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宣戦布告と「1からnまでの和」

 授業が終わり、部屋にほっとした空気が流れ始めた頃、突然一人の侍従が部屋の扉を軽くノックして入ってきた。整った制服に身を包んだ侍従は、背筋を正しながら深々と頭を下げ、淡々とした口調で伝えた。

「ユリナ姫、優人様、アルベルト王子。アルスタリア王からお話があるとのことで、謁見の間へお越しいただけますでしょうか。」

 その言葉を聞いた瞬間、部屋の中に緊張が走った。ユリナ姫が座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、侍従に向かって問いかけた。

「父上が……話ですか?何か急なご用件でしょうか?」

 侍従は眉ひとつ動かさず、簡潔に答えた。

「詳細は存じ上げません。ただ、急ぎお伝えするよう仰せつかりました。」

「わかりました。」

 ユリナ姫は小さく息をつきながら返事をし、隣にいた優人に視線を向けた。彼もまた、侍従からの言葉の意味を考えながら、真剣な表情で頷いた。

「行こう、ユリナ。」

 アルベルト王子は腕を組みながら立ち上がり静かに言葉を漏らした。

「アルスタリア王が直々に話をされるということは、よほど重要な事態だろうな。」

 その声には王族としての責任感が滲んでいる。

 三人は侍従の案内に従いながら、王宮の廊下を歩き始めた。優人の心の中では、どんな内容が待ち受けているのかという不安と緊張が膨らんでいた。隣を歩くユリナ姫の横顔を盗み見ると、彼女の表情もどこか曇っているようだったが、内に秘めた強さも感じられた。

 廊下には高い窓から差し込む柔らかな夕陽が光を落とし、壁に影を作っている。その静けさがかえって三人の胸のざわめきを際立たせていた。足音が響くたびに、謁見の間で待つアルスタリア王が何を語るのか、その想像が緊張の糸をさらに張り詰めさせる。

「もしジーランドのことだったら……」

 ユリナ姫がぽつりと呟くと、アルベルト王子が鋭い声で応じた。

「その可能性が高い。王が急ぎ呼ばれるほどのことだ。だが、状況が何であれ、僕たちは対応しなくてはならない。」

 優人はその言葉に軽く頷きながらも、王の話を前に、自分に何ができるのかを考えずにはいられなかった。

 そして、重厚な扉の前に立ったとき、侍従が礼儀正しく一礼しながら扉を開け放った。そこには堂々とした姿で玉座に座るアルスタリア王が、静かに三人を迎えていた。

 謁見の間は厳かな空気に包まれていた。高い天井に響く足音を伴い、優人、ユリナ姫、アルベルト王子の三人がゆっくりと進み、玉座の前で立ち止まる。堂々たる佇まいのアルスタリア王が、冷静な表情で彼らを迎えていた。

「急に呼びつけてしまい、申し訳ない。」

 王は深い声で語り、軽く頭を下げる。その仕草に普段の威厳を崩さない王の人柄がうかがえた。

「お気になさらないでください、父上。」

 ユリナ姫が柔らかい微笑みを浮かべながら言う。

「それよりも、何か大事な話があるのでは?」

 彼女の言葉に続いて、アルベルト王子は少し身を乗り出すようにしながら尋ねた。

「もしかして、ジーランドに何か動きがあったのですか?」

 王はその問いに深く頷いた。その表情は、いつになく重々しい。

「その通りだ。ジーランドが北のノルディア連合国の代表として、我がアルスタリア王国に対して数学勝負を申し込んできた。」

 その言葉を聞いた瞬間、謁見の間の空気が張り詰めた。アルベルト王子は驚きの声を上げた。

「何ですって!?数学勝負ですって?」

 彼の顔には信じられないという感情がはっきりと表れている。

 アルスタリア王は静かに頷き、続けた。

「北のノルディア連合国がもし我が王国を併合するようなことがあれば、領土的にも経済的にも大きすぎる国家となりすぎる。そうなれば、他の大国が強く干渉してくるのは目に見えている。」

「それでも、ジーランドは挑んでくるのですか……?」

 優人が静かに問いかけた。その声には困惑と警戒の色が混ざっていた。

「そのようだ。」

 王は深く息をつきながら答えた。

「この大陸には中央に位置する強大な国があるが、それ以外の四国も決してその力に劣るものではない。だが、どこか一国が突然強大になれば、他の国々はそれを脅威とみなし、何らかの干渉をしてくるだろう。にもかかわらず、ジーランドがこのような挑戦をしてくるのは、自分たちがどんな相手であっても数学勝負で勝てると確信しているからだろう。」

