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閑話1 数学の勉強をするアルスタリアの3人組(!とPとC)

数学の話を書きたいので、たまに閑話で書いてみることにしました。

 これは優人がリベリオ帝国に行っている間のアルスタリア王国の王城での話である。今日も今日とてユリナ姫、フィーナ、アーシュが数学の勉強をしています。



 王城の一角にある落ち着いた書室。その中央には、豪奢すぎずとも品のある木製の机が置かれ、そこに広げられたのは優人が残していった数学のテキストだった。机の上には整理された紙束、端にはインク壺と羽ペンが置かれ、暖かな陽の光が窓から差し込んでいる。

「ユリナ姫、優人さんがいなくなって、やはり寂しいのではありませんか?」

 アーシュが静かに尋ねる。彼は端正な顔立ちをした少年で、幼さを残しながらも真面目な瞳をしていた。その瞳が、目の前のユリナ姫を気遣うように揺れている。

 ユリナは微笑んだ。彼女の金色の髪が陽の光を受け、柔らかな輝きを放つ。

「確かに寂しくないと言ったら嘘になります。でも、優人様は今、やるべきことを果たすためにリベリオ帝国へ向かわれました。私もただ待つだけではなく、今できることを頑張らなくてはいけません。」

 彼女の声音は優しくも芯があり、その姿勢にアーシュは尊敬の念を抱いたようだった。

「ふぅん?」

 そんな二人のやりとりを聞きながら、フィーナがニヤリと口角を上げる。彼女は机に肘をつき、ユリナをからかうような目を向けた。

「でもさぁ、リベリオ帝国って、美人が多いんでしょ? もしかしたら、エレノア姫とか、他のキレイな人に囲まれて、優人が浮気しちゃったりしてね。」

 わざと茶化すような口調だったが、内心では優人がそんなことをするとは微塵も思っていない。ただ、ユリナ姫の反応を見たくて、ちょっとした悪戯心で言ってみたのだ。

 しかし、ユリナは少しも動じず、ただ穏やかに微笑んだ。そして、彼女の左手がそっと結婚指輪に触れる。その仕草は、まるでそこに込められた想いを確かめるかのようだった。

「優人様を信じています。」

 それだけを静かに告げた。その瞳には、確かな信頼と愛情が宿っている。その表情を見て、フィーナは「なーんだ、つまんないわね」と肩をすくめながらも、心の中でユリナの芯の強さを改めて感じた。

「さあ、そろそろ勉強を始めましょう。」

 ユリナが場を切り替えるように、机の上に広げられた優人のテキストへと視線を向けた。

 テキストは優人が作成したもので、単なる解法の羅列ではなく、一つのテーマごとに問題が組まれていた。「ルートの掛け算について」「分数という数字について」など、それぞれの概念を自分たちで考えながら学べる構成になっている。



 そして今日のテーマは──

「『!とCとP』について」

「!」の記号は、以前優人がノルディア連合のアルベルト王子に説明した「階乗」の記号だ。それに加えて、「C」と「P」という新たな記号もある。

「!の記号は知っているけれど、CとPってなんのことかしら?」

 ユリナが呟くと、アーシュがテキストをめくりながら答える。

「初めてみる記号ですね。今のところどう使う記号なのか見当もつきません。」

「ほぉ~、なんだか難しそうね。でも、優人の問題だから、きっとわかりやすいヒントがあるんじゃない?」

 フィーナが意欲的にテキストを覗き込む。確かに、優人が作る問題は、単に知識を問うだけではなく、考えながら理解できるようになっている。

「まずは一つ目の問題から解いてみましょう。」

 ユリナ姫、フィーナ、アーシュの三人は机に並んで、優人が作った数学のテキストを開きながら問題を解き進めていた。



 第一問:「3!」

「これは前に優人様に教えてもらいましたね。」

 ユリナ姫が穏やかに微笑みながら、さらりと答えた。

「3!は、3×2×1で……6ね!」

「そうですね。階乗の計算は、1からその数までを掛け算するのがルールですから。」

 アーシュも納得しながら頷いた。こういった問題は、もうすっかり慣れてきた。



 第二問:「ユリナ、フィーナ、アーシュの3人を1列に並べる時、並べ方は何通りあるか求めよ。」

 フィーナが腕を組み、ニヤリと笑った。

「こういうのは、地道に考えればわかるわね!」

 そう言って、彼女は一つずつ並べ方を書き出していく。

 ・ユリナが先頭の場合 → (ユリナ、フィーナ、アーシュ)、(ユリナ、アーシュ、フィーナ)

