表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

フィーナの弟と4色定理

数学の話はどこまで詳しく書くか迷います。あまり細かく書きすぎると、それだけで1万文字とか簡単に超えてしまうので。

『最初の問題』の話を優人に聞いた後、ユリナ姫が首をかしげながら優人に尋ねた。

「優人様の世界では、1つずつ試して答えを見つけるような解き方はしないんですか?」

 優人は軽く肩をすくめながら答える。

「することもあります。しかし、そういう解き方は数学ではあまり好まれていませんね。」

 フィーナが興味津々な顔で聞いてきた。

「でも、することもあるってことは、総当たりで解いた問題もあるんでしょ?」

 優人は頷き、答えた。

「ありますよ。私の世界で有名なものは『4色問題』っていう問題がそうですね。」

 ユリナ姫が「4色問題?」と問い返したため、優人は話を続けた。

「4色問題というのは、まず平面上に描かれた地図を考えます。どんな地図でも、隣り合う領域を同じ色で塗らないようにすると、最大で4色あれば十分だという問題です。すでに証明されているので『4色定理』とも呼ばれます。」

「つまり、赤、青、緑、黄色の4色を使えば、どんなに複雑な地図でも隣り合う領域を異なる色で塗り分けられるってことです。」

 フィーナが首をかしげながら聞いてきた。

「簡単そうに聞こえるけど、それってそんなに難しい問題なの?」

「そうですね、言っている内容は簡単そうですが、これを証明するのはとても難しいんです。私の世界では、100年以上も解けなかったんですよ。」

「結局、この問題が解けたのは1976年。ケネス・アッペルとヴォルフガング・ハーケンっていう2人の数学者によって証明されました。」

 ユリナ姫が目を輝かせて聞く。

「どのようにして解いたんですか?」

 優人は続けた。

「彼らは、すべての地図が特定の『基本的なパターン』に分解できることを証明しました。それを使えば、どんな地図でも4色で塗れることが示せる。だけど、その『基本的なパターン』がものすごく多かったんです。」

「どれくらい多かったのですか?」

「その当時で1000種類以上のパターンがあったから、全部を一つずつ調べる必要があったんです。それで、彼らはコンピュータという機械を使って総当たりで全パターンを確認したんです。」

 フィーナが目を丸くする。

「1000種類以上!?」

 優人は頷く。

「それまでの数学の証明では、人間が理論を考えて、それを紙とペンで書き上げるのが主流だったんですが、1000種類以上も手作業で行うのは時間がかかりすぎます。なので、機械の力を使って自動化して解かせたんです。4色問題はコンピュータを使って証明された有名な例ですね。」

 ユリナ姫は驚きながらも感心した様子で言った。

「そんな問題があるんですね……。でも、機械を使った証明って、今までなかった方法なんですよね?みんなすぐに納得したんですか?」

「そうですね。最初は批判的な意見も多かったです。でも、今ではコンピュータを使った証明も受け入れられるようになってきてます。4色問題はその先駆けと言えますね。しかし、それでもコンピュータによる総当たりではなく、数学の知識を根拠にした論理的な証明の方が私は好きですね。」

 優人が「話がそれてしまいましたね。ユリナ、授業の続きをお願いします。」と笑顔で言うと、ユリナ姫は小さく頷き、表情を引き締めて説明を始めた。


「では、アルスタリア王国と他の国との関係について話しますね。」

 ユリナ姫はそういって、最初に中央の国、リベリオ帝国について話を始めた。

「アルスタリア王国と中央のリベリオ帝国は、長い歴史の中で何度も同盟を結んできました。しかし、リベリオ帝国は大陸最大の国であり、経済的にも数学の発展的にも強大な力を持っています。そのため、アルスタリア王国としては帝国に依存しすぎないよう注意しているのです。」

 ユリナ姫は続けた。

「リベリオ帝国には大図書館があり、知識や技術の中心地です。また、数学研究所もあり、世界中から優秀な数学者が集まる場所になっています。アルスタリア王国は、帝国から書籍や数学に関する情報を輸入していますが、その代わりに、帝国には私たちの豊かな鉱石資源を提供しています。ただし、帝国はその影響力を拡大しようとすることもあるので、常に警戒が必要です。」