 王の言葉に謁見の間は再び沈黙に包まれた。ユリナ姫は複雑そうな表情を浮かべながら、静かに口を開いた。

「ジーランドの自信の裏には、一体どのような策略が隠されているのでしょうか……。」

 アルベルト王子は拳を握りしめ、険しい顔つきで言った。

「大陸全土に対する宣戦布告も同然です。数学勝負で敗北すれば、国の誇りも、未来も奪われてしまう……絶対に負けるわけにはいきません!」

 謁見の間の空気は、アルベルト王子の鋭い声が響くとともにさらに重くなった。

「……ようやく分かった。ジーランドがなぜ北の連合国のトップの座を求めたのか。」

 その言葉に、ユリナ姫も優人も一瞬息をのんだ。優人は、

「その理由というのは、一体?」

 と、すぐに問いかけた。

 アルベルト王子は一度目を閉じ、考えを整理するように短く息をついてから話し始めた。

「大国同士の数学勝負には、厳格な制度が存在している。これは王と姫はすでに知っていることですが――その国のトップである盟主国だけが、他国に勝負を申し込むことが許されるんだ。」

 優人は少し首をかしげ、「盟主国だけですか?」と尋ねた。

 アルベルト王子は頷き、言葉を続けた。「そうだ。この制度が設けられた理由は、一個人が勝手に国相手に数学勝負を仕掛けることを防ぐためだ。例えば、優人殿のような優秀な人間を秘密裏に送り込んで、いきなり数学勝負で国を乗っ取る――この取り決めがなければそんなことが可能になってしまう。」

 その言葉に優人は思わず小さく息を呑んだ。自分を例に出されたこともあるが、その可能性が現実味を帯びて聞こえたからだ。アルベルト王子の声は冷静だったが、そこには深い洞察と警戒が込められていた。

「さらに、盟主国を勝手に名乗り、他国へ勝負を仕掛けるのを防ぐためでもある。盟主国であることを証明できない場合、相手国は数学勝負を断る権利を持つ。これは大国間の取り決めだ。」

 優人は静かに頷きながら考えを巡らせた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「なるほど……それでジーランドはまずノルディアを併合し、北の連合国の盟主としての地位を確立した。その状態で西にいるアルスタリア王国に勝負を仕掛けてきた、というわけですね。」

 その言葉にアルベルト王子が再び頷く。

「そういうことだ。」

 しかし、ユリナ姫は納得しきれない様子で首をかしげた。

「でも……どうして、こんなに急にアルスタリア王国を併合しようとしているのでしょう?ノルディア連合を手中に収めた目的が、他の大国に勝負を仕掛けるためだというのは分かりました。でも、我が国を狙う理由が読めません。」

 彼女の瞳には、真剣な思索の色が宿っていた。

 優人はその言葉を受けて、王とユリナ姫を見ながら問いかけた。

「アルスタリア王国にしかないもの――何か特別な価値を持つものはないのですか?」

 ユリナ姫は少し考え込んだが、首を振った。

「我が国だけにあると言えるもの……特には思い浮かびません。」

 その言葉を聞きながら、優人はさらに思索を深めた。謎はまだ解けないままだが、ジーランドの行動には何かしらの強い理由があるはずだった。そして、その答えが見つからなければ、アルスタリア王国が今後直面する危機を正確に予測することはできない。