 ・フィーナが先頭の場合 → (フィーナ、ユリナ、アーシュ)、(フィーナ、アーシュ、ユリナ)

 ・アーシュが先頭の場合 → (アーシュ、ユリナ、フィーナ)、(アーシュ、フィーナ、ユリナ)

「ふふっ、ちゃんと数えたら6通りね。」

 フィーナが自信たっぷりに言うと、アーシュも納得した様子で「なるほど」と呟いた。

「じゃあ、これを数学システムに入力してみましょう。」

 ユリナ姫が数学システムを起動し、問題と答えを入力する。すると、空中にディスプレイが現れ、問題が表示された。数学システムでは、問題とその問題の正しい答えを入力した場合のみ問題が受理される仕組みになっている。

「やった、正解ね! じゃあ、次に進みましょ!」

 フィーナが勢いよく言うと、アーシュが次の問題を読み上げた。



 第三問:「4!」

「これは階乗の問題ですね。」

 アーシュはすぐに気づき、計算を始めた。

「4!は、4×3×2×1だから……24です。」

「順調ですね。」

 ユリナ姫は微笑みながら言った。

「でも、似たような問題が続いていますね。何か意味があるのでしょうか?」

「優人の問題って、いつも関連があるのよね。きっと、さっきの問題とつながっているんじゃない?」

 フィーナも頷きながら、次の問題に目を向けた。



 第四問:「優人、ユリナ、フィーナ、アーシュの4人を1列に並べる時、並べ方は何通りあるか求めよ。」

 ユリナ姫は問題を見て、すぐに気づいた。

「これはさっきの問題の人数が増えただけですね。」

「そうですね。でも、また地道に並べてみれば確かめられます。」

 アーシュがノートに書き始めようとすると、ユリナ姫があることに気づいた。

「ちょっと待ってください、アーシュくん。優人様を先頭に固定した場合、残りの三人を並べ替えることになりますよね?」

 フィーナは目を瞬かせた後、ポンと手を叩いた。

「そうか! 優人を先頭にすると、後ろの三人の並べ方は、さっきの問題と同じ6通りになるわけね!」

 アーシュも理解したように頷いた。

「つまり、先頭がユリナ姫の時も6通り、姉さんの時も6通り、僕の時も6通り……それを全部計算すると、6×4で24通りですね!」

 ユリナ姫は満足そうに微笑んだ。ユリナ姫は、問題を解き終えたノートを見ながら、ふと小さく呟いた。

「4!の答えと、4人を1列に並べる並べ方の答えが同じ……。」

 その言葉に、フィーナがすぐに反応する。

「そういえば、3人の時も3!と並べ方の答えが一緒だったわね。」

 アーシュも頷きながらノートを見返した。

「たしかに……これは偶然じゃなさそうですね。」

 3人は顔を見合わせながら、新たな問題へと視線を移した。



 第5問:「4人を1列に並べる計算は4!、つまり4×3×2×1で求めることができる。その理由を考えなさい。」

 その瞬間、3人は同時に「ああ、そういうことか」と納得したように声を漏らした。

「やっぱり、優人様は最初からここに誘導するつもりだったんですね。」

 ユリナ姫は小さく微笑みながら、問題の意図を理解したことに満足したようだった。

「まったく、いつものことながら、優人の問題って手が込んでるわよね。」

 フィーナは半ば呆れたように笑いながら、ノートを開き直す。

「今までも、こうやって"理由を考えさせる"問題が必ず出てきたわね。今回のテーマでいえば、これがその問題ってわけ。」

「確かに、理由を考える問題は毎回難しいです。」

 アーシュは少し緊張したように背筋を伸ばした。

 優人のテキストには、計算問題だけでなく、なぜそうなるのかを考えさせる問題が必ず含まれていた。ただ数字を操作するだけではなく、理論的な背景まで理解できるようにするための工夫なのだろう。

