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モンティホールと塔への航路

モンティホール問題の「モンティ・ホール」とは人の名前です。しかも数学者などではなく、この問題が出されたアメリカのゲームショー番組の司会者の名前です。日本でいうのなら「タモリ問題」や「みのもんた問題」のように命名されたということですね。

朝、アルスタリア王国の港はまだ薄霧に包まれていた。冷たい海風が波間に細かく光る水滴を運び、船の帆を軽く揺らす。

優人は甲板に立ち、波の揺れに体を預けながら深く息を吸った。今日は特別な日だ。サウザリア王国へ向かい、大賢者の塔に挑む遠征の始まり。同行するのは、アルスタリア王国から自分とユリナ姫、麻美、そしてリベリオ帝国からエレノア姫とミレイの計5人だ。

「優人……!」

振り返ると、薄紅色の髪を風になびかせるフィーナが立っていた。その隣には小柄な少年、アーシュが少し緊張した面持ちで手を握っている。

優人は自然に微笑む。

「フィーナ、アーシュ……またしばらく留守を頼みますよ」

フィーナは少しうつむき、言葉を選ぶように小さく頷く。

「優人……無事に帰ってきなさいよ」

アーシュは短く会釈した後、勇気を振り絞るように声を上げた。

「僕も……数学、忘れないようにします!」

優人はポケットから小さな束のテキストを取り出し、二人に手渡す。

「これで練習を続けるんだ。私がいなくても、毎日少しずつ進めること。」

フィーナは目を潤ませながらも、わずかに微笑む。

「うん……わかった」

アーシュは受け取ったテキストをぎゅっと握りしめ、元気よく頷いた。

「わかりました!」

「二人とも、頑張ってください」

優人は軽く手を振る。フィーナもアーシュもそれに応える。

船がゆっくりと港を離れ、波が甲板に白いしぶきを上げる。

優人は仲間たちに振り返ると、自然な声で言った。

「さあ、出発ですね」


甲板に立つ5人は、波の揺れに少し体を揺らしながら、遠くに霞む港の街並みを見つめていた。冬の光が水面を赤く反射し、塔への道のりを照らす。

「……船の揺れ、ちょっと酔いそうです」

小さな声が聞こえる。ミレイだった。彼女は手すりにしがみつきながら、顔をわずかに青くしている。

優人は微笑み、手を差し伸べる。

「座って波を見ながら、ゆっくり呼吸すると少しは楽になるそうですよ」

麻美が小さく笑い、そっと彼女を支える。エレノアは冷静な目で周囲を見渡し、塔に挑む前の緊張を静めているようだった。

「移動中は暇だから少し講義をしようか」

その言葉を聞いた麻美は思わず呟いた。

「ミレイさん、具合悪くしているのに……鬼ですか?」

「まあまあ、参加できなそうだったら休んでもらっても大丈夫ですから」


モンティホール問題講座

「今日はモンティホール問題について考えていきます。これは人間の直感と数学的な確率が一致しない有名な例です。」

「まず、モンティホール問題というのは、三つの扉のうち一つに賞品があって、残り二つには何もないというゲームから始まるんだ」

優人は甲板に陶器で出来たコップを三つと小石を1つ並べ、他の4人に示す。

「コップを扉、小石を賞品だと思ってほしい。私が皆に分からないようにどれかに小石を隠します。全員、ちょっと後ろを向いてください」

そう言って優人はコップの1つに小石を隠す。

「こっちを向いていいですよ。じゃあユリナ、どれに小石が入っていると思うか選んでください」

ユリナ姫が最初に左のコップを指差す。

「じゃあ、私はこれにします……」

「選びましたね。さて、私が一つ、空の扉を開けます」

優人は残り二つのコップのうち、空の方を示す。エレノア姫もミレイも興味深そうに視線を向ける。

「ここで状況が変わりましたね。さてここで『選んだ扉を変えてもいいですが、どうしますか?』と私が問いかけます。このとき、選択を変えた方がいいのか変えない方がいいのか、それともどちらも変わらないのか?」