 アルスタリア王は厳かな口調で、目の前に並ぶ3人に向けて話し始めた。

「実は明日、ジーランドから使者が来る予定だ。目的は、数学勝負のルールを確認するためだ」

 と静かながらも重みのある声で告げた。その一言で、謁見の間の空気が一層張り詰めた。

「優人殿にも同席していただきたいと思っている。」

 王の視線が優人に向けられると、彼は少し背筋を伸ばし、しっかりとした声で「もちろんです」と答えた。その目には、事態の重大さを理解した上での決意が宿っていた。

「明日の対応についてだが、基本的には私、ユリナ、そして優人殿の3人で話を進めるつもりだ。」

 そう言いながら王は、ユリナ姫に視線を向けた。彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに頷き、

「わかりました、お父様」

 と柔らかな声で返答した。その表情には覚悟が滲んでいた。王は続けて、

「ジーランドの使者と対外的な交渉ごとを行うのは、アルスタリアの人間であるべきだろう」

 と言い切った。そして、アルベルト王子を見つめながらこう告げた。

「アルベルト、君には同席してもらうが、発言権は私たちに任せてほしい。」

 その言葉に、アルベルト王子の表情が一瞬曇った。

「……承知しました、陛下。ただ、正直に言えば、悔しいです」

 と彼は率直に感情を吐露した。しかし、その瞳には諦めではなく、むしろ自分を奮い立たせるような意志が宿っている。

「けれど、今はアルスタリアのために従います。」

 王はその言葉に頷いた。その態度には旧知の仲としての温かみと、王としての厳しさが同居していた。

 優人はアルベルトの言葉を聞き、彼が内心どれほどの葛藤を抱えているかを察していた。そして心の中で、この場で果たすべき自分の責任の重さを改めて感じた。

 アルスタリア王は深く頷き、慎重に言葉を選びながら話し始めた。

「ジーランドとの数学勝負に出る者だが……優人殿、あなたにお願いしたい。」

 その言葉には信頼と期待が込められており、謁見の間の空気が一瞬で引き締まるようだった。

 優人は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに真剣な面持ちで王を見つめ、

「お任せください」

 と静かに答えた。その言葉には、自分の役割を全うする覚悟がはっきりと感じられた。

 そのとき、ユリナ姫が興味深そうに声を上げた。

「優人様、どのような問題を出すつもりですか?」

 彼女の大きな瞳は期待と不安の入り混じった光を帯びていた。続けて彼女は少し考え込むように視線を落とし、再び口を開いた。

「もし相手が優人様と同じ異世界の方なら、優人様と同じように問題に答えられるのではありませんか?そうなると、引き分けになってしまう可能性もあるのでは……?」

 その言葉には、優人への信頼とともに、勝利への不安が滲んでいた。

 優人は少し微笑み、冷静な声で答えた。

「確かに、相手が私と同じ世界の出身者であるなら、その可能性はあるかもしれません。しかし、もし転移に巻き込まれたのが私の知っている先生だった場合、勝つ方法はあると思います。」

「どういうことですか?」

 と、アルベルト王子が身を乗り出して尋ねた。その表情には驚きと興味が浮かんでいる。優人は説明を始めた。

「私の世界では、学校で何年間も数学を学ぶのが普通です。そのため、基本的にこの世界の人たちより数学の知識は多いんです。ただ、私の場合は数学を専門に教える教師です。一緒に転移した先生は、歴史などの社会を教える先生でした。」

「つまり?」

 アルベルト王子がさらに問いを促す。

「その先生が数学を深く理解しているわけではないんです。もちろん基礎は知っていますが、深い知識や専門的な問題には対応しきれないはずです。私はその先生が知らないであろう問題を予想して出題することができますし、逆にその先生が出すような問題であれば、問題なく答えることができるでしょう。」

 優人は自信を込めてそう言った。

 ユリナ姫は感嘆したように口元に手を当て、

「それほど差が出るものなんですね……。それで、具体的にはどのような問題を考えているのですか?」

 と、興味津々に尋ねた。優人は懐から紙とペンを取り出し、何かを素早く書き始めた。周囲の視線が集中する中、彼は静かにその紙を差し出した。そこには整然とした文字でこう書かれていた。

「1からnまでの自然数を全て足したときの値をnを用いて表せ。」

 ユリナ姫、アルベルト王子、そしてアルスタリア王の視線がその紙に集中した。そして、次の瞬間、全員が一様に困惑した表情を浮かべた。特にユリナ姫は首をかしげながら紙をじっと見つめ、「1からnまで……すべて足す?」とつぶやいた。

 優人は紙を手に取り、皆の視線を引きつけながら説明を始めた。

「この問題ですが、『1からnまでの自然数を全て足したときの値をnを用いて表せ』とありますが、最後の数がnという文字だとわかりづらいと思うので、具体的な数字で考えます。たとえば1から100までの数字を全部足したら、いくつになるでしょうか?」