 しかし、この「理由を考える問題」は、普通の問題とは違って数学システムで正解かどうかをすぐに判定できない。数学システムは、計算の答えを入力すれば受理されるが、こうした論理を問う問題は正しい考え方を入力する仕組みになっていない。つまり、優人が帰ってくるまで答え合わせができないのだ。

「うーん、これはまた頭を使いそうね……。」

 フィーナが頬杖をつきながら、少し気合を入れるように背伸びをした。

「でも、ここでちゃんと考えれば、次に繋がる知識になるはずです。」

 ユリナ姫は穏やかに言いながら、ペンを手に取った。

「よし、頑張るわよ!」

 フィーナが気を取り直したように言うと、アーシュも「はい!」と返事をし、3人は本格的に考え始めた。


 ユリナ姫は、手元のノートを見つめながら静かに言った。

「まず、さっき私たちがした計算について、もう一度考えてみましょう。」

 その言葉に、フィーナとアーシュはすぐに顔を上げ、真剣な表情を見せる。

「さっき私たちは、4人を1列に並べるとき、先頭の人を固定して考えましたよね?」

「ええ、そうね。」

 フィーナが頷きながら返す。

「先頭の人を決めたら、残りのメンバーは3人だけだから、3人の並べ方の問題に変わる……つまり、3!を使うことができるんでしたよね?」

「はい。」

 アーシュも理解を示すように、小さく頷いた。

「その結果、先頭の人を決める4つのパターンと、残り3人の並べ方で、計算式は4×3!になった……ということですね?」

 ユリナ姫が確認すると、2人は「そうです」と声を揃える。

「そして、3!は3×2×1だから……4×3×2×1になって、結局4!と同じになったのですね。」

 ユリナ姫の説明に、アーシュは「確かに……!」と感心したような声を漏らした。

「この最初の『4』という数字は、先頭に並ぶ人を選ぶパターンが4つある、という意味だったんですね。」

「なるほど、計算の仕方はそういうことなんですね。」

 アーシュが納得したように言うと、フィーナが少し考え込みながら口を開いた。

「ねえ、ユリナ、アーシュ。このあとの『3』について、2番目に並ぶ人の数だと考えてみたらどうかしら?」

「どういうことですか?」

 ユリナ姫が首を傾げると、フィーナは少し得意げな表情を見せながら説明を始めた。

「4!を4×3!に分けるのもいいけど、そもそも並び方のパターンを『先頭に並ぶ人』『2番目に並ぶ人』『3番目に並ぶ人』『最後に並ぶ人』って順番に考えたら、4×3×2×1になるんじゃない?」