 次にユリナ姫は北のノルディア連合について話をする。

「ノルディア連合は、小国が集まって形成された国家です。肥沃な土地が広がる穀倉地帯を持ち、農業が盛んで、アルスタリア王国の食糧供給を支えています。特に、ノルディア連合で生産される小麦や果物は質が高く、王国の市場でも高値で取引されています。我が国とは相互に同盟を組み、どちらかの国が飢饉などで困ったときには援助をしあう関係です。」

 優人は感心した表情を浮かべた。

「それなら、ノルディア連合とはかなり良い関係なんだね。」

 ユリナ姫は微笑みながら頷いた。

「ええ、ノルディア連合の王とアルスタリア王国の王は昔からの知り合いで、個人的にも仲の良い友人同士なんです。」

 続けて東の国について説明する。

「メカリオン公国は工業技術が発達していて、特に機械工学に優れています。彼らが製造する時計や機械仕掛けの道具は、この世界で高品質のものです。アルスタリア王国も、公国から農具や日用品を輸入しています。」

 優人が質問した。

「関係としては友好的な国ですか?」

 ユリナ姫は少し表情を曇らせた。

「商業的な交流はありますが、公国はとても実利的で、利益にならないことには動きません。そのため、緊密な友好関係というよりは、必要な取引を行う相手、という感覚が強いです。」

 ユリナ姫は最後に南の国について説明を始めた。

「サウザリア王国は大賢者の塔を攻略することに、国を挙げて取り組んでいます。そのため、それ以外のことには力を入れておらず、他の国との関係も最低限です。しかし、サウザリア王国は塔を攻略して、塔にある何かを手に入れることで、世界における地位を高めたいと考えているようです。」

 優人は興味深そうに尋ねた。

「アルスタリア王国は塔の攻略に関わったりしないんですか?」

 ユリナ姫は首を振った。

「アルスタリアは塔の攻略には関心を持っていません。地理的に遠いということもありますが、我が国の数学の力では攻略できるとは思えません。」

 ユリナ姫が一通り説明を終えると、優人は腕を組んで考え込んだ。

「なるほど、どの国もそれぞれ特徴的だし、アルスタリア王国がそれらとどう関わっているのかがよく分かりました。」

 姫は少し誇らしげに微笑み、「私の説明が役に立って嬉しいです」と答えた。

 ユリナ姫が微笑みながら

「今日の授業はこれで終わりです」

 と伝えると、優人は軽くうなずいて感謝を述べた。

「ありがとうございました。とても勉強になりました」

 一方、フィーナは背伸びをしながら

「ふぅ~、今日も疲れた!」

 と解放されてうれしそうな様子だった。

「この後はどうするんですか?」

 と優人が2人に尋ねると、ユリナ姫は少し困ったような表情で答えた。

「父上に呼ばれていますので、王のところへ行かないといけません」

 フィーナは腕を組みながら

「私は弟のアーシュと一緒に中庭を散歩する予定。病気は治ったけど、体力をつけさせないとね」

 と語る。それを聞いた優人は少し考えた後、

「それなら私も一緒に散歩させてもらっていいですか?」

 と提案した。フィーナはすぐに目を細めて笑みを浮かべいたずらっぽく言う。

「いいけど、姫がいない間に他の女と過ごすなんて浮気じゃないの?」

 優人はため息をつきながら返事を返す。

「くだらないこと言ってないで、さっさとアーシュ君を連れてきてください」

 そのやりとりに、ユリナ姫も思わずくすっと笑った。

「では、私はこれで失礼します。お散歩、楽しんでくださいね」

 と一礼し、ユリナ姫はその場を後にした。

「さて、アーシュを連れてくるから、優人は先に中庭で待ってて」

 とフィーナが言うと、優人は軽くうなずき、中庭へと向かった。


 優人が中庭に足を踏み入れると、目の前には色とりどりの花々が咲き誇る光景が広がっていた。鮮やかな赤、柔らかなピンク、深い紫、そして鮮烈な黄色の花が、風に揺れて一斉にささやくように咲いている。その中でも、中央に咲く純白の大輪のバラは特に目を引き、美しさと気品を象徴しているようだった。

