裏にあるという用具庫の前へと到着した。

 そこには俺を呼び出した張本人、凪が腕を組んで仁王立ちをしている。


「やっと来たな、霧島。んで、どうなんや? 神田は来るんか?」

「いや、大事な用があって無理だってさ」


 本当は聞いてないがな。


「なんやて!? ……そうか、わいが怖いんやな。ふくく、口ほどにも無い奴やなぁ!」


 突然、大笑い。

 こういうのを自惚れっていうのだろうか。

 そんな思いで哀れみの表情を向けている俺を気にせず、組んでいた腕を解いてビシッと人差し指を俺に指して来た。


「やっぱりわいの相手はお前だけや、霧島! わいと勝負せい!」

「結局それかよ」


 笑いたいが、それを通り越して呆れたよ……。


「俺は必要な時以外、喧嘩はしないつもりなんだが」

「せやから、わいと必要な勝負をせい!」

「言ってる意味が滅茶苦茶だ、阿呆」

「ぐっ……。しゃーない、奥の手やっ」


 そう言うと凪は両手をメガホンの代わりにし、口元に当てた。

 何をする気なんだ?

 疑問の表情で首を傾げたその時だ。


「猫のバカヤロー!!」

「――は!?」


 っと、駄目だ、理性を保て俺!


「猫じゃらしを見ると追いかける単純動物っ!!」


 理性を保て! たも――


「猫なんていらんわぁぁ!!」


 刹那、頭の中で何かが切れる音がした。


「猫なんて――って、あれ? 何や霧島、その途轍もない殺気は!? ま、待つんや霧島! まっ――」











 亮の怒りが、見れば分かる程に溜まっているなぁ。

 そんな事を思いながら、俺は少し離れた所、用具庫の手前にあるブロック塀に座って二人を見ていた。


「ここは、実況でもするべきかねぇ」

「んじゃ、私はアシスタント! どもー、アシスタントの葵ちゃんでーすっ!」

「おわあぁっ!」


 突然、俺の左側に来客。

 それも、やけに背の小さい女子生徒だ。

 にしても、いつの間に来たんだ?


「あっと、ごめんごめん、初めましてだね! 私は篠塚 葵だよ、よろしく~」

「お、おう、俺は本田 圭吾だ。よろしくっ」


 あぁ、亮が前に言ってたバスのフラグ少女か。

 いや、美少女と言うべきだろうか。

 にしても亮は、美少女ばかり友達になるなぁ。

 朔夜ちゃんといい葵ちゃんといい詩織といい。

 本当、羨ましい男だ。


「で、どうして亮はあんなに怒っているの?」


 葵ちゃんが人差し指で示す方向を見ると、亮が途轍もない殺気を出している様だった。

 それはもう、一般人である俺にも感じ取れる程の、だ。

 あ、鳥肌立った。


「さっき、凪が猫を馬鹿にしていただろ? それに対して怒っているんだよ」

「え? 何で猫?」


 何故、猫なのか。

 その事に対して葵ちゃんは、興味津々に小首を傾げて問い掛けて来た。

 ……まぁ、別に話してもいいかな。


「あいつの家系、霧島家の人間の血を受け継いだ者は皆、大の猫好きらしいんだ。猫を見るよ自分を抑え切れなくなり、猫以外何も見えなくなるらしい。まぁ、要するにだ。あいつは猫馬鹿ってとこだな」

「へぇ~、なんだか可愛いところあるね! 面白いじゃんっ!」

「面白いだけだったらどれだけいい事か……」


 俺は、ちょっと昔話だ、と苦笑交じりに言って話を始める。


「今から二年程前かな。亮が喧嘩をよくやっていた頃、他校の奴らが亮の猫好きの情報を手に入れたらしくてな。三人がかりで、今で言うと凪みたいに大声で猫を馬鹿にする言葉を言いまくったんだ。その時の亮、本当に怖かったよ」


 言いながら俺は、その時の状況を思い出しながらふと思った。

 鬼神なんて名前付けた奴、よくもまぁ亮にピッタリの名を思いついたなぁ、と。

 ……まぁ、俺なんだが。



「相手は横一列に並んでたんだがな、亮は疾風の如く真ん中の奴の懐に入り込み、鳩尾に一撃! そしてすぐ横にいた奴の顎を勢い良く蹴り上げ! 最後に、唖然としている奴の首を両手で鷲掴み! んで、最後にそいつに向かって――って、葵ちゃん、聞いてる?」

「う、うん、聞いてたよ。けど今、圭吾が言ってた事がリアルタイムで行われていた……」


 そう言って葵ちゃんは、再び亮の居る方向を人差し指で示す。

 その先の光景に思わず、あっ、と声が出た。

 亮が、自分よりも少し体の大きい凪の首を鷲掴みにして持ち上げていた。

 その表情は怒りを露にしており、鋭い目で凪を睨み付けている。


「……もう一度、猫を馬鹿にしてみろ。この首をへし折ってやる……」


 不味いな。何とかして亮を止めなくては……。

 その時俺は、あの人しかいないっ、と思って携帯を取り出し、その人物にコールした。

 相手が電話に出るとすぐさま、亮が暴走したから止めてやってくれ! と言うと、すぐに了承された。

 与えられた指示は、亮の耳に携帯を当てる事。

 俺は急いで、亮の耳元へ携帯を押し当てる。

 刹那、

『この、バカ兄貴ぃぃっ!!』


 電話から少し離れているというのに、俺の耳までクリアに聞こえる一喝。

 電話の相手は亮が唯一敵わない相手。

 それは妹の夢月ちゃんなのだ。

 もちろん、鬼神の引退も彼女の命令だ。

 彼女が中学に入学して間もない頃、亮の〝鬼神〟という噂を知り、始まったばかりの中学校生活をその噂で滅茶苦茶にされたく無い、と大激怒。

 その結果、亮は引退する事にし、せっかく強いのだから人の為になるような時だけその強さを発揮させなさい、とこっ酷く説教されたそうだ。

 何はともあれ、亮の暴走が止まってよかったよ。


「一件落着、だねっ」

「まさにその通りだなぁ」


 凪は気絶してぶっ倒れていて、亮は既に通話が終了している携帯片手に唖然としているという、異様な光景だがな。

 とにかく、早めに亮を夢月ちゃんの下に連れて帰った方が良いな、と思う俺だった。

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