75閉 会
「いってきま〜す!」勢いよく玄関を出る。
片手に持ったデザインケースが邪魔だと思いつつも、筒状のものがどうしても買えない自分の変な信念に苦笑する。
最も、通勤時間のピークはとうに過ぎているから電車の中でもそれほど邪険にはされないだろうが。
あの日から、異世界から還ってきた日から2日。今日は金曜でまたまた上月のところへ遊びに行く予定だ。というか、今日は3限だけで昨日死にそうになりながら仕上げた課題を提出すれば、あとは自由の身である。
学生万歳だ。
両親には酷く叱られたが、上月の父ー彼方さんが取りなしてくれたのでどうにかなった。それに、涼子さんも。男が無断外泊することはそれほど目くじら立てることでもないと思うが、それだけ自分が愛されてるってことなんだろう。
ああ、生きているってすばらしい。
真っ青な空を見ながら、ひしひしと幸福に浸る。
気づいたら、ホテルだった。
涼子さんには怒鳴られ、泣かれ、酷く疲労していたらしいが、近所の病院で点滴を受け、一晩泥のように眠ったらすっかり気分が良くなった。
そんな時に課題の締め切りを思い出し、慌ててとりかかってできたのが昨日ーいや、今朝の4時。我ながら1日で課題をこなすとは冴えている。ーーまぁ、出された日に着手すればいいのだが。(ちなみに、上月は既に提出済みだ。)
財布もあったかいしーただし、そのバイト代金は今夜上月に奢る飯代に変わるだろうがー私は上機嫌だった。
点滴の間に聞いた話によると、私たちをこちらへつれてきたのは竜神だが、その出口で網を張って私たちを捕獲したのが彼方さん、つまり上月の父親らしい。
そのサポートに、派手な高校生がいたが(彼も血縁者らしい)ひさしぶりに涼子さんの旦那さんー茜也さんにも会えたのは嬉しかった。
竜はどこへ行ったのか。それはわからないが、なんとなく、この空のどこかで、八百の神とやらと仲良くやってそうな気はする。
・・・・・日本の神様ってなんとなく、親しみがあるからなぁ。。。(古事記は抜かす。ーあれは怖い。)
神々の戦い、とかになってないあたりは、大丈夫なんだろう。
さて、問題はーーー。
大学の門をくぐると、こちらに気づいた男。
「上月。」
上月と会うのは2日ぶりだ。
神経質そうな空気をまとわせて私の顔を確認するとその空気が緩やかになる。
「堤。」
「どうしたんだ?今日は何も取ってない日だろう?」こいつは私と違って優秀なので、取れる単位は早々に取得してしまっている。一体あのカリキュラムでどうやったらそんなに早く空ける時間を作れるのかわからなかったが、ひとまず、今日は彼は何も無い日だ。つまり、夕方まで私と会うことはないはずなのだ。
「いや・・・用があって。」そう歯切れが悪く教務課の建物を見る。
「ふーん。・・でも俺これから3限あるから、お前どーする?」言外に待ってなくてもいいぞと言う。
「いや、図書館に用があるから、終わったらメールくれ。」
「いいけど、3限終わったらこれ提出に行くから、遅くなるぞ?」
「ああ。わかった。」そう言って私の肩をたたいてから図書館へ向かう。
「・・・・・・・困ったもんだな。」
私はつかまれた肩をなでつつ、その姿を見送った。
上月に一つの変化があった。
私が彼と異世界から還ってきて、毎日。電話がある。
・・・・毎日だぞ?
恋人ならわかるが、野郎だぞ。
ちなみに、以前はそんなやり取りは無い。お互いにそんなに電話で話す方ではなかったし、用件のみでいいという考えから長電話なんかしたことがなかった。
最初は課題のことを聞いてきたので、普通に会話していた。だがどうにも様子が変だ。そして、それが何が原因であるかわかってからは、どうにも追求ができないでいる。
つまり、彼は私ー俺が存在することを確かめているのだ。
思い出すのは私が役に立たなかった間に起こったこと。
私を石から解放するために行った行為が、今も彼を苛ましている。それも無意識に。
彼は元来そんな心遣いをする人間ではない。
それが、おかしいくらいに私の無事を確認している。つまりー夢にでも見るのか。
どうりで顔色が悪いわけだ。
「困ったもんだな・・・」これは涼子さんに相談するしかないか?ーいやそんなことをすればあの陰謀人妻の思う壷のような気がする。
思えば彼には大切な者が少ないのだ。だから私一人であんなにも狼狽える。それは、嬉しいことではあったが彼の為には良くない。
そこでチャイムが成り始め、私は慌てて講義室へ走った。
長らくお待たせしました。。。また体調が優れなかったため遅くなりました。
エピローグまであと少しです。(上月さんの変わり様に作者も困っています。いやホント。)でもこの話はあくまでシャルダンBLなので、15とか18Rとかにはなりません。あしからずー。(描けるけど。)