 中庭は大きな円形をしており、左右対称に美しく整えられた花壇が広がる。芝生は深いエメラルドグリーンに輝き、足を踏み入れると柔らかな感触が伝わるほど手入れが行き届いている。花壇を囲むように敷かれた白い小石の小道は、足音を軽やかに響かせ、自然と庭の中心へと導いてくれる。

 中心には噴水があり、透き通った水が空中に舞い上がり、太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。水の流れる音が、庭全体に清涼感を与え、心地よい静けさをもたらしている。噴水の周囲には丸いベンチが設置され、そこには座りやすいクッションが置かれているのが見えた。

 中庭を取り囲むように植えられた木々は、緑の葉を茂らせ、その木陰は涼やかで、穏やかな風が通り抜けていた。木々の中にはオレンジ色の果実をつけた木もあり、そっと摘みたくなるような甘い香りが漂っていた。

 庭の隅々まで丁寧に手入れされており、花の間に雑草が生えている様子は全くない。近くを歩くと、花々の甘やかな香りがそっと鼻をくすぐり、自然と心が穏やかになる。優人はふと足を止め、静かに深呼吸をした。

 遠くの木立では、小鳥たちが楽しげにさえずり、時折羽ばたきながら枝から枝へと飛び移る姿が見える。その小さな生命たちが庭の平和をさらに引き立てているようだった。

 優人は庭を歩きながら、手入れを行った人々の努力と、この庭に込められた「癒し」の意図を感じ取っていた。「きれいな場所だな」とつぶやきながら、彼は噴水のそばに歩み寄り、水面に映る光のきらめきを眺めた。その静かなひとときが、まるで日常の喧騒から切り離された小さな楽園のようだった。

 フィーナとアーシュが来るのを待ちながら、優人はこの庭の美しさと平和さにしばらく見とれていた。

 優人が中庭で散歩の準備を整えながら待っていると、足音とともにフィーナとアーシュが姿を現した。フィーナがにっこりと笑いながら「お待たせ!」と言うと、後ろに控えていたアーシュが優人の前に立ち、少し緊張した様子で挨拶をした。

「優人さん、こんにちは」

 アーシュはフィーナより2歳年下の8歳で、少し幼さを残しながらも真面目そうな雰囲気を漂わせている。茶髪の短い髪は柔らかく、風になびいて光を反射している。町でよく見かけるような、飾り気のない素朴な服装をしている。少しくすんだクリーム色のシャツにブラウンのベストを重ね、濃い茶色のズボンを履いている。

「いつも姉がお世話になっています」

 とアーシュが丁寧に頭を下げると、フィーナが軽く頬を膨らませて

「私が優人の世話をしてるの!」

 とすぐに口を挟んだ。それを聞いたアーシュは、眉をひそめながら姉を見上げ、

「姉さん。優人さんは雇い主なんだから、呼び捨てにするのはよくないよ」

 と少し真剣な口調で注意した。その言葉にフィーナは「むっ」とした表情を浮かべつつ、

「そんなの優人が気にしてないってば!」

 と言い返すが、アーシュは再び優人の方に向き直り、深く頭を下げて

「姉がすみません。それと、自分も雇っていただいているのに、まだ病み上がりで何もできていなくて、本当に申し訳ありません」

 と続けた。アーシュの礼儀正しさに優人は少し驚いた表情を浮かべた後、やさしく微笑みながら

「フィーナの呼び方は本当に気にしてないし、アーシュ君も焦らなくていいですよ。元気になってから少しずつ手伝ってくれれば、それで十分ですよ」

 と言った。その言葉にアーシュは顔を上げ、真剣な目で優人を見ながら

「ありがとうございます」

 と深く感謝の意を述べた。

 フィーナは

「ほら、優人も気にしてないって言ってるでしょ!」

 と得意げに笑い、アーシュは少し困ったように

「姉さんは本当に……」

 とつぶやきつつも、どこか安心したような表情を浮かべた。そんな二人のやりとりに優人は思わず笑みをこぼし、中庭の散歩は穏やかな雰囲気で始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