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第09話:知りたいのは事件の原因

 さてどうしたものか。

 日向とは余り面識が無いが、昨日のニュースに出た事によって急に気になってきた。

 さすがに、眠れなかったという訳では無いが、気になる。

 その為に、会ったら何か聞こうと決め、今現在はいつも通りに登校中だ。

 数分後、いつも通りにバスを降りた場所で、偶然か待ち伏せなのかは知らんが、最近全く姿を見せなかった熱血喧嘩馬鹿の、藤林 凪が声を掛けて来た。


「おう、久しぶりやな霧島。元気やったか?」

「あぁ、元気だったよ。お前に会うまではな」

「せや、自己紹介がまだやったな。わいは藤林 凪や。こう見えて、乙女座なんやで!」


 とっくに知ってるよ……聞きたくも無い星座は初耳だが。

 とりあえず、そうなんだ、と軽く受け流しておく。

 ……にしても、回りくどい奴だ。

 最初から用件を言えば良いものを。


「……なぁ、無駄話は止めて本題に入ったらどうだ?」

「なんや、バレとるんかいな……。ほな、本題に入るで。霧島んとこのクラスに神田って奴が居るやろ? そいつ昨日な――」

「ニュースに写真が出てた、だろ?」


 先に内容を言った瞬間、凪は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。

 それは図星って事だろうな。


「なんや、知っとったんかいな……。ほな話は早いわ。わいはその暴力団に勝ったっていう強さに興味を持ってな、是非一度会ってみたいと思ったんや」

「……わかった、お前に会えるか聞いておくよ」


 どうせ、昼は屋上に居るだろうしな。

 教室で言おうにも、どうせ俺は寝てるだろうし。


「ホンマか!? ほな、よろしく頼むわ!」


 心から嬉しそうな表情を見せた後、凪は学校の方へと走り去って行った。

 すると他の生徒は、凪を避けるようにして道を開けている。

 やっぱり、避けたくなる奴だよな、あいつ。


「……っと、俺も急がねぇと!」


 言って、俺は早歩きで学校へと向かった。






 早歩きをしたのが吉と出たのか、教室には意外と早く到着した。

 そのついでに日向の席をチラッと見たが、欠席なのか誰も座っていなかった。

 とりあえず、朔夜に昨日の事を話そうかと思いながら席に着く。

 すると彼女は、俺は来た事に気付いたようだ。


「あ、り、亮さん……。お、おはようございます」


 動揺しすぎだろ。


「あぁ、おは――うごぉ!?」


 おはようと言い返そうとしたその時、急に体が強い衝撃で飛ばされ、横の窓に叩き付けられた。

 窓が開いてたら死んでたぞ……。


「ん? さすがに跳び蹴りは少しやり過ぎたかのぉ。……すまん」


 この喋り方は間違い無い。

 川瀬 奈々こと、姉御だ。

 どうやら俺に、手加減無しのドロップキックをしたらしい。


「だ、大丈夫ですか!?」


 驚きを隠せない表情の朔夜は、心配そうな表情で問い掛けて来る。

 そんな彼女に俺は、大丈夫だっと言いながら席に座り直す。


「イツツ……。おいおい、どういうつもりだよ姉御!」

「いや、お主の古き噂を聞いたものでな。それが真か確かめたかったのじゃ」


 ……と、とうとう姉御の耳にも入ったのか……?

 何故今頃、昔の話が蒸し返ったんだ?

 しかも姉御の一言で朔夜までもが、古き噂って何ですか? っと、小首を傾げて聞いて来る。

 すると姉御は、素早く朔夜に答えた。


「こやつ、中学の頃に〝鬼神〟と呼ばれ、不良などの荒れた者達を片っ端から倒したらしいんじゃ。その総計は何と百人以上!」


 何ともまぁ、嬉しそうに話してらっしゃる。

 姉御って、そういう関係の話が好きな人だったのか?

 ……ってか、俺が蹴られる理由はその中にあるのでしょうか。


「で、今でもやっておるのか?」

「……止めた。つまりは引退、幕引きだよ。理由は言えないがな」

「引退じゃと? その様な強さを持っていて何故――」

「亮にも敵わない相手が居るって事だよ」


 姉御の言葉を妨げるかの様に、圭吾が割って入って来た。

 良いところに来た、圭吾!


「そうか、亮が敵わぬ相手か。……一度会って見たいものじゃな」


 いやいや姉御は一度会ってるよ、と思ったが、俺は敢えて口には出さなかった。

 しかしこの話がこれ以上続くと思わぬところでボロが出そうだ。

 無理矢理、話を変えよう。


「そ、そういえば昨日のニュース見たか? 日向の」

「あ、神田さんのやつですね? 驚きましたよ! 被害者側なのに無傷だったそうですから」

「ぬ? それは初耳じゃぞ?」


 姉御の口からは、予想外の言葉が出て来た。

 まぁ、余り大きく取り上げられて無かったからな。

 それとも、姉御はニュースを見ない人なのだろうか。

 そう思っている間に姉御は、ふむ、と頷いて圭吾を見た。


「面白そうな話じゃのう……。圭吾、説明せい!」

「へ? あぁ、昨日の夕刻に暴力団組員による暴行事件があったんだ。その被害者側の写真として日向が映ってたんだが、被害者なのに無傷で逆に相手の方がボロボロだったって訳だ」


