ダンジョン攻略後
ダンジョン攻略したと言ってもいいのか分からない形で、初めてのダンジョン攻略が終了したその翌日。
「あれが鬼神……」
ダンジョンの目の前で夜を過ごし、今は朝早い。どこから出したのか、気で作られた椅子に腰掛けているエリサがそんなことを呟く。
「あんな子供のような見た目で、それにクリスタルを食べてた……」
「あのクリスタルは鬼人の食事とか?」
「そんなわけないと思う」
ですよね。しかし、すごい音を立てて食べていた。というか、青龍が恐らく一撃で殺されたのだ。もしかして……
「青龍って案外弱かったりしませんよね……?」
「いや、すごく強いよ。ただ、あれが、ちょっと、普通じゃないだけ……」
エリサが下を向いて言う。どこか不安そうな表情だ。
少しの沈黙の間、何かを考えていたエリサが椅子から突然立ち上がった。
「あたし、一度魔人の国に帰ろうと思う」
「えっ……」
「急でごめんだけど、おと……いや、ある人に伝えなきゃいけないことがあるの」
帰る。エリサが急に言ってきた。恐らく魔人の国というのは、ここからかなり遠いだろう。なにせ、ここら辺ではそんな国があることを聞いた事がない。それに、この人がいなければこれからどうしたらいいのか。
「俺は……」
俺はこれからどうしたら……。そんな言葉を言おうと思ったが止まった。俺は鬼神を見た時、少し憧れを抱いてしまった。俺もあそこまで、いやそれ以上に強くなりたい。そう思ってしまった。それに今エリサは言った。魔人の国が有ると。俺はそれらを見て回りたい。この広い世界を見て回りたい。
「ごめん、ほんとに。ちゃんと家族の所に送るから」
「いえ、大丈夫です。俺はこれから旅をします」
こちらも急だった。エリサは申し訳ないという顔から一変、目を見開いて驚いている。
「なんで……」
「これからこの広い世界を見て回りたいんです」
「でも、しばらくは近くにいない。何かあっても守れないよ?」
「俺は強くなります」
エリサは何かを考えるように手を顎に当て、少しして手を叩いた。そして真剣な顔に変わる。
「しばらくあたしは君を守れない。それでもあたしは魔人の国に帰る。理由は詳しく理由を言うことは出来ないけど……。生きて、生きてまた会おう!」
「はい! もちろんです!」
彼女は少し笑ってそう言い、後ろを向き、近くに立てかけてあったほうきを手に取り飛んで行った。
生きていればまた会うことができるだろう。いつになるかは分からない。それでも、もしまた会えるなら、もう一度ダンジョンに潜りふたりで完全制覇しよう。そう心に誓った。
エリサが魔人の国へと飛び立った後、近くの街に行った。ここはダンジョンのから1日歩いた位の距離にある。
街の名前はマルシア。家や店の数もまあまあ多く賑わっている。歩いている人の中には獣人もいた。
俺はそこから少し外れたベンチで腰掛けてひとつの問題に頭を悩ませていた。それはズバリ、お金が無いことである。そもそもこんなことになるとは想像もしていなかった。
この広い世界を見て回りたいというのは本当にそう思った。でも神と同等かそれ以上に強くなるというのは正直無理だと考えている。ちゃんとこれからも強くなるために努力はするが、厳しい。
というかこれは、半分エリサを魔人の国に行かせるために自分に言い聞かせたものだ。彼女は不安そうな表情をしていた。その理由は聞けなかったが何かあるのは間違いない。
まぁ過ぎたことを考えても仕方ないと考え、状況を整理する。
現在持っているお金はゼロ。どうにかして稼がなくてはいけない。
よし、とりあえず動くかと思いベンチから立ち上がると、
「あの魔人……ですか? もし良ければ護衛を頼みたいのですが」
横から声がかけられた。護衛を頼んできたのは獣人の黒いローブに身を包んだ行商人だ。身長がアルスの頭一つ分高く、黒い毛で犬の顔をしている。
「護衛ですか?」
「はい。もしそうして頂けるなら報酬も差し上げます。行き先は、ここからまるまる7日くらい歩くと着く王都スラーウェルです」
「はい任せてください」
金を稼げるチャンスが一瞬できた。それにこの近くに王都があるということまで知れた。
それにしても護衛が必要ということは盗賊などいるのだろうか。
「少しあちらの店に入りませんか?詳しく理由を話したいのです」
そう言いここからすぐ近くの店を指さす。
「分かりました。でも自分お金もってませんよ?」
「いえいえ大丈夫です。私が払うので」
よし! これで何か食べられる。実は丸1日食事をとっていないのだ。
ガッツポーズをとったアルスに獣人の行商人は少し困惑しつつも、店の方に促す。
「では行きましょう」
「はい!!」
勢いよく返事をし、二人は店へと向かった。
店の中に入ると、三つの光る石吊るされていて、カウンターといくつかの机が置かれており、その周りに木製の椅子が置かれてある。
雑な内装だなぁと思いながら、獣人の行商人に促され、カウンターから一番遠い席に座る。
「ご注文は」
「えっと……ダークパンサーの丸焼きで」
「かしこまりました」
カウンターからやってきた店主にそう聞かれ、すぐ横に書いてあったメニューをとっさに答えた。
獣人の行商人の顔が引きつっている。おそらくかなり高いものを頼んだのだろう。
すると、コホン、と咳払いをして彼が話し始めた。
「申し遅れました。私の名前はログダースと言います。あなたを護衛として雇った理由ですが、ここから王都までの道のりでは、かなり危険な魔物が出て来るのです」
「なるほど。ちなみに、どんなものがてるのでしょう」
「そうですね……例えばあなたがさっき頼んだダークパンサーとかですね」
「お待たせいたしました。ダークパンサーの丸焼きです」
そう言い、店主は注文されたものを置いていきすぐにカウンターへと帰って行く。
ダークパンサーの丸焼き。それは人間の体の半分くらいの黒いトラが丸焼きにされたものだった。
「これは子供の個体ですね。大人になると私の2倍以上は大きくなりますから」
ログダースの言葉をあまり聞かず、アルスはダークパンサーの丸焼きに食らいつく。
その肉はとても固く、味もあまりない。おそらくただ焼いただけなのだろう。
しかし、丸1日何も食べていなかったアルスにそんなことは関係なく、どんどん食らいつく。
「よく食べられますね……人が食べるものでは無いと思うのですが……」
ログダースは少し引いている。
すると彼がはっとして、
「そういえばあなたのお名前は?」
「ふぁるふふぇす」
肉を口いっぱいに詰め込んでいるため、何を言ったのか聞き取れなかったログダースが、え? と口からこぼす。
それを見てアルスはすぐさま魔法で水を作り、口の中にある肉を流し込む。
「ア、アルスです」
「アルスさんですか。ではこれから王都までの間よろしくお願いします。報酬はきっちりと支払いますので」
「はい、分かりました」
「では店を出ましょうか。準備にはどれくらいかかりますか?」
「いえ、大丈夫です」
準備するものがないのではなく、出来ないアルスはいつでも準備おっけーだ。
それよりもいつの間にか肉が骨へと変わっているのた。食べるのに夢中すぎて気づかなかった。
「今からすぐに出発しますので、行きましょう」
ログダースがそう言いと、二人は席から立ち上がり会計を済ませて外に出た。
会計をする時、何故か店主が嬉しそうな顔をしていた。




