勝利後
目を覚ましたアルスは全く知らない部屋にいた。
体には所々包帯が巻かれている。
ベットの上に寝かされていることから、魔力切れで意識を失った後、この場所に運ばれたのだと思う。
黒いオーク、ドーハとの戦いに勝った。
しかしそれは一瞬の隙を作ってくれたセナがいてくれたおかげだ。
そして恐らくドーハはアルスのことを舐めていた。
それは魔法をくらっても自身にダメージがほとんどなかったからだ。
その事から、アルスを意識から外しても問題ないと判断したのだろう。
だが実力差はあった。もっと強くならなければ。
もちろん、何度もこのレベルの相手と戦うことになるとは思わないが。
そんな事を考えているとドアが開けられ、一人の女性がタオルを持って入ってきた。
その女性はアルスが起きていることに気がつくと、すぐに大声で誰かを呼んだ。
「アルスさんが目をさましましたよ!」
すると上からドタドタッという騒がしい音が下りてくる。
そして勢いよく扉から金髪の少女、セナが現れた。
彼女は慌てて降りてきたのか髪が乱れている。
そして安心したのか少し顔を緩めて言葉をこぼした。
「良かったー」
その後、セナから意識を失った後のことを聞いた。
アルスとドーハの戦いを見ていた兵士たちが、この宿に運んでくれたらしい。
そしてそこから3日間まるまる目が覚めることがなかった。
その3日間の間にケルベウス王国の兵士たち達がこの街に送られた。
兵士たち達の中には、以前門の前で出会った強面の男もいたとか。
彼は指名手配の男がドーハを倒したことを驚いていたようだが、その功績のおかげか捕えられることはなく、鍵を返すことだけで許された。
そんなアルスが寝ている時の話を聴き終わって、なにか食べようと部屋の扉を開けたところで、
「「「アルス様!」」」
街の人達が押し寄せてきた。
それからベットの上に座り、一人一人から感謝の言葉を貰った。
それは2時間ほど続き、列の長さに絶望しながらも気合いでなんとかした。
感謝してくる人達の中には、物をくれることもあった。
そんな時間を終え朝食の準備されたテーブルにつく。
用意されたものはパンと緑の葉っぱのような野菜、水である。
起きた時には朝だったはずなのに、いつの間にか昼の時刻になっている。
「私強くなろうと思うの」
「うん」
セナが急にそんな話をアルスに持ちかけた。
「やっぱりあんな戦いを目の前でされたら……ね? 足でまといになるのは嫌だから」
今までに見た事のない真剣な表情で言ってくる。
アルスは足でまといではないと返そうと思い、変える。
「いいじゃないか。俺も頑張ってもっと強くなる。あんな捨て身な戦い方はもうしたくないから」
「それじゃあ早速だけど。一日に何回か実際に模擬戦をするのはどうだろう」
「それはありだな。そしてセナには常に魔力を放出してもらいます」
「わかった」
魔力を向上させて置くことも、これからもしまた強い敵と戦うことになった時に必要だろう。
そんな会話をしながら朝食を終える。
「特にやることもないし、北の王国に向かって進みますか」
「よし、そうしようか」
行先は北の国ケルヘウス。
なぜならそこには魔人の領土に行くための船があるからだ。
国内に船があるため、指名手配状態時にはどうしようかと思ったが、それが解除された今怖いものはない。
そういえば、最後ドーハが『あのお方』と言っていた気がするが……いやこういうのは考えるだけ無駄だろう。
アルスは首を横にブンブン振り、考えを消す。
2人は椅子立ち上がり、自分が寝ていた部屋に戻る。
そこで荷物を整理した。
貰ったものの中には食料や服などもあったため、これから準備をする必要も無い。
アルスとセナは荷物を背負い、宿屋の扉から出ようとした時、
「お、もう行くのかい?」
宿屋のカウンターにいた女性に声をかけられた。
「はい。もう特にやることもないので」
「そうかい。ならこれを持っていきな。鍛冶屋のおっちゃんが今さっき持ってきたもんだ。自分で渡せばいいのにねぇ」
そう言われ紫色の布を被った、何やら細長いものを受け取る。
その布を取ると、それは刀身が赤紫に輝く刀だった。
「魔法を込められる刀とか言ってたかねぇ。それとまた数ヵ月後に来い。来れるときでいいからって言ってたよ」
「ありがとうございます」
数ヵ月後にまたなにかあるのだろうか。
まぁ来れる時にでいいのなら、また今度ここを訪れたときでいいだろう。
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい」
そう言って宿屋から街を抜け、北の国に向かって歩き出した。