 最近のお前のセリフは、説明が多いな。


「ふむ、状況が理解出来たぞ。褒めてつかわそう」

「ははぁ、ありがたき幸せ!」

「何だお前ら」


 たぶん、俺が突っ込むので合っていただろう。

 そんな馬鹿コントのような事をやっているとチャイムが鳴り、それと同時に鬼頭が入って来た。

 すると、姉御と圭吾を含めたこの教室内の生徒達は、素早く自分の席へと戻る。


「よし、久しぶりだなお前ら、休みの間は元気してたか? ちなみに私は破産寸前まで追い込まれてしまった。よって誰か金を貸してくれないか?」


 静まり返る教室。

 そりゃそうだ。生徒に金を要求するなんて、前代未聞にも程がある。

 ……たぶん、クラス全員が思っている事だろうな。


「何だ、誰も居ないのか……チッ」


 鬼頭は舌打をした後、数秒の間を空けた。

 そして腕を組み、仕方無さそうな表情になる。


「まぁいいか――ん? この席は、と。……本田、ここは誰の席だ?」

「あ、神田の席ッス」


 また説明役か、圭吾よ。

 ってか、自分が受け持つ生徒の席ぐらい覚えろ、担任よ。


「あぁ、神田か。神田ならさっき屋上に居る姿が見えたから欠席では無いっと……」

「先生! それはサボりと言うのでは無いでしょうか?」

「黙れ、あ……あ~……むらもと? そう、村本! 人にはどうしようも無い時だってあるのだ。そこのところ、これから考えといた方がいいぞ?」


 鬼頭は訳の分からん事を言って無理に村本とやらを黙らせ、体を右に向けた。


「それじゃ、HR終わりっ。一時間目の準備しろよー」


 そう言い残して、鬼頭は何やらブツブツ言いながら教室を出て行った。

 なんて自由主義な教師だろうか……何て考えている余裕は無かった!

 一時間目は体育であり、着替える時間が限られていた。


「亮ー、先に行ってるぞー」

「待ったぁ! ストップストーップ!」


 俺は先に行くと言いやがった圭吾を追って、全速力で走り出した。











 かったるい午後の授業を無事に終え、現在は昼休み。

 凪の約束を果たす為……は第二として、第一は昨日の事を聞く為に、俺は日向の居ると思われる屋上へ向かう。

 その途中、階段を上っている間、姉御の言葉を思い出していた。

 朝、鬼頭が来て皆が席に戻っていく中で、姉御が耳元で囁いた言葉だ。

 少し疼いたんじゃないかの? と。

 その言葉が何と無く挑発に思える。

 確かにニュースを見た時、心が疼いた俺が居た。否定はしないさ。

 そんな自分があいつに会いたいって思うのなら、本能のままに行動するまでだ。

 吐息し、自分の考えに一区切りつけておく。

 それとほぼ同時に、階段が途切れて最上階に辿り着いた為、屋上への入口を開ける。

 開けた先の光景にはもちろん、フェンスにもたれ掛かっている日向が居た。


「よぉ、日向」


 とりあえず、軽く声を掛ける。

 すると日向は、俺に気付いたのかこちらを見た。


「……何だ、お前か」

「何だ、という事は別の誰かが来ると思ってたのか?」


 微笑交じりに言いながら、日向の隣に行って背を預けるようにして寄り掛かる。

 そして、制服のポケットから、ここに来る前に買った二個の焼きそばパンの内一個を取り出す。


「お前、昼食まだか? なんなら、このパン食うか?」

「いらん」

「そうか、美味いのに」


 結局、口数の少ない会話の後、一人で昼食となった。

 何を言っても短い一言しか返してこない為、話が続かない現実。

 文字通り、静寂が訪れた。

 しばらくして焼きそばパンを一個食べ終えたので、そろそろ聞こうか、と思い日向の方を向く。


「……なぁ、昨日は何でニュースに映るような事になったんだ?」

「お前には関係無い」


 拒絶の意味を込めたような口調での即答。

 だが、もう一押ししてみよう。


「最初に始めたのは向こうか? お前か?」

「だから、お前には関係無いと言ってるだろ!」


 そう一喝して、力強く睨み付けて来た。

 たった二回の質問で怒りを出したんだ、相当機嫌が悪いに違いない。

 さすがにこれ以上は不味いな。

 ……引き下がるのはえぇな、俺。


「えと、悪かったな。どうしても気にな――」

「うりゃあぁっ!!」


 俺が謝罪の言葉を言い終わる刹那、突然にして入口のドアが勢い良く開き、同時に謎の声。


「あー! やっと見つけた!」


 そして響き渡る大声。

 その声の主は、葵だった。


「龍! 昨日の約束忘れてたでしょ!」

「龍じゃねぇ、亮だ。大丈夫、まだ腹は空いている」


 正直、忘れてたよ……。

 二個目の焼きそばパンを食わなくてよかった。


「それじゃ急ぐよ! この葵ちゃんを待たせたら駄目なんだから!」


 吼えた葵は、笑みのまま来た道を引き返して行った。

 本当、元気の良い奴だな。


「まぁ、そういう事だから俺行くな。――って、どうした?」


 日向の方を向いた瞬間、少しの間だけだったが、何かに驚いたかのように目を見開いていた。

 そりゃまあ、急にあんな元気の良い奴がドアを勢い良く開けて来たら誰でも驚くだろうが。


「……ん? あ、あぁ」


 俺の視線に気付いたのか軽く返事をして、急いでフェンスにもたれ掛かって町の方を向いた。

 その反応に疑問を持ったが、葵が何か言ってきそうなので、急いで彼女の後を追う事にした。

 階段の下からは、葵が俺を呼ぶ声が響き続けている。






 そういえば、凪の事を忘れてたな。

 ……まぁいっか。

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