優人は問いかける。

エレノアは眉をひそめる。

「確率は……どうなるんだ?扉が2つになったので当たりの確率は1/2ずつになったということか」

ミレイも同意する。

「わ、私も直感的に1/2かなぁ……って思いました。」

ユリナ姫が困惑した様子で自分の考えを話す。

「でも、最初に私が扉を選んだときは当たる確率は1/3です。急に確率が1/2に増えるなんていうことがあるんでしょうか?」

優人はうなずく。

「そうですね。最初の状況ならば選んだ扉の当たりの確率は1/3ですね。扉が1つ減るということが、確率にどう作用するかということが重要ですね」

麻美は小さな声でつぶやく。

「どうすれば確認できるんだろう……」

「では、実験してみましょう」

優人はコップを三つ並べ、他の4人に選ばせて、「扉を変えたとき」と「扉を変えなかったとき」の実験を何度も試行する。結果、扉を変える方が勝率が高いことが示される。

「なるほど!実際にやってみると明らかに変えた方がいいってわかりますね!」

麻美が目を輝かせる。ミレイも少しずつ理解した表情を見せ、口元に小さな笑みが浮かぶ。

「そう。数学はこうやって実験で確認することもできます。あとは実験で分かったことを理論的、数学的にしていくんです」

その言葉を聞いて、エレノア姫が質問をする。

「今回の場合はどのように計算をすればよいのだ?」

エレノア姫の質問に嬉しそうに優人は言葉を返す。

「とてもいい質問ですね。今回の場合は『実験したそれぞれの場合に対して当たりになる条件を見つける』ことですね」

「当たりになる条件?」

ユリナ姫が思わず復唱した言葉に対し、優人はさらに答える。

「ええ、そうです。『扉を絶対に変えない人』と『扉を絶対に変える人』のそれぞれの当たりになる条件を探していきます。」

「簡単なのは『扉を絶対に変えない人』の条件ですね。ユリナ姫、扉を絶対に変えない人が当たりになるためには、最初に選ぶ扉はどうなればいいですか?」

優人の言葉を聞きながら、ユリナ姫は頭の中で状況を整理していく。

「最初に選ぶ扉ですか?『扉を絶対に変えない人』は最初に選んだ扉を変えないのだから、最初に選んだ扉が当たりである必要がある?」

「そうですね」

「……ということは、『扉を絶対に変えない人』が当たる確率は1/3?」

「正解です!さっき話の途中でもユリナ姫はそう言っていましたね。」

「では、次に『扉を絶対に変える人』が当たる確率について考えていきましょう。エレノア姫、この場合は最初に選ぶ扉の条件はどうなりますか?」

エレノアは1つずつ仮定していく。

「最初に当たりの扉を選んだとすると……片方のはずれの扉が開かれて……扉を変えると、もう1つのはずれになる。最初にはずれの扉を選んだとすると……もう片方のはずれの扉が開かれて……扉を変えると、当たりになる」

「いい考えですね」

「……となると、最初にはずれを選べば、扉を変えることで自動的に当たりになる。最初にはずれを選ぶ確率は2/3だから、答えは2/3か?」

「正解です!1つずつ仮定を検証していけば解ける問題というのもたくさんあります。大賢者の塔でもそういう問題に出会えるといいですね」


優人の目は遠くに見えてきた塔を見つめる。


サウザリア王国到着

夕暮れ時、船はついにサウザリア王国の港に着いた。冷たい海風に混じって、陸から塩の香りと、緊張感のある兵士たちの足音が漂う。

「エレノア様、ユリナ様、優人様、麻美様、ミレイ様。お待ちしておりました」

甲板に駆け寄ってきた兵士は、背筋をピンと伸ばし、敬礼する。

優人は軽く頭を下げ、船を降りる。波打ち際に立つ仲間たちの影が、長く港に伸びている。

「塔まで案内します。陸路は危険ですので、こちらから船着き場まで馬車を用意しております」

兵士の言葉に、ユリナはうなずき、ミレイは少し緊張した表情を見せる。

船から降り、甲板で学んだ確率の知識を胸に、5人は港を後にする。遠くに黒くそびえる塔の影が、赤く染まる夕陽に長く伸びていた。

道中の緊張感

港を離れると、道路は石畳が濡れ、淡い霧が街路灯の光をぼんやりと揺らす。塔はさらに遠く、黒くそびえる影が赤い夕陽に長く伸びていた。

「……あの塔、本当に高いですね……」

ミレイは手すりにしがみつきながら、震える声でつぶやく。

優人はうなずき、冷たい霧を吸い込む。

「塔は単なる建造物ではない。知の結晶だ。慎重に、だが恐れる必要はない」

エレノアは腕を組み、冷静な目で塔を見据えながら言葉を紡ぐ。麻美は軽くうなずき、足取りを確かめながら歩く。

街路を抜けるたび、警備兵の影が視界に入り、塔に近づくにつれ不気味な静けさが増していった。仲間たちの呼吸が、わずかに荒くなる。


夜になり、塔の近くに設置された仮設宿営地に到着。小さな焚き火が立ち、霧の中で炎の赤が揺れる。

仲間たちは毛布に身を包み、疲れた体を横たえる。

ミレイは焚き火を見つめながら、手を握りしめる。

「……大賢者の塔では、どんな問題が出てくるんでしょうね?」

小さく呟き、ミレイの影が揺れる。

エレノア姫がそれに答える。

「そうだな、扉の問題は『7つの問題』といわれている。第2問までは答えが分かっているが、あと5問あるわけだからな。優人殿はどんな問題が出るか想像がつくか?」

優人は火の光に照らされ、エレノア姫を見る。

「正直な話、全然想像がつきませんね。」

麻美は意外そうに問いかける。

「優人先生でも分からないんですか?いつもテストを作ったりしてるから予想問題とかは作れるんじゃないんですか?」

「普段の予想問題は範囲が分かっているから作れますが、塔の問題に関しては難しいですね。解いた2問だけ見ても、難易度が全然違うので……。」

それを聞いたユリナ姫は意外そうに優人に尋ねる。

「優人様はどちらもすぐに答えを出していましたが、そんなに難易度が違うのですか?」

「第1問に関しては、有名なタクシー数の問題だったので、答えを知っていただけですね。きちんと解こうと思ったら3次方程式や整数問題の知識が必要なので、結構大変な問題です。元の世界であれば大学入試レベルの問題ですね」

麻美は優人の言葉に対して、すぐにリアクションを返した。

「それは、私だと解けそうにないですね。私はガチガチの文系なので」

「白石先生の言う通り、私たちが元いた世界でも第1問は誰もが解ける問題という感じではありません。それに対して第2問は2乗して2になる数を答える問題でした。これは元の世界であれば中学3年生で解ける問題です。」

優人がそう答えると、ミレイがそれに反応する。

「そ、それだと……予想するのは難しそうですね」

「ええ、あまり難しい問題が出ないことを祈りましょう」

焚き火の音、遠くで波が崩れる音、夜風に混じる塔の影の不気味さ。仲間たちの心には緊張と期待、少しの不安が交錯していた。

優人は空を見上げる。星は雲に隠れ、塔の頂きは夜に溶け込むようだ。

「いよいよ明日ですね……」

心の中で静かに呟き、彼は目を閉じた。仲間たちの呼吸が揃い、夜は塔を前にして静かに流れていく。

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