「それは……どういう意味でしょう?」

 アーシュがさらに問いかけると、フィーナは少し身を乗り出して説明を続けた。

「まず、先頭に並ぶ人は4人いるから4パターンあるわよね?」

「うん、それはわかる。」

 アーシュもユリナ姫も頷く。

「次に、2番目に並ぶ人を考えると、もう先頭の人が決まっているから、残り3人の中から選ばなきゃいけないわけ。だから、2番目に並ぶ人のパターンは3通りあるの。」

「あっ……!」

 ユリナ姫が何かに気づいたように目を輝かせる。

「ということは、先頭の人と2番目の人まで決めた時点で、4×3=12通りになるってことですね!」

「そういうこと!」

 フィーナが得意げに笑う。

「そして、3番目に並ぶ人を考えると、すでに2人が並んでるから、残りは2人。だから2通りしかないわね。」

「最後に並ぶ人は……残った1人だから、1通りしかない……!」

 アーシュがすっかり感激したように声を上げた。

「そういうこと!」

 フィーナは満足そうに腕を組んだ。

「だから、4人を1列に並べるパターンは、4×3×2×1=4!で求められるってことなのよ。」

「すごい……!」

 ユリナ姫は感嘆の声を漏らした。

「フィーナ、すごく分かりやすかったです。」

「本当です、すごく納得しました!」

 アーシュも感激したように頷いた。

「でしょ?」

 フィーナは得意げに微笑んでから、軽く肩をすくめた。

「でも、これも優人が誘導してくれたから気づけたのよね。」

「ええ、きっと優人様は、こうやって一歩ずつ考えさせるように問題を作ったんですね。」

 ユリナ姫はしみじみとそう言うと、再びノートを開き、感慨深げにペンを握った。

 ユリナ姫は、目を輝かせながらペンを走らせ、さらなる法則に気が付いたようだった。

「そうすると……5人を1列に並べる場合も、先頭は5パターン、2番目に並ぶ人は4パターン……と考えられるのですね!」

 声に弾んだ調子が混じる。次々とつながっていく概念に、知識が深まる喜びを感じているのだろう。

「つまり、5!=5×4×3×2×1で計算できるんですね!」

「でも……」

 アーシュがノートを覗き込みながら、少し困ったように呟いた。

「全部掛け算だから、計算が大変ですね。」

 確かに、暗算では少し骨が折れそうだった。

「ふふっ、大丈夫よ、アーシュ。」

 フィーナが軽く笑って、ペンを回しながら言った。

「優人に筆算を教えてもらったんだから、ここでしっかり練習しておきましょう!」

「そうですね!」

 ユリナ姫もうなずき、3人は紙に計算を書き始めた。

 まず、5×4=20。

 次に、20×3=60。

 そして、60×2=120。

 最後に、120×1=120。

「……答えは120」

 アーシュが嬉しそうに答えを読み上げると、フィーナが満足げに頷いた。

「うん、間違いないわね。」

 ユリナ姫も微笑みながら、筆算の数字を眺める。そして、ふと指先でノートの端をなぞりながら、思索するように口を開いた。

「こうして考えると、『!』という記号は、ただ単に掛け算をする記号というだけではなくて……何かを順番に並べるときの計算に使われる記号ということですね。」

 彼女の言葉に、アーシュとフィーナもうなずいた。優人のテキストを解き進めるたびに、新しい発見がある。まるで、目の前の霧が少しずつ晴れていくような感覚だった。

 そして次の問題へと視線を移す。

「次は……『CとPについて』ですね。」

 ユリナ姫がノートを見ながら呟いたその瞬間、フィーナが両手を伸ばして背伸びをしながら、少し茶目っ気のある口調で言った。

「ちょっと休憩しましょ! さすがにずっと数字とにらめっこしてたら頭がパンクしちゃうわ。」

 アーシュも「確かに……」と小さく笑いながら頷く。

「そうですね。」

 ユリナ姫も、穏やかな笑みを浮かべながら同意した。

「ちょっと休憩しましょうか。」

 こうして、3人は一度手を止め、お茶を飲みながら少し気を緩めることにしたのだった。



 ユリナ姫、フィーナ、アーシュの3人は丸机を囲んで一息ついていた。テーブルの上には、湯気の立つお茶と、ほのかに甘い香りを漂わせる小さな焼き菓子が並べられている。

 フィーナがカップを手に取り、一口含むと満足そうに息をついた。

「はぁ~、やっぱりお茶の時間は大事ね。頭を使った後の甘いものって、なんでこんなに美味しいのかしら。」

「ふふ、そうですね。」

 ユリナ姫も、優雅にカップを持ち上げながら微笑む。その様子を見ながら、アーシュがぽつりと呟いた。

「……優人さん、今頃どうしているのでしょう。」

 その言葉に、フィーナもユリナ姫も顔を上げる。自然と話題は、遠くリベリオ帝国へと旅立った優人のことになっていた。

「優人様のことだから、きっと向こうでも真面目に数学の研究をしているでしょうね。」

 ユリナ姫は、カップの縁にそっと指を滑らせながら穏やかに語った。

「リベリオ帝国の数学研究所の人たちと話し合いながら、新しい数学の概念について議論しているかもしれません。優人様は、知識を共有することに喜びを感じる方ですから……帝国の学者の方々にも、いろいろなことを教えているのではないでしょうか。」

「ありそうね~。」

 フィーナがくすりと笑いながら、焼き菓子をひとかじりする。

「でも、そのせいで変に目をつけられてなきゃいいんだけど……優人って、本人は気にしてないけど、やっぱりすごいことをさらっと言ったりするじゃない? 向こうの偉い人たちが『こいつは危険だ』とか思ってなきゃいいんだけどね~。」