 その言葉に、アルベルト王子が少し考え込みながら言った。

「1から100まで全部足す?それは……ひたすら1+2+3+……と計算するしかないのでは?」

 ユリナ姫も首をかしげながら続けた。

「確かに、順番に足していけば答えは出せるかもしれませんけど、そんなのとても大変です。もっと簡単な方法があるんですか?」

 優人は微笑みを浮かべながら頷いた。

「はい。実はこれをもっと効率的に計算する方法があります。その方法を説明しましょう。」

 優人は一枚の紙を取り出し、ペンを手にすると、皆が見えるように


「S = 1 + 2 + 3 + … + 100」


 と書いた。その横にさらに「このSは1から100までの自然数をすべて足したものである」と説明を添える。

「まず、この式が何を意味しているかはわかりますよね。単純に、1から100までを順番に足していくという計算です。ですが、このままだと非常に手間がかかります。これをもっと簡単に計算する方法があります。それが“足し算の並び替え”というやり方です。」

 彼は微笑みながら、紙にもう一つの式を書き始めた。今度は


「S = 100 + 99 + 98 + … + 1」


 と書き、先ほどの式と並べて見せた。

「今度は逆の順番で数字を並べてみました。ここで、面白いことが起こります。この2つの式を足してみましょう。」

 優人は2つの式を上下に並べながら、ペンで一つ一つ指し示して説明を続ける。

「まず、S = 1 + 2 + 3 + … + 100、これに、S = 100 + 99 + 98 + … + 1を足します。」

 紙の下に


「S + S = (1 + 100) + (2 + 99) + (3 + 98) + … + (100 + 1)」


 と記し、全体を囲んで強調する。

「見てください。1と100、2と99、3と98……すべてのペアが同じ和、つまり101になるのがわかりますよね。そして、このようなペアが全部で何組あるかというと、1から100までの数は100個ありますから、ちょうど100組になります。」

 彼は紙に「S + S = 101 × 100」と書き、その結果を「2S = 10100」と計算して見せた。

「よって、Sは10100を2で割ったものになります。つまり……」

「S = 10100÷ 2 = 5050」

 彼が最後に結論を示すと、部屋には一瞬の沈黙が訪れた。アルベルト王子が最初に声を上げた。

「なるほど!その方法なら、数字がどんなに多くても簡単に計算できる。これは見事だ!」

 ユリナ姫も目を輝かせて優人を見つめた。

「本当にすごいです!ただ足していくだけではなく、工夫次第でこんなに簡単に計算ができるなんて……」

 優人は数学の手法に感心する一同を見て笑みを浮かべながら、さらに一般的な場合について話し始めた。

「さて、さっきの方法を使えば、1からnまでの自然数を足す式も求められます。」

 そう言って優人は紙に新たな式を書き始めた。

「まず、1からnまでを足す和をSと置きます。」

 そう言いながら、紙にこう書き込んだ。

 S = 1 + 2 + 3 + … + n

「次に、これと同じものを逆順に並べた式を用意します。」

 優人はその横にもう一つの式を書いた。

 S = n + (n-1) + (n-2) + … + 1

「ここで、この2つの式を足してみましょう。」

 優人は両方の式を大きな括弧で囲んで指し示した。

 S + S = (1 + n) + (2 + (n-1)) + (3 + (n-2)) + … + (n + 1)

「見てください。足し合わせると、すべてのペアが同じ和、つまり『n + 1』になるのがわかりますよね。そして、このようなペアが全部でいくつあるかを考えると、1からnまでの数は全部でn個ですから、ペアの数はn 個になります。」

 優人は紙に計算式をまとめていった。

 S + S = n × (n + 1)

 2S = n × (n + 1)

「ここで、両辺を2で割ると……」

 優人はペンを走らせ、結論を導き出した。

 S = (n × (n + 1)) ÷ 2

「ということで、1からnまでの自然数をすべて足した結果は、『(n × (n + 1)) ÷ 2』で表されるんです。」

 優人は紙を皆の方へ見せて、さらに補足を加えた。

「これを使えば、nがどんな数でも瞬時に1からnまでの和を求められます。たとえば、n = 100のときはさっきと同じように『(100 × 101) ÷ 2 = 5050』になります。」

 ユリナ姫は優人の説明に聞き入った後、深く感心した表情を浮かべながら言葉を発した。


「そのように考えれば解けるなんて、本当に感動します。優人様の出す問題は、解き方に工夫があって、どれもとても面白いです。それに、わかりやすく説明してくださるのがすごいです。」

 その言葉に優人は少し照れたような笑みを浮かべたが、すぐに首を振った。

「いえ、この方法は私が考えたわけじゃないんです。ただ、昔から伝わっている方法をお伝えしているだけなんですよ。」

 そう言うと、優人は少し遠い目をしながら話を続けた。

「特に、さっきの1から100までを足す問題については、有名な逸話があるんです。ガウスという数学者が子どもの頃に、先生から出された問題を見て、すぐさま解いてしまったそうなんです。それも、さっき説明したような方法で。」

 ユリナ姫は目を輝かせながらその話を聞いていた。

「子どもの頃にそんな難しそうな問題を即座に解くなんて……そのガウスという方、本当にすごいですね。」

 優人は頷きながら微笑んだ。

「そうですね。ガウスは歴史に名を刻むほどの偉大な数学者ですから。」

 優人は少し言葉を切り、ポケットから紙を取り出した。そして、その紙をユリナ姫とアルベルト王子に見せた。

「この『1からnまでを足す問題』は、公式として暗記することも多いので、もしかしたら相手が正解する可能性もあります。そのため、万が一の場合に備えて、もっと難しい問題も用意してはいます。一応、こちらがその問題です。」

 紙にはこう書かれていた。

「aのx乗を微分せよ。」

 ユリナ姫はその紙を覗き込み、首をかしげた。

「これは……さっきの問題とはまったく違う感じですね。『微分』って何ですか?」

 優人は苦笑しながら答えた。

「微分というのは、僕のいた世界でも専門的に数学を学ぶ人しか習わないような内容なんです。少し高度な分野で、『微分積分学』と呼ばれています。この問題なら、相手が数学を深く学んだ人じゃない限り答えられないと思います。でも……」

 優人はユリナ姫とフィーナの顔を交互に見ながら、穏やかな笑みを浮かべた。

「正直、ユリナやフィーナに授業として教えられない問題は使いたくないんです。せっかくなら、ユリナやフィーナにも理解してもらえる問題ならもっと数学を好きになってもらえるかもしれませんからね。」

 数学の話が一段落し、部屋の中に穏やかな空気が漂っていた。優人の説明が終わり、誰もがそれぞれの考えを整理しているようだった。ユリナ姫は小さく頷きながら何かを考え込む表情をしており、アルベルト王子は腕を組みながら深く息を吐いていた。その様子を見て、アルスタリア王が軽く咳払いをして一同の注意を引いた。

「さて、皆の協力に感謝する。この調子で、明日のジーランドの使者とのルール確認にも力を貸してほしい。」

 王は優人に視線を向け、その表情には期待と信頼が込められていた。

「優人殿、今日のように明快な説明と冷静な判断で、この王国に力を貸してほしい。特に明日は重要な場となる。ジーランドの使者が何を言ってくるか、どんな細工を仕掛けてくるか分からない。その場で的確に対応するには、優人殿の知恵が必要だ。」

 優人はその言葉に驚きつつも、王のまっすぐな眼差しを受け止めて深く頷いた。

「もちろんです、アルスタリア王。全力を尽くします。」

 ユリナ姫もその言葉に安心したように微笑み、王の言葉に続けるように口を開いた。

「優人様がいてくださるのは本当に心強いです。明日もどうぞよろしくお願いします。」

 アルベルト王子も少し悔しそうな顔をしながらも、しっかりとした声で言った。

「僕も同席するが、話し合いの中心はアルスタリアの人間が担うべきだという王の判断は正しいと思う。優人殿、頼りにしている。」

 王は全員の同意を確認すると、満足げに微笑み、小さく頷いた。

「では、これで今日の話し合いは終わりとしよう。明日は長くなりそうだ、皆もしっかりと休むように。」

 その言葉で場が解散となり、一同はそれぞれ立ち上がった。部屋を出る際、ユリナ姫がそっと優人に近寄り、控えめな声で話しかけた。

「優人様、本当に頼もしいですね。」

 優人は彼女に向けて微笑み、軽くうなずいた。

「ユリナが一緒だと私も心強いです。」

 そのやり取りを横目で見たアルベルト王子が少し苦笑しながら後ろを振り返った。

「二人とも仲が良いのは結構だが、明日は気を抜かないようにな。」

 そんな軽い冗談が交わされる中、部屋の外に出た一同。月明かりが差し込む廊下を歩きながら、それぞれ明日の勝負への準備を心に決めていた。

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