「確かに……。」

 アーシュが少し考え込むように頷く。

「でも、優人さんはそういうことにも気づいていそうな気がします。向こうでもきっと、慎重に動いているはずです。」

「そうねぇ。優人って意外とそういう勘は鋭いものね。」

 フィーナは頬杖をつきながら、遠くを見るような目をした。

「……それにしても、女の人には囲まれてないかしら?」

 唐突にそんなことを言い出すと、アーシュが少し困ったように苦笑する。

「姉さん……またその話ですか?」

「でもさぁ、優人が興味無かったとしてもリベリオ帝国の姫様とか貴族のご令嬢とか、きっと優人に興味津々だと思うのよねぇ。だって頭が良くて、冷静で、しかもそこそこ格好いいし?」

「優人様は素敵な方ですからね。」

 ユリナ姫は静かに言いながら、左手の薬指に光る指輪をそっと撫でた。その仕草に、フィーナとアーシュは微笑み合う。

「ユリナ姫のこと、すごく大事にしてるから、そういう話も一蹴してそうね。」

「優人様は、やるべきことを果たしに行っただけです。だから私は、こうしてこちらでできることを頑張ります。」

 ユリナ姫の言葉に、アーシュとフィーナも真剣な表情で頷いた。

「うん、優人さんが戻ってきた時に、『僕たちも頑張りました!』って胸を張って言えるようにしなきゃですね!」

「そうそう! そのためにも、休憩が終わったらまた数学、頑張らなきゃね!」

 フィーナが笑いながらお茶を飲み干し、アーシュもそれに続く。ユリナ姫は二人を見つめながら、小さく微笑んだ。

 ――優人様が無事に帰ってくる日まで、自分にできることを全うしよう。

 そんな思いを胸に、3人はもう一度、数学のテキストへと向かうのだった。

 休憩を終えたユリナ姫、フィーナ、アーシュの三人は、再び数学の問題に取り組むためにテキストを開いた。お茶とお菓子でリフレッシュしたおかげか、皆の表情にはやる気が満ちている。

「さて、それじゃあ次の問題に取り掛かりましょうか。」

 ユリナ姫がそう声をかけると、アーシュとフィーナも頷き、第6問へと視線を移した。



 第6問:「優人、ユリナ、フィーナ、アーシュの4人から2人を選び、順に並べる時、並べ方は何通りあるか。」

「まずは2人を選ぶパターンを考えればいいのかな?」

 アーシュが少し考え込みながら言うと、フィーナがすぐに反応した。

「さっきと同じように、先頭の人を固定して考えれば分かりやすいんじゃない?」

「確かに、優人様の今までの問題の出し方を考えると、前の問題の考え方を使うことが多かったですからね。それなら今回も、先頭を固定して考えてみましょう。」

 ユリナ姫の言葉を受け、アーシュが先頭の人を固定した場合の組み合わせを順に書き出していく。

「まず、先頭が優人さんの場合は……(優人、ユリナ)、(優人、フィーナ)、(優人、アーシュ)の3パターン。」

 さらに、先頭をユリナ姫に固定した場合、フィーナに固定した場合、アーシュに固定した場合も、それぞれ3パターンずつあることがわかった。

「つまり、3パターン×4人分で、全部で12通りですね!」

 アーシュがそう言い切ると、フィーナが満足そうに頷いた。

「うん、これなら間違いなさそうね!」

 続いて、第7問へと進む。



 第7問:「優人、ユリナ、フィーナ、アーシュ、麻美の5人から2人を選び、順に並べる時、並べ方は何通りあるか。」

「さっきの問題でも思ったんだけど、この問題も先頭に並ぶ人と2番目に並ぶ人を考えれば、第5問と同じように考えられるんじゃない?」

 フィーナがそう言うと、ユリナ姫とアーシュが興味深そうに耳を傾ける。

「つまり、先頭に並べる人は5人のうち誰かだから5パターン、2番目に並ぶ人は、先頭に並んだ人以外の4人だから4パターンある。これを掛け合わせて、5×4=20通りでいいんじゃないかしら?」

「なるほど……実際に全部のパターンを書き出して試してみましょう。」

 3人で丁寧に組み合わせを挙げていくと、確かに20通りの並べ方があることが確認できた。

「フィーナの考え方で問題なさそうですね!」

 ユリナ姫が納得した様子で微笑む。

「ふふん、やっぱりね!」

 フィーナが得意げに胸を張ると、アーシュが笑いながら「すごいですね」と感心したように言った。

 次に進んだ第8問は、見慣れない記号を含んだ問題だった。



 第8問:「5P3の値を求めよ。ただし、Pの左の5は全部で5つのものがあるということを意味し、Pの右の3は全部の中から3つを選ぶということを意味し、Pは順番に並べるということを意味している。」

「つまり……5人から3人を選んで順番に並べるという問題ですね。」

 ユリナ姫が静かに問題を読み上げると、アーシュがすぐに反応する。

「それなら、さっきまでと同じように考えればいいですね。先頭に並ぶことができるのは5人だから5パターン、2番目に並ぶことができるのは4パターン、最後に並ぶことができるのは3パターン……だから、5×4×3=60ですね!」

 答えが出たところで、3人は数学システムを起動し、問題と答えを打ち込んで確認する。

「……問題、受理されたわ!」

 フィーナがシステムの画面を覗き込みながら言うと、ユリナ姫とアーシュも安心したように頷いた。

 その後、次のページを開いてみると、そこには優人からのメッセージが記されていた。

『記号Pとは順列の記号を意味している。順列とは「順番をつけて列に並べる」ことである。私と白石先生がいた世界の言葉で「permutation」という英単語から記号Pで表される。permutationとはそのまま「順列」を意味する単語である。数学的にはnPrで表され、その計算式はn! ÷ (n - r)! という式で求めることができる。』

「へぇ……!」

 ユリナ姫の瞳が輝く。優人のいた世界では、このような記号が既に存在し、広く使われていたのだ。新しい概念を知ることができた喜びで、ユリナ姫は自然と口元が綻んだ。

「順列という並べ方を計算するための記号があるなんて、面白いですね。」

「n! を (n-r)! で割る計算式……なるほど、これまでやってきた方法とも一致しているわね。」

 フィーナも興味深そうに頷き、アーシュも納得したように「すごいなぁ」と感心する。

「優人様の世界には、まだまだ私たちが知らない数学の知識がたくさんありそうですね……。」

 ユリナ姫がそう呟くと、フィーナとアーシュも笑顔で頷いた。

「よし、次の問題も頑張りましょう!」

 新しい知識を得た喜びを胸に、3人は次の問題へと進んでいくのだった。



 第9問のページを開いたユリナ姫、フィーナ、アーシュの三人は、問題文を読み上げながら、さっそく考えを巡らせた。

「優人、ユリナ、フィーナ、アーシュ、麻美の5人から3人を選ぶ時、選び方は何通りあるか求めよ。今回は順番に並べる必要はない。」

「今回は順番を気にしなくていいんですね。」

 ユリナ姫が静かに呟く。これまで解いてきた問題とは違うポイントがあることに、三人はすぐに気づいた。

「順番を並べなくていいってことは……どこが変わるんだろう?」

 アーシュが首を傾げると、フィーナが考え込んだ。

「さっきの問題だと、先頭の人を決めて、その次、その次……って考えたけど、それをしなくていいってことよね?」

「うーん、でも3人を選ぶこと自体は同じだから、やっぱり5×4×3で60通りじゃないですか?」

 アーシュは先ほどの流れをそのまま適用しようとするが、ユリナ姫が少し考え込んでから首を振った。

「それだと、さっきの8問目と同じになってしまいますね。でも今回は『並べる』必要がないんですよ?」

「……確かに。でも、3人を選ぶんだから、やっぱり5人の中から3人を選んで、順番に考えれば……」

「ちょっと待って!」

 フィーナが急に声を上げた。

「たとえば、『優人、ユリナ、フィーナ』と選んだ場合を考えてみて! もし並べる必要があるなら、『優人、ユリナ、フィーナ』『優人、フィーナ、ユリナ』『ユリナ、優人、フィーナ』みたいに、同じ3人の組み合わせでもいろんなパターンが出てくるわよね?」

「うん、それはさっきまでやってた順列の考え方だよね?」

 アーシュはフィーナの言葉を理解しながらも、まだ納得しきれていない様子だった。

「でも、今回の問題では『順番を気にしなくていい』ってことだから、今言った3つの並び方は全部同じ1つの組み合わせってことにならない?」

 ユリナ姫がそう言いながら、紙に「優人、ユリナ、フィーナ」「ユリナ、優人、フィーナ」「フィーナ、ユリナ、優人」などのパターンを書き出し、丸をつけていく。

「なるほど……つまり、3人を選んだ後の並び順の違いは、今回は考えなくていいってことか!」

「そういうこと! じゃあ、さっきまでとの違いは、『同じ3人の組み合わせで並び替えたものは、1つとして数える』っていう点ね。」

「ってことは、さっきみたいに5×4×3で求めた数を、その余分な並び方の分だけ割らないといけないのか……?」

 アーシュの言葉に、ユリナ姫が頷く。

「ええ、3人を並べる場合、さっきまでの計算では3×2×1=6通りずつ数えちゃっていますよね? だから、さっきまでの60通りを6で割れば……」

「60 ÷ 6 = 10! つまり10通りってことか!」

「うん! これが『組み合わせ』って考え方になるのね。」

 フィーナが嬉しそうに頷くと、アーシュも納得したように手を打った。

「今までと違うのは、並び順を気にしないから、重複しているものを取り除く必要があるってことだったんですね。」

「ええ、それが組み合わせの考え方ですね。ここまで来ると、順列と組み合わせの違いも分かりやすくなってきました!」

 三人は改めて答えを整理し、数学システムに入力した。しばらくして、画面には「正解」の文字が表示される。

「やったー!」

 アーシュが嬉しそうに拳を握ると、フィーナも満足そうに微笑んだ。ユリナ姫も新しい考え方を理解できたことに、静かな喜びを感じていた。

「組み合わせの考え方が分かってきたから、次の問題もスムーズにいけそうですね。」

「そうね! 優人も、また面白い問題を用意してくれているかもしれないし!」

 三人は新しい知識を胸に、次の問題へと進んでいった。

 3人は、先ほどの問題を解き終え、組み合わせの考え方を理解したものの、なんとなく「順列よりも難しく感じる」と話し合っていた。

「並べなくていい分、楽になるかと思ったけど……」

 アーシュが腕を組んで唸る。

「でも、実際に考えてみると、順番を考えない分、間違えないようにするのが難しくなった気がするわ。」

 フィーナも同意するように頷いた。

「ええ。順列のときは、最初に誰が来て、次に誰が来て……って順番を考えればよかったけど、組み合わせは順番を気にしなくていいから、その分、違いを意識しないといけなくなりますね。」

 ユリナ姫が静かにまとめると、2人も納得した様子だった。



 そして、3人は次の問題、第10問に目を移した。

「6C4と6C2の値をそれぞれ求めなさい。」

 問題文を読み進めると、「C」の意味についても説明が添えられていた。

「Cの左の数字6は全部で6つのものがあることを表し、Cの右の数字4はその中から4つを選ぶことを表す。つまり、6C4は6人の中から4人を選ぶ組み合わせの数を求めることと同じである。」

「なるほど、さっきの問題と同じ考え方ですね!」

 ユリナ姫はすぐにそう気づくと、3人は前回の方法を応用して6C4を求めることにした。

「まずは、6人から4人を選んで並べると考えればいいんだよね?」

 アーシュが確認すると、フィーナが頷きながら計算を始める。

「そうね、まずは順列と同じように、6×5×4×3で計算すると……」

「360通り!」

 ユリナ姫が計算結果を読み上げた。

「でも、それだと選んだ4人の並べ方も考えてしまっているのよね?」

「そうですね。4人を選んだ後、その並び方は4×3×2×1=24通りあります。」

「つまり、360通りの中には、同じ4人の組み合わせが24回ずつ数えられているってことか。」

 アーシュは紙に計算を書きながら、360を24で割った。

「360 ÷ 24 = 15」

「ってことは、答えは15ですね!」

 フィーナが嬉しそうに頷いた。

「じゃあ、6C2も同じようにやればいいんじゃない?」

 アーシュが次の計算に取りかかると、ユリナ姫とフィーナも手を動かし始める。

「6人から2人を選んで並べる場合は、6×5=30通りですね。」

「でも、2人を選んだ場合、その並べ方は2×1=2通りあるから……」

「30 ÷ 2 = 15通り」

 ユリナ姫が計算結果を確認し、3人は同じ答えに辿り着いた。

「どちらも15通りになる……?」

 フィーナが目を丸くする。

「偶然じゃないですよね?」

 アーシュも不思議そうに呟く。

「きっと、優人がこの問題を用意したのには理由があるはず……」

 ページをめくると、次に現れたのは「記号C」についての説明だった。

『記号Cとは組み合わせの記号を意味している。組み合わせとは「全体の中からいくつかを選び出す」ことである。私と白石先生がいた世界の言葉で「combination」という英単語から記号Cで表される。combinationとはそのまま「組み合わせ」を意味する単語である。数学的にはnCrで表され、その計算式はnPr ÷ r! という式で求めることができる。』

「順列の次は組み合わせの記号かあ、優人たちの世界は学ぶことが多いのね」

 フィーナが感心したように呟く。

「でも、このようにいろいろなことを学べるから優人様は数学に対する造詣が深くなっていったんでしょうね」

「優人さんは単純に数学好きなだけの気もしますが……」

 アーシュがユリナ姫の発言に続けて呟いた。

 そんなことを話しているうちに、ページの最後に新たな問題が記されていることに気づいた。



 第11問はまた理由を問う問題だった。

「6C4と6C2の答えが一致する理由を考えなさい。または、6C1と6C5の答えが一致する理由でも構わない。」

 ユリナ姫、フィーナ、アーシュの三人は机を囲み、優人が残した数学の問題に取り組んでいた。

 机の中央に開かれたノートには、次の問題が書かれている。

「6C4と6C2の答えが一致する理由を考えなさい。」

「さっきの問題で計算したから、同じ数になるのは分かるけど……どうしてそうなるのかって言われると、ちょっと考えないといけないね。」

 フィーナが腕を組む。

「そもそも6C4と6C2って、それぞれ何を意味してるか考えてみませんか?」

 ユリナ姫が整理するように問いかけた。

「6C4は、6人の中から4人を選ぶ方法の数。」

 アーシュが指を折りながら言う。

「6C2は、6人の中から2人を選ぶ方法の数。」

 フィーナも続ける。

「4人を選ぶ方法と、2人を選ぶ方法が同じになる……どういうこと何でしょう?」

 ユリナ姫がノートに向かい、しばらく考え込んだ。

 ——どうして4人選ぶ方法と、2人選ぶ方法が同じ数になるのか。

「ねえ、ちょっと試しに具体的に考えてみようよ。」

 フィーナが提案した。

「例えば、6人をA, B, C, D, E, Fの6人だとするよね。この中から4人を選ぶ場合を考えると……」

 フィーナはノートに例を書き出した。

 ・A, B, C, D

 ・A, B, C, E

 ・A, B, C, F

 ・A, B, D, E

 ・A, B, D, F

(中略)

「こうやって組み合わせを全部数えたら15通りあるはず。」

「うん、じゃあ2人を選ぶ場合は?」アーシュが続きを考える。

「6人の中から2人を選ぶ……えっと、例えばAとBを選ぶとしたら?」

「待ってください。それってつまり、選ばなかった4人がいるってことですよね?」

 ユリナ姫がふと顔を上げた。

 フィーナとアーシュもハッとする。

「……あっ!」

「そうか!」

「4人を選ぶ方法って、裏を返せば、選ばれなかった2人を選ぶ方法と同じになる!」

「だから、6C4と6C2は同じ数になるんだ!」

 三人は顔を見合わせ、納得したように微笑んだ。

「そうだね。選ぶのではなく、選ばないものに着目することで、同じ数になることが分かる。」

 フィーナが頷く。

「なるほどなあ……。数学って、こうやっていろんな角度から見ると面白いね。」

 アーシュが感心したように言った。

 優人が仕掛けた「考えさせる問題」によって、三人はまた一つ、数学の奥深さに触れたのだった。

「同じように、6人の中から1人を選ぶのは、裏を返せば選ばない5人を決めるのと同じだから……6C1=6C5になるんですね。」

「こういうことを意識すると、組み合わせの問題も丸暗記せずに理解できるんだな。」

 アーシュは納得したように頷きながら、感心した様子でノートにメモを取る。

「答えや計算方法の丸暗記じゃなくて、自分で考えることが大事なんだ。」

 優人がこの問題を通じて伝えたかったことが、3人にははっきりとわかった。

「優人さんらしいですね。」

 ユリナ姫がふっと微笑むと、フィーナとアーシュも同じように笑った。

 問題を解くだけでなく、考えることそのものを楽しむ——

 優人が残した問いには、そんなメッセージが込められていたのだった